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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 88


「考えてみたら僕、なんにも知らなかったんだなぁ…アリーの事…」
王都内を流れる川(というより水路)の縁の石畳に腰掛けて、セイルは溜め息混じりに言った。
「そりゃあ確かに王都内に実家があってお兄さん夫婦が居るって話は聞いてた…でも話だけなんだ…実際に見た訳じゃない…全部アリーの作り話だと言えない理由がどこにあるだろう…僕は一体アリーの何を知っていたっていうんだ…」
「もう、なにふてくされてるんですか…」
アルトリアは半ば呆れ顔で言う。
「う…うるさいやい!冷静になって考えてみたらアリーが行きそうな所なんて全っ然見当付かないよ!しかも唯一思い付いた実家の住所も分かんないし…ハァ…今さら衛士府にも戻れないしなぁ…何やってんだ僕は…」
頭を抱えるセイルを余所にアルトリアは考えていた。
「ふむ…犯罪者が身を隠しそうな所か…貧民窟でも当たってみますか」
「そ…そういうの分かるの?アルトリア」
「お任せください。伊達に長くは存在していませんよ♪」
アルトリアは微笑んで言った。

王都イルシャ・マディーナの貧民窟、ザラーム街…王都の中で最も悪い土地にそれはある。
そこは貧困者と犯罪者の掃き溜めであり、普通の人間なら絶対に足を踏み入れない。
衛士隊も巡回の時はここの外周を回るだけで、ゆえに中は無法地帯だという。

「ア…アアア…ア…アルトリア、やや…や…やっぱり止めにしないかなぁ…?」
セイルは入り口に立っただけで真っ青になり、全身から大量の汗を流してガクガクと震えている。
「なに怖じ気づいてるんですか。アリー殿を見付けたいんでしょう?」
「そ…それはそうだけどさぁ…」
「では参りましょうか」
「わぁ〜!!!ま…待って!!まだ心の準備がぁ…!!」
平然と中に入って行くアルトリアに引きずられ、セイルは“王都の影”とも呼ばれるザラーム街へと足を踏み入れたのであった。

二人並んで通りを進む。
セイルは先程から小鹿のように震えながらキョロキョロと辺りを見回している。
何故かすれ違う人間が皆、自分に対して敵意を込めた眼差しを向けて来ているような気がしてならないのだ。
アルトリアは言った。
「セイル様、もっと普通にしてください。そんなにビクビクオドオドしていると返って変な連中に目を付けられますよ?」
「そ…そうは言いますけどアルトリアさん、怖い物は怖いんだから仕方ないじゃないですかぁ…むしろ僕に言わせてもらえれば、何であなたはそんなに平然としてられるんですか?って感じなんですが…」
「なぜ敬語なんですか?…しかし、何でと言われても…怖くない物は怖くないんだから仕方ない…としか言いようがありませんね」
「そうですよねぇ…」
だが道行く人々を良く良く見てみると、いかにもヤバそうなヤツから人畜無害そうなヤツまで様々である事が分かる。
中には幼い子供を連れた母親の姿もあった。
(そうだ…ここで生活してる人だって居るんだよなぁ…)
考えてみればザラーム街に関する噂話は、多くが外の人間の勝手な憶測だ。
悪いイメージが先行して実状以上に恐怖を感じているだけなのかも知れない。

そんな事を考えていると…
「へへへ…姉ちゃん、見かけねえツラだなぁ…」
「俺らと遊ぼうぜぇ〜」
いかにもチンピラっぽい男二人がアルトリアに絡んで来た。
(前言撤回!!!やっぱ怖えぇー!!!)
セイルは心の中で絶叫した。
アルトリアは言う。
「…悪いが私達は先を急いでいる。お前達のようなザコに構っている暇は無い。そこをどけ」
(ちょ…っ!!!何でそんな挑発的なんすかアルトリアさん!!?)
「…んのアマぁ!!!」
「ナメくさりやがってぇ!!!」
案の定、キレた男達は襲いかかって来た。
「イヤアァ〜〜!!!!す…すいませんでしたあぁぁ!!!!」
セイルは国王に謁見した時よりも頭を低くして地に平伏して詫びた。
 ドカッ バキッ
「フゥ…片付いた…ってセイル様、何をしているのです?」
「…へ?」
セイルが恐る恐る頭を上げてみるとチンピラ二人はアルトリアに伸されていた。
(すっげぇ…)
セイルは呆然。
「…さて、ちょうど良い。お前達にちょっと聞きたい事がある」
そう言うとアルトリアは倒れていた一人の胸倉を掴み上げる。
「ひいぃっ!!?か…勘弁してくれぇ!!」
「フフン…そう怯えるな。内務大臣の息子が殺されかけた事は知っているか?」
「あぁ…それなら話は聞いた。どうやら女絡みらしいぜ。相手は王立学士院のインテリ野郎らしいな…名は確か、ザッバーフ・アリーとか…」
それを聞いたセイルは驚いた。
(な…なんて情報の早さだ!?事件があったのは昨日で僕だって今朝知らされたばかりなのに…!このザラーム街の人達は官庁と同等…いやそれ以上の情報力を持っているのか!?)
アルトリアは笑って言う。
「なるほど…やはり耳が早いな。それで?そのザッバーフ・アリーは今どこに居る?」
「お…俺が知ってるのはこれだけだ。だが情報屋のムサルマーンなら多分もっと詳しく…」
「情報屋か…その男はどこにいる?」

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