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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部
官能リレー小説 - SF

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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部 110


その言葉に啓太と操は動揺を隠せなかった。
啓太は自分のように怪人の存在を認めてくれるものの存在に対して。
操はたとえ嘘とは言え、何の逡巡も見せずに啓太の質問に答えたことに対して。
啓太は考える。この人を信じていいのかどうかを。
今までの正義の味方は怪人を殺すことにこだわっていたり、自分の力を誇示するもの、自分の地位を上げるのに必死なものなど、まともな話し合いさえできないものばかりだった。
だが。目の前にいるこの男だけは違う。
なぜなら啓太が怪人に対して思っていたことと少なからず共通するものがあったからだ。
今啓太の心の中では、正義の味方=油断ならない敵の絶対の公式に新しい答えが見いだされようとしていた。
一方の操はこれ以上ないほど焦っていた。
この男はマズい。自分の主人と相性が悪すぎる。操の知る限り最強最悪の敵であると判断していた。

「う、うそをつくなっ!
 そんなこと、本気で思っているわけがないだろうっ!?
 オレは知ってるんだぞ!
 怪人と知るなり、いきなり殺しに来た正義の味方やお遊びのように怪人たちを殺す正義の味方を!」
「・・・確かに、キミの言うとおりだ。
 残念ながらヒーロー協会には正義の味方でありながら、キミの言うような者たちは存在する。
 だがこれだけは信じてほしい。正義とは名ばかりの組織の中にも、ちゃんとした正義の味方も存在するんだ」
「うそだっ!うそだうそだうそだっ!」

狂ったように首を横に振ってゴルディアースの言葉を振り払う啓太。
啓太は恐れていた。目の前の男の心に沁み込んでくるような語りかけに。
まるで父親が子供を諭すかのような、慈愛に満ちたその言葉を。
怪人となってから間もないとは言え、啓太はこれまでにさまざまな戦いを通してヒトの悪意というものを目の当たりにしてきた。
だからこそ啓太にはわかる。
この男の言葉には人をおとしいれようとする意志などない。
ただ自分と話をしたいだけなのだ。
だからこそ恐ろしい。だからこそ怖い。
今まで啓太が守ろうとしていたものを、すべてさらけ出してしまいそうで。
取り返しのつかないことをしてしまいそうで。
それほどまでに啓太の心は傷つき、ゆがんでしまっていた。
それだけにこんなまっすぐで素直な心を見せられて啓太は動揺していた。
この人なら信じていいかも・・・と心のどこかでもう1人の自分がつぶやいている。
でもそれは絶対にやってはいけないこと。
もし目の前の男を信じて、裏切られでもしたら。
間違いなくアパレント・アトムは壊滅の危機に瀕するだろう。
啓太を愛する者、守ろうとするもの、血のにじむような努力と苦難の果てに手に入れた楽園が潰される。
だから啓太は必死になって開きかけた心の扉を無理にでも閉じようとする。
信じたい。信じてはいけない。
もうこんな苦しい思いをしたくない。そのためにすべてを失うつもりか。
そんな2つの心の葛藤が操の身体にハッキリと伝わってくる。

(啓太様・・・!)

愛しい主人の苦しみに、従僕である操の心もまた苦しみに悲鳴を上げる。
だがそれは持ち主に尽くそうとする道具としての矜持からだけではない。
初めて自分たち怪人を人間として扱ってくれたものに対する、説明できない何かであった。
そしてその『何か』は、操に怪人としてあるまじき行動をとらせた。

「オレは・・・っ!?」
「・・・!」

啓太が何事か叫ぼうとした瞬間、その目から光が消えた。
その異常を敏感に感じ取ったゴルディアースはすぐさま警戒態勢に入る。
見た目には何も変わったように見えない。
だが見るものが見れば気づくだろう。
彼の穏やかなまでの気配が、全く違うものに変化していることを。
それに気づいているのか、いないのか。
啓太の目に再び光がともった。
恐れと迷いを含んだ先ほどとは違う、圧倒的なまでの怒りと憎悪を宿して。

「・・・貴様に・・・!貴様などにこのお方を渡すものかっ・・・!!
 この方は我々の・・・私だけの、モノだっ!」
「・・・?それはどういう・・・、っ!?」

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