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野望の王国
官能リレー小説 - ファンタジー系

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野望の王国 1

かつて強大な国力で栄華を極めた王国。
建国より四百年を経て、その姿はさながら力なく歳を経た老人のようであった。
栄華の象徴たる都は古び、活力を失い。
王国の子達である諸侯は、王国の威光を省みること無く互いに権を争っていた。

その王都・・・
すでに大半を占める貧民街の一角。
俗に言う娼婦街で1人の赤ん坊が産声を上げた。
母親は娼婦。
父親は誰であるか分からない。
このような赤ん坊が産まれる事等珍しくはない。
だが、その赤ん坊を取り上げた産婆は、赤ん坊の手の甲を見て声を上げた。

「この子ったら『紅い星』を持ってるわ!」

産婆の言う赤い星・・・
それは赤ん坊の手の甲にあった星形の痣。
建国王がこの星を持っていたとされ、別名『王星』と呼ばれる痣。

「娼婦の・・・子なのにねぇ・・・」

疲れ果てた中に喜びと悲しみを混ぜた様に母となった娼婦が呟く。
そう、所詮娼婦の子だ。
この先生きて、まともな職にありつけるかの方が問題なぐらいで、王星の痣だろうが似つかわしくないぐらいだ。

「きっと幸運が待ってるさ」

産婆は若い母親を労うように粗末な産着をくるませた赤ん坊を傍らに置いてやる。
確かに、こんな身分や境遇に未来は明るいとは言えないかもしれない。
しかし、時代はこの産まれたばかりの命に、そして紅い王星の痣に力を与えたのである。



・・・王国南部地方
そこは中小の諸侯が毎日のように争い、『鮮血の大地』と揶揄される地。
王国で最も争いの絶えぬ地だ。
資源豊かな地であった南部地方は王国内でも豊かであったが、王国の威光が薄れた今、それがかえって争いの火種となっていた。
中小であれ豊かな諸侯は武装して互いに争うようになり、ここ十年程前から傭兵を雇い戦うようになっていた。
傭兵の需要は年を経るごとに高まり、その価値も上昇。
多くの職の無い王国の若者が傭兵としてこの地に集まり、一攫千金を夢見て鮮血を大地に染めていった。

そんな南部の一都市。
活気に満ちた繁華街の酒場で傭兵団が騒いでいた。
勝利の給金を得て、その喜びを爆発させるように飲み騒いでいるのだ。

「いやあ愉快だぜ!・・・これだけやってやれば貰って当然だろ!!」

豪快に笑う大柄な男。
男のテーブルには貨幣のどっさり入った袋。
彼だけでなく、ここにいる傭兵全てが同じような袋を持っていた。

「それもこれも団長のお陰だぜ!」

同じテーブルで飲んでいた男が盃を掲げて叫ぶ。

「そうさ!、俺達の団長は最高だぜ!!」

「戦は上手い!、金払いはいい!、おまけに男前!!」

「人使いは最低だけどな!!」

他のテーブルの男達もそれに続けて盃を掲げて叫び笑い合う。

店の奥にいる男に向かって・・・

その男、彼らが団長と呼ぶ男。
まだ若い。
端正な顔立ちの精悍な男。
20歳ながら傭兵団を率いる男の名前はジェド。
赤い甲冑で揃えた傭兵団『紅い流星』の傭兵団長である。
15歳で傭兵稼業に身を投じ、瞬く間にここまで上り詰めた。
彼も酒を飲みながら、満更で無い様子で盃を返した。

「全く、いい奴等だぜ!!・・・こいつ等とならもっと上を目指せるな!」

酒を飲み干しながら上機嫌に言うジェド。
そのジェドに同じテーブルの学者風の少年が声をかける。

「なぁ、ジェド・・・お前、上って何か考えてるのか?」

「ん、トリス・・・深く考えてる訳じゃねえけどな・・・」

トリスと言う学者風の少年にジェドがそう言いながら手の甲を見せる。

「この痣に相応しいぐらいになってやるのさ!」

彼の手の甲にある紅い星の痣。
誰もがそうとわかるぐらいくっきりと浮かび上がっている。

トリスもこの痣は知っている。
何せ幼馴染だ。
ジェドは娼婦の子、トリスは没落商人の子。
貧民街で共に育った仲だ。

この痣が本当に効果があるのか知らないが、ジェドは昔から人の上に立つ何かを持っていた。
近所のガキ大将になり、そこから貧民街の愚連隊のリーダーになり・・・
そんな少年たちをまとめ上げ傭兵稼業に身を投じ、一端の傭兵団の団長になっていった。
ずっとジェドに付き従ってきたトリスも、彼が持って産まれた何かがあるような気がしていた。

「なぁ、ジェド・・・お前、国を作ってみないか?」

「国?・・・」

考えこんでいたトリスが発した言葉にジェドは怪訝な顔になったが、すぐにニヤリと笑った。

「トリスの事だ・・・何か面白い事考えてるんだな」

「ああ・・・とっておきだが、お前ならやれるぜ」

互いに笑い合う。
若く活力に満ち、野心に溢れた二人の笑みであった。




王国南部地方ロシェフォール子爵領・・・
小さいながら良質の鉱山と温泉。
それがこの地の名物である。
この地を治めるのはロシェフォール女子爵エレノーラ。
父の急死によって後継者となったが、若い女の身。
周辺諸侯から圧迫を受け危機に瀕していた。
頼みの傭兵とて勝ち目が薄ければこない。
値段を釣り上げても見向きもされず、領地は日々削られていく有り様だった。

そこに引き受け手があれば藁にもすがる思いであっただろう。
傭兵団と契約できたエレノーラの気持ちはまさにそんなところであった。

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