PiPi's World 投稿小説

世界の中心で平和を叫ぶ。第3部
官能リレー小説 - SF

の最初へ
 107
 109
の最後へ

世界の中心で平和を叫ぶ。第3部 109

平常の仮面がはがれ、警戒心をあらわにする啓太に鬼瓦警部―――否、ゴルディアースは軽い口調で語りかける。
まるで牙をむいて威嚇する野良犬をあやすかのような、そんな感じで。

「ふむ。怪人の割にはずいぶんとメンタルが弱いみたいだね。まるで人間みたいだ。
 普通怪人になる人間は自由意志をはく奪されて使い勝手のいい『お人形さん』にされるものなんだが・・・。
 どうやらキミは違うみたいだ。でもおかしいな?
 自由意志を持ったまま怪人になれる人間なんて、それなりの地位にいる幹部クラスくらいのものなのに。
 キミのまわりで怪人関連の事件が起こり始めたのはそんな前からの話じゃない。
 これっていったいどういうことだろうね?」
(啓太さま!冷静に!落ち着いてください!これは誘導尋問ですっ!
 ヤツの言葉に耳を貸してはいけません!敵は啓太様に揺さぶりをかけて情報を引き出そうとしているんですっ!)

啓太の心の動きを敏感に感じ取った操が、必死に啓太を落ち着かせようと声をかける。
しかし操もまたひどく動揺していた。
啓太の正体を見破ったのもそうだが、もっともされたくなかった攻撃を仕掛けられていたのがもっとも大きい。
精神攻撃。それは『人間』である啓太にとってもっとも苦手とする弱点であった。
もともと啓太は一般人。
怪人を人間と同じように扱うほど優しい性格。
それだけに啓太は厳しい怪人の世界に心をすり減らし、情緒不安定になることが多かった。
組織の長としての自覚が芽生え、クロックや夢たちからその訓練を受けているとは言え、その心はまだまだ幼く弱かった。
そんな啓太に言葉だけで攻撃するのは実に有効な手段だ。
何しろ相手の反応を見るだけでいろんな情報が聞き出せる。
挑発に乗ってくれば簡単に仕留めることだってできる。
感情的になって突っ込むバカほどやりやすい相手などいないのだから。
そう。だからこそ、今の状況はマズい。
何とかして今の啓太を押さえなければならない。
だがどうやって啓太を止める?
力ずくで止めようにも啓太には『絶対命令権』がある。
それにもし対処を間違えれば事態はさらに悪化する。
間違いは許されない、正真正銘の1発勝負。
啓太の護衛となって以来、操はその真価を問われていた。
しかし相手は間違いなく格上のゴルディアース。
悪の組織なら名前くらい誰でも知っているほどの有名人・・・いや、要注意人物だ。
うっかり彼に見つかってしまったために、壊滅させられた組織は数知れず。
彼我の実力を判断できずに逮捕・死亡したものは星の数に上る。
先ほど真価を問われていると言ったものの、おそらく操が十全の力を出しても切り抜けられるかどうかわからない相手であった。
啓太と操が警戒する中、鬼瓦ことゴルディアースは余った左手で捕縛されたネットワーク・フェアリーをつかみあげる。

「そんなに警戒しなくてもいい。ほら、お目当てのものもちゃんと君に返しておこう」

そして驚くべきことに世界最悪の犯罪者の代名詞、怪人をいとも簡単に啓太の元に投げ渡したのだ。
まるで友人に缶ジュースを投げ渡すような気軽さで。
程度の差こそあれ、正義の味方にとって怪人とは滅ぼさなければならない『悪』である。
それを何もしないで持ち主に返すだなんて。
啓太は今まであったことのないタイプの正義の味方を前に、混乱した。
だからこそ、啓太は思い切ってゴルディアースにその意図を聞いてみることにした。
普通こんな状況で相手の意図を聞くなんてことはない。
それは詐欺師に『あなた、どうやって私をだますつもりなんですか』と聞いているのと同じことだ。
そんな質問に答えるヤツなどいるわけがない。
だが。荒事に対する経験不足と抜け切らない一般常識を持つ啓太には、まだそこまで考えが及ばなかった。

「―――どういう、つもりだ?アンタら正義の味方にとって怪人は滅ぼさなきゃならない悪なんじゃないのか?」
(啓太様!いったい何を・・・!?)
「力だけで滅ぼせるのなら誰も苦労はしないさ。
 世界最悪の犯罪者と言われる怪人にも、話せばわかるヤツだっている。
 私は君もそうだと勝手に信じているだけだよ」
「「――――――っ!?」」

SNSでこの小説を紹介

SFの他のリレー小説

こちらから小説を探す