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Absorption
官能リレー小説 - ファンタジー系

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Absorption 3

宮子によれば、それは初代理事長の時代までさかぼる話であった。
ある晩に一人の女学生が寮から連れ去られ、そして翌朝礼拝堂の鉄格子の前で発見されていたと言うのだ。
幸いなことに、本人は特に大けがをしているわけではなく命に別状はなかった。しかし、その首筋には二つの噛み跡、そして爪でひっかかれたような傷が見られたのだ。それを見た学生たちは、これを吸血鬼の仕業であり、そしてそれが学園内のどこかに潜んでいると考えた。
被害者本人も精神的に打撃をうけた故に、それから日が立たぬ内に退学してしまった。
そしてそれだけでは終わらず、その後も10年ごとにまったく同じシチュエーションが発生していたというのだ。



「でもちょっと、ありきたり・・・じゃないかな?」
美雪はそんな気もした。
「ま、それはあるかもね・・・」
恵梨香はコップの水をぐいっと飲み干しながら言った。
「そういえばさ、吸血鬼は純潔な異性が好みっていうらしいね、あと若いのがいいとか?」

「でも昔ならともかく、今だったら『吸血鬼なら襲われてみたい!』なんて乙女チックなことを考える子もいるんじゃない?」
「たしか、血を吸われる相手には快感があるらしいんでしょ?」
「それ本当?」
次第に盛り上がる少女たちだったが、ふと一人が美雪の首元の傷に気づいた。
「ね・・・ねえ、美雪、その首の傷、どうしたの?」
「え?首?首がどうかしたの?」
「いや、首にくっきりと・・・その・・・ひっかき傷が」
そう言って一人がポケットから小さな鏡を出し、美雪に手渡す。そしてそれで自分の首を確認した瞬間、美雪は息をのんだ。
「これ・・・」
「まずくないかな?これ・・・」

「美雪、あなた・・・マークされて・・・?」
「で・・・でも、どうして!?朝はなかったし、怪我をした覚えなんて!!」
泣きそうな声で取り乱す美雪。
「お・・・落ち着いて!美雪!!きっとどこかで擦っちゃったのよ!それにこの話だってただの噂に過ぎないから!!」
「そ・・・そうだよね・・・」
小刻みに震える美雪。
「(なにこれ…可愛すぎる)」
「(確かにこの子なら吸血鬼も襲いたくなりそうね・・・)」
じっとおびえる美雪を観察するクラスメイト達。
「ま・・・まあ!寮の部屋はみんな一緒だし今日は固まって寝てあげよ!」
恵梨香が気を使って仲間に呼びかける。
「そ、そうだね!」
「あ・・・ありがと・・・」
涙目ながらもすこし笑顔に戻った美雪だった。


「このままじゃ、くやしい。まるで刑務所じゃない」
「だから、団結するの。脱獄はできなくても、いろんな物を手に入れたり代用品を作って隠し持つの。シスターにも従ってるふりして、油断させて弱みを握ってやればいいのよ」
「そうね、助けあおう。ここはクリスチャンの学校だけど、別の宗派がいいわね。押し付けがましい権威とか純潔とか嫌。保管庫や図書室で別の福音書やもっと自由で独自の教義のを探しましょ」
「それ、いい!この際、吸血鬼でも魔女でもゾンビでも理事長と戦えれば味方」
「好きなモノを食べたいし、ショタとかやおいも楽しみたーい」
仲間だけあって、誰も学園と理事長の方針に追従しようという子は一人もいなかった。おそらく寮の中には何人かはいそうだけど、そのうち思い知らせればいい。
力を合わせれば、誰も抑圧されず人知れず退学しなくていいようになる。いずれ寮生の意思を統一して寮長も言いなりにする方法もきっと見つかる。
寮の寝室に戻ると、恵梨香らは寝巻に着替え、ベッドのマットを床に敷き詰めた。無論本来ならご法度であるのだが、まだ怖がっている美雪のために今日は固まって寝てあげることにしたのだ。
「みんな、本当にごめんね!?」
「気にしないで、でも美雪、やっぱりこういう話には弱かったみたいね」
「あたしはどんな化け物が出てきても一発でやっつける自信はあるけどね」
剣道部員である恵梨香は、自分の素振り用の木刀を見せた。
「なんか出てきても大丈夫よ、みんなついてるし!」
「ありがとう・・・」
時計の針が22時を示した時、部屋の電気が消えた。消灯時間のため外から消されたのだ。
「ホント、刑務所ね、いやそれ以下よ」
「あの理事長、厳格であるように見えて、実は私たち女子を束縛するのが目的なんじゃない?」
「かもしれないね・・・」
部屋が暗くなっても、しばらくは小声で話し合っていた彼女らだが、いつの間にか眠りについていった。

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