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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部
官能リレー小説 - SF

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世界の中心で平和を叫ぶ。第3部 108


(―――啓太様)
「・・・わかってる。けど、行くしかない、だろ」

予想通りの答えにパラサイトはそれ以上何も言わなかった。言ってもムダだからだ。
仲間の死を目の当たりにして、啓太の中で何かが大きく変わった。
その結果、非戦闘型とは言え、怪人であるネットワーク・フェアリーを苦も無く生け捕りにするという劇的な成長を遂げた。
しかしどれだけ強くなっても、組織の長らしくなっても。その本質はそう簡単に変わるわけではない。
結局啓太はどこまで行っても一般人の価値観を捨てきれない。
怪人を人間と同様に扱い、殺したり傷つけたりすることを良しとしない。できない。
まして今回の相手は自分の部下だった怪人だ。
たとえ仲間を殺し、自分も殺そうとしたとは言え、それが正気でないとなればなおさらだ。
操もそんな啓太の優しさは嫌いではない。
嫌いではないが危ういとも思う。
敬愛する主人がその優しさのために傷ついたり死ぬような目に遭うくらいなら、いっそ捨ててくれたほうがいいのに。
彼女は啓太の中で数えるのもバカらしくなったため息をつくしかなかった。
呼びかけに応じた啓太に、鬼瓦ことゴルディアースは黙って彼がやってくるのを待っていた。
人質のネットワーク・フェアリーを使ってもっと早く来いと脅したり、その場で殺したりすることもできたのに。
紳士的、正々堂々といった言葉では片づけられない余裕・・・否、威厳や風格が啓太は漠然とだが黄金の人物がどこの勢力の所属か理解することができた。
しかしだからと言って油断はできない。
相手がどこの勢力だろうと、敵であることに変わりはないのだから。

「―――遅かったな。一般人の目につくのが気になったか?」

指示通り謎の人物のいる民家の屋根までやってくると、開口一番にそんな軽口を言った。
一方の啓太は何もしゃべらない。
ヘタにしゃべってよけいな情報を与えるようなマネは避けたかったのだ。
それはこれまで受けてきた訓練で、夢やクロックたちから口を酸っぱくして注意されてきたことに1つでもあった。
だが相手は百戦錬磨の猛者。
だんまりを決め込むくらいでどうにかなる相手ではなかった。

「何だ、だんまりか?
 こっちに情報を与えまいと警戒するのはいい判断だが、ちょっと考えが甘いんじゃないか?
 他の連中を倒すときも妙に手間取っていたし・・・。
 おまえ、あんまり現場に慣れてないだろ?」
「・・・っ!」
(啓太様、落ち着いて!ヤツはカマをかけて啓太様の反応を見ているんです!
 今は鎧を着ていますからわかりにくいはず・・・。
 大きな反応をしなければ何もわかりはしません!)

パラサイトこと操のアドバイスのおかげで何とか平静を取り戻した啓太。
しかしその裏では操もそれなりに動揺していた。
彼女を動揺させたのはカマをかけに来たことではない。
初見でいきなり啓太が現場に慣れていないことを見破ったことだ。
啓太はアパレント・アトムの長にふさわしい人物となるよう、クロックと夢から戦い方や組織運営についてなど、さまざまなことを教え込まれている。
だがそんなもの、現場では運動する前に行う準備体操・・・ウォームアップみたいなものだ。
現場では訓練では行われなかったアクシデントやケースが当たり前のように次々とやってくる。
それゆえ新兵はどうしてもその対応に遅れたり、ぎこちなくなったりするのだが・・・。
まさかそれを初見で見抜かれるとは思ってもいなかった。
数こそ少なくても、啓太は実戦経験も積んでいるのに・・・。
操は啓太の中で確信する。目の前の人物がかなりの危険人物であるということに。
悪の組織ならば長か幹部クラス。正義の味方ならベテランか、それなりの役職に就いている大物だろう。
いざとなれば自分が犠牲になってでも啓太を守らねば。
操は覚悟を決めて啓太と謎の男とのやり取りを見守った。
緊張する空気の中、最初に動いたのはやはりゴルディアース。
彼はこの緊迫した空気をまるで感じていないかのような気軽さで啓太に話しかけてきた。
その言葉にとんでもない爆弾を乗せて。

「おいおい、そんなに警戒するなって。
 オレは別に君を捕まえに来たってわけじゃないんだからさ。
 なぁ、『乱宮啓太』くん?」
「「――――――ッ!!」」
「ん?どうした?オレが君の正体を簡単に見抜いたことがそんなに意外だったのか?」

しまった。2人は心の中でそうつぶやくも時すでに遅し。
だがそれも無理もないことだろう。操ですら動揺を隠せないほど、破壊力のある質問だったのだから。
いや、動揺を通り越してパニックにすら陥りかけた。
カマだとしても、いくらなんでもピンポイントすぎる。
この男は―――鬼瓦警部はいったい何を根拠にそこまで見抜いたのか?
まだ言葉しか交わしていないのに、2人は彼に底知れない恐怖を感じずにはいられなかった。

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