元雌豚の世界救済記 5
『汝・・・剣ヲ振ルエ・・・殺シ尽クセ・・・』
物騒な事を囁く声・・・
そして、あたしの手にはあの剣がしっかり握られていた。
その剣は両刃の剣で刀身は結構幅広い。
その幅はあたしの知っている騎士の剣の倍ぐらい、長さも立てるとあたしの胸の所を柄が飛び出るぐらいのサイズだ。
それなのに振るってみると、全く重さが感じなかった。
まるで腕の一部分のように感じたぐらいだった。
それにこれだけの肉を斬ったにも関わらず、脂や血糊は一切ついてない。
鏡のように美しく研ぎ澄まされた刀身は使う前と一切変わらなかった。
柄は金属製だと思うけど触り心地は悪くない。
片手で簡単に振るえるけど、柄は両手でも持てるぐらいの長さがあった。
赤い宝石がはめこまれているけど、それはピアスについてるのと同じ材質のよう。
しかし、この柄・・・
デザインがなんと言うか、男性のアレの形だ。
それを見てあたしの身体は少し疼く。
でも、それよりやらなきゃならない事がある。
そう・・・
ナズサを探さなきゃならないんだ。
「……すぅ…はぁ……」
大きく息を吸って、吐く。
ともかく。門番であるオーク達は殺せた。
皆にその報告をしなくちゃ。
そして、ナズサに謝るんだ。
最近のあたしは頭がおかしくなってた。
もう死にたいって。ナズサと一緒に死ねたら、もう未練なんてないって。
ほんと馬鹿げてた。
どれだけ、ナズサを悲しませたか。
想像するだけで自分が恥ずかしくなった。
ーーーーーー
「そろそろ、決行する?」
暗い面影を残すナズサに、私は問う。
「……………………」
「そう……」
長い沈黙だった。
「……すまないね。私はここにいるよ。お墓ぐらい、作ってやらないと。」
「良いのね?」
「ああ。」
作戦内容。
ナズサの死を利用して脱出する。
オークは頭が悪い。人間のメスを犯した後や、人間を食い殺した後などは、眠る傾向にあるのだ。
以前、サユリと似たようなケースの時に、死を覚悟して偵察を行った者がそう証言していたから。
サユリを食い殺すか犯した後、オーク達に隙がつける。
その間にこの洞窟から逃げ出せるかもしれないと、ナズサから提案を受けたのだ。
早急に洞窟から逃げ出すメンバーを募ったところ、その数は半分にも満たなかった。
理由は、失敗した時のリスクが大きいといった不安から参加しない者が大半だったが、このまま雌豚として精液を啜りながら生きていきたいといった者もいた。
でもそれでいい・・・
あたし達は決行したのだった。
そして、オークの前で様子を伺うあたし達・・・
でも、あれだけ死にたいと言ったサユリが震えて後ずさりしていた。
「だめ・・・できない!・・・こわい!、こわいっ!・・・」
本当にこの子は駄目な子だ。
彼女を見る周囲の視線は当然冷たい。
あたしも怯えて震える彼女を見ながら、非難する訳でもなくぼんやり考えていた。
「じゃあ、あたしがやるわ」
「ちょ!、ミリィ!・・・どう言うつもり!!」
ナズサが声を荒らげるが、あたしはナズサの口元を手で抑えて、声を低めて言う。
「サユリは自分が可愛いだけの子、できる訳ないじゃん・・・それに、やりたいと言う人が他にいる?」
あたしの言葉にナズサは黙る。
周囲の子も何も言わない。
そりゃそうだ、確実に死ぬんだもの・・・
そして、サユリの瞳は怯えつつも期待の光・・・
この子はいつもそうだ。
本当に自分が可愛いだけだ。
その苛立ちがあたしをヤケにさせたのかもしれない。
「じゃあ、私も残るよ・・・」
重い口調のナズサの言葉。
一瞬全員戸惑い、また沈黙・・・
「ミリィが死を選ぶなら私が見届ける・・・」
決意の表情だった。
あたしも何も言えなかった。
でもあたしは言う。
「そろそろ、決行する?」
それに全員が無言で頷いたのだ。
・・・恐らくナズサの性格だ。
あたしが犯され、瀕死になるまで傷めつけられ、メンバー達が逃げたのを確認してオークに身を捧げたに違いない。
そう言う子だ、ナズサは・・・
あたしは洞窟前のオークの住居あたりに向かった。
今のあたしなら、あいつらを殺し尽くしてナズサの亡骸ぐらい回収してやれるかもしれない。
そう思いそこに行くと、一面血の海・・・
そして飛び散った肉片・・・
その中央には槍を杖代わりに呆然と立つナズサがいたのだ。