PiPi's World 投稿小説

地下水路
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 -1
 1
の最後へ

地下水路 1

阿流陽の地下水路、複雑な迷宮の一隅に小さな明かりが灯っていた。

地下はいわくつきの者が出入りする場所と言われていた。
どこか遠い国の地図やどんな効果が出るかも分からないような粉薬が堂々と並べられ、売り買いされていた。
しかしそれも変わりつつある。
空間に歪みが生じてきているのだ。妖力が満ち、禍々しい雰囲気がある。
それだけではない。地上の方も見苦しい小競り合いが頻発し、荒れ果てている。

だからこそ地下水路に小さな明かりがあるというのは本来ならあり得ないことだった。
 
ビシャン……ビシャン……と水音を立てて、幾人かの男らが地下を探索していた。
毛の塊と見まごうばかりの伸ばしっぱなしの風体であり、碌に洗われてもいない為に脂と泥でガチガチに固まっている。
着ている物もまさに襤褸であり、死体から剥ぎ取ったのか血と死臭が漂う継ぎ接ぎの袷であった。
各人の腰や背中の得物は大半は錆びて使い物にならなそうであるが、それぞれ一つは研がれた業物を携えている。
先頭を行く一際体の厚い男は、戎凱という賊の頭であった。
筋肉と脂肪を鎧の如く纏い、褌の下の毛むくじゃらの尻は張りと重圧に満ち満ちておった。

「……あぁん? こんな外れに人でも居ったか?」

彼らは世間一般的に言われる賊であり、弱者や善人を食い物にしてきた曰くつきの悪タレである。
だが武力がものをいう御時世。地下水路から様々な物を手に入れるのは、腕の立つ者らの独壇場であった。
戎凱と手下の男達が誘われるように明かりに向かう。

そこは古びたランタンが数個並べて吊るされ、机がポツンと置かれていた。食料もいくつか転がっている。
その奥には褌だけを身に付けた少年が立っていて、戎凱達を見ていた。
少年は戎凱達が声をかけるより先に逃げ出していた。
 
「ちっ、見切りの早い餓鬼だ……」

囲んで誰何する間もない撤退に、感心交じりの悪態を吐く。
食料はどこでも、それこそ地下水路ですら見慣れた一般的なものだ。
しかし机の上には、場違いな看板が置かれていた。

『 万屋 天上天華 』 『探索・人探し・護衛・食事・宿泊 何でもいたし□』

どうやら少年は受付か見張りだったようで、通路が奥へと伸びていた。
はたして、鬼が出るか蛇が出るか。戎凱は愉快そうに口の端を上げ、手下らに進撃の合図を送った。

賊とはいえ、この時代では商売も営んでいるのが普通だ。
売り物を育てるにも集めるにも、武力が無ければ食い物にされてしまう。
自然と商売人は私兵を囲うようになり、その武力を持って財貨を手に入れていった。
逆に武力を持つ賊らも、奪い取ったものを物々交換する流れから商売の一部に組み込まれていったのだ。
戎凱も信頼する部下の1人に店を任せ、自ら売り物を求めて地下水路を歩き回っていたのである。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す