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悪魔を孕んだ聖母達
官能リレー小説 - SF

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悪魔を孕んだ聖母達 12

「いやなぁ・・・熊が里の方まで降りて来てるって事で山狩りさ」

心底うんざりした顔で言う兵士にわざと驚いた顔で応じるゲンナディーだったが、『山狩り』と言う言葉に察するものがあった。

彼ら政府が山狩りと言って兵士を駆り出すのは、殆どが秘密の作戦行動案件だ。
末端の兵士に情報を与えない事で情報統制するやり方で、秘密裏の逃亡者の捜索やレジスタンスに対する隠密作戦とかで使われるだけに馴染みのある言葉だ。
レジスタンスのアジトは逆に街の中にあるので、山狩りはほぼ逃亡者狩りであろう。
ならばあの暗号文はビンゴと言った所だ。

「ひぇえ、熊かぁ・・・奥に入れないなぁ・・・」
「そうするといいぜ、隊長によればデカいのらしいからな」

兵士の言う隊長だけは情報を知ってる可能性もあるが、大部分の情報は伏せられているだろう。
政府にとっては、彼らは使い捨ての駒に過ぎない。

そんな事を伺っている素振りを見せずにいるゲンナディーだったが、兵士は気づいていないようだった。
これなら無事に彼らから離れられそうだ。

だがその兵士はどういうわけかゲンナディーについてくる。
ゲンナディーはまずいと思ったが、とりあえずはその兵士をギリギリまで引き付けておくことにした。

「ついてきているが単独行動はまずいんじゃないか?」
「今は各自で分散して探索している」
軍隊が個人でバラバラに動き回るというのは考えにくいことだった。混乱して同士討ちにでもなるのがわかりきっている。
ゲンナディーは思案しつつ感覚を頼りに沢を探す。
無論目的地へは少し遠くなるが、本職『猟師』のゲンナディーにとって山歩きはどうと云う事も無い。
一瞬、肩に担いだ猟銃使って本当に狩りでもしようかと考えたが、銃声を出すのは色々と問題がある。
この兵士が居るから狩りだと分かるだろうが、恐らく部隊の隊長はいい顔しないだろう。
と言うか、この兵士が付いてきてるのも隊長から監視せよと命令されているのかもしれない。

ならば少し切り替えて沢の方に向かったゲンナディー。
お目当ての沢は比較的すぐに見つかり、綺麗な小川が流れている。

「こんな所に川があるのか」
「ああ・・・猟銃撃ったら兵士さん達に迷惑がかかるからさ・・・今日は魚釣りでもするさ」

手ごろな岩に腰掛け、釣り道具を出す。
いるかどうか迷った釣り道具だったが、持ってきて正解だったようだ。
これで兵士が去るまで持久戦だ。

そうこうしているうちにその兵士は泳ぐために沢に飛び込みたいと言い始めた。
沢を下って行けば例の目的地に直接着く。あまり考えられない事ではあるがその兵士がそこまで行ったとしたら厄介だ。
「任務中だろう。泳いだりしていいのかよ」
暇だしなと笑った兵士にゲンナディーは呆れた顔をしたが、これは余りいい状況じゃない。
完全に監視目的のようだ。

どうしたものかと思案しようとしたゲンナディーだったが、兵士が耳を押さえて離れる。
後ろを向き小声で話している所を見ると、隊長からの無線だろう。
警戒しつつも無線が終わるまでじっとしていた。

「熊でも見つかったのかい?」
「ああ、そうみたいだな・・・戻れと命令があった」

兵士の答えに己の疑惑は晴れた気はしたが、これが本当にゲンナディーの目的のものと合致すればマズい。
だが、そう言って離れた兵士が向かったのは、沢の上流の方・・・
逆の向きだ。

その事にホッとしながら、ゲンナディーはゆっくり釣りを続ける。
兵士が此方を引っ掛けるつもりで離れた可能性だってある。
気配は消えたのだが、警戒しつつ魚を数匹釣った。

「まあ、今日のアガリはこんなものでいいか」

誰に言うでなくそう言ったゲンナディーは、ゆっくりと沢を下って行ったのだ。

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