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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 87

「あのアリーが他人の婚約者に横恋慕!?」
いやそれは絶対無い!…とセイルは思った。
女好きのパサンならまだしも…。
それに“素行不良”で学士院を退学になったという点も解せなかった。
「何か変だ…納得できない事が多すぎる!」
「クルアーン君、かつての友人を信じてやりたい気持ちは解るが、彼が大臣の息子を殺そうとした…これだけは疑いようの無い事実だ」
「そうだ!確かさっき“魔法を使って殺害しようとした”と言いましたか!?」
「うん、言ったね」
「ならアリーはシロです!なぜなら彼は魔法が使えません!」
それを聞いた小隊長が言う。
「だが、被害者のムスタファ・ザダーム氏と、その場に居合わせた彼の友人達は、確かにザッバーフ・アリーにやられたと言っていたぞ」
「…ちょっと待ってください?事件の目撃者って、被害者と被害者の友人達だけなんですか?」
「そうだ」
「……解りましたよ。被害者達は自分達に都合の良いように事実をねじ曲げているんだ。あのアリーがいきなり人を殺そうとするなんて、何か変だと思ってた…。この事件は背景事情をもっと詳しく調べてみなくちゃいけませんね!」
「なるほど…確かに我々は一方の言い分しか聞いていない。君の言う事はもっともだ、クルアーン君」
「そうでしょう!ぜひ僕に調査させてください!殺人未遂は動かしようの無い事実だとしても、どうしてアリーがこんな事をしたのか調べて、少しでも彼の罪を軽くしてやりたいんです!」
意気込むセイルに、しかし中隊長は言った。
「あぁ…残念だがクルアーン君、この件に関しては君は一切関わる事が出来ないんだ…」
「はあ!!?ど…どうして…!?」
「当たり前だろう。被害者の友人である君が加われば、どうしても個人的な感情が混ざってしまう。今の話にしてもそうだ。もちろん参考にはさせてもらうがね。それに、言いにくいんだが…我々が受けた命令は“捜査”じゃない。殺人未遂犯ザッバーフ・アリーの速やかなる逮捕だ。抵抗する場合には殺害しても構わないというお達しも出ている」
「…嘘でしょう…!?」
「…貴族が相手だからね。恐らく逮捕されても、彼の言い分は認められないまま死刑台へ送られる事になるだろう…」
「……っ!!!?」
セイルは愕然とした。
アリーには弁解すら許されず、待っているのは“死”のみだというのか…。
アブ・シルが気まずそうにポリポリと頭を掻きながら寄って来て言った。
「あぁ〜…クルアーン君?あのぉ…容疑者の人相書きを作りたいんだけどぉ…協力してもらえないかなぁ…?」
「……」
セイルは呆然としている。
「……あなた達は…」
少しして、彼はポツポツ喋りだした。
「…それでも…アリーを…捕まえまるんですか…?」
「「……」」
皆は困ったように顔を見合わせる。
捕まえる=アリーの死である。
だがセイルの話を聞く限り、何やら事情がありそうだ…。
「捕まえるよ」
しばしの沈黙の後、迷い無く答えたのは中隊長だった。
「それが我々の仕事だからね」
「そ…そんな…!!いくら仕事だからって…!!アリーは死刑になるような事はしてないかも知れないのに…!!」
「まぁ、犯人に同情はするけどね。でも貴族を殺そうとしたのは確かな事実でしょう。貴族とトラブった事それ自体が不運…事故にでも遭ったと思って諦めてくれとしか言いようが無い」
「そんな理不尽な…っ!!」
「理不尽ね…ぶっちゃけ私もそう思うよ。でもこれがこの国の法だから仕方ないだろう?悪法もまた法なり。…で、私達はその法の守り手だ。これでご飯を食べてる。家族も養ってる。だから従うんだ。それだけの事だよ。簡単だろう?結果として罪無き一人の青年を死に追いやる事になろうとも、私は私の仕事をするよ。そこには個人の正義も良識も入る余地なんて無い。ただ法に則って行動するのみ。それが衛士という物だ」
「そ…そんな…こんな事って…」
「クルアーン君…」
中隊長はセイルの肩にポンと手を置いて言った。
「…この衛士の制服に身を包んでいる間は、君もまた衛士だ。解るね?」
「この制服に……ん?制服?…そうか!!ちゅ…中隊長殿!!」
「ん、何だね?」
中隊長はニヤリと笑いながら尋ねた。
「僕、今日はお腹が痛いので帰らせていただきます!!」
「うむ、お腹が痛いならしょうがないね。一刻も早く帰りなさい」
「はい!ありがとうございます!」
アブ・シルもグッと親指を立てて言った。
「クルアーン君!人相書きは俺がテキトーに作っとくから安心しろ!」
「よろしくお願いします先輩!どうぞお好きに作っちゃってください!」
セイルは衛士府を飛び出した。

「セイル様!」
衛士府の門を出て通りに出た所でアルトリアが姿を見せる。
「アルトリア!えらい事になったよ!アリーが…!」
「聞いてましたよ!それでセイル様、どうするつもりですか?」
「決まってるさ…アリーを探す!!」
第三中隊の面々だけはどうやら事情を理解してくれたようだが、他の中隊に見つかれば上からの命令通りに処置されるだろう。
そうなる前にアリーを見つけ出すのだ。
「とりあえずアリーが身を隠していそうな所をシラミ潰しに探してみよう!」
「はい!セイル様!…で、まずはどこへ行きますか!?」
「よし!まずはアリーの実家へ…!」
…と言った途端、セイルは立ち止まってしまった。
「ど…どうしました?セイル様…」
「…僕、アリーの家、知らない…」

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