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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 78

「ははは…そうです。銃を撃つに欠かせない火薬は今から百年以上も前にイルシャ王国の更に東…砂漠地帯を越えて遥か彼方にある東方世界からもたらされた物ですが、イルシャ王国では良い利用法が見つからず普及しなかった。ところが、これが西大陸に渡って…これは西方人の素直に凄いと思える所なのですが…彼らはすぐに火薬が軍事に使えるという事に気付いたんです。西大陸は戦争が耐えないから、必要に応じての事かも知れませんがね。彼らは火薬という物を知った直後に銃の原形のような兵器を開発しました。でもそれは使い勝手が悪く、実戦でも威力を発揮しなかった。しかし彼らは改良に改良を重ねた。そして長い年月を掛けて今の銃の形になったのです。実用的とあらば普及します。今、西大陸では急速に銃が広まっているんです。各国の軍でも銃兵部隊を置くのが当然とされている。特に西大陸最大の国ゼノン帝国は熱心で、銃の量産化に取り組んでいるとか…」
「西大陸最大って言っても人口がイルシャ王国の10分の1にも満たない田舎の小国だろう?」
そんな国がイルシャ王国の脅威になる訳が無いとセイルは思う。
だがこれは何もセイルだけに限った事ではない。
西大陸は東大陸に比べて文明の劣った未開の地…これが一般的なイルシャ人の西大陸に対する認識だった。
アリーは言う。
「確かに西大陸は東大陸に比べれば人口も圧倒的に少ないし、色々と遅れている所もある。だが一つだけ歪なまでに突出して進歩している分野がある。軍事技術だ。まぁ、例えて言うならイルシャ王国はブクブクに肥え太った愚鈍な巨象、ゼノン帝国は小柄だが鋭い牙を持った飢えた狼といった所かな。しかもこの狼は象を格好の獲物と思って狙っている」
「どうしてゼノン帝国がイルシャ王国を狙うの?」
「西方人にとって東大陸は宝島みたいな物なんだ。芸術・学問・技術…そういった我々にとって何気ない物が彼らにとっては堪らなく魅力的なんだよ。西方人の合理的で実利優先の考え方では“文化”は産み出せないからね…」
それに対してアルトリアは言う。
「確かに、西方人の外へ外へと向かって行くエネルギーには凄い物がありますね。東方人は逆に内へ内へと向かって行って自己完結しようとしますが…。まぁ、国内で何もかも事足りてしまうという恵まれた地理的要因による物なのでしょうね」
「何だか難しい話で僕には良く解らないよ…」
「ゼノンがイルシャを狙う理由はまだある。東西大陸間の交易をイルシャ商人達が独占しつつあるという事だ」
「それはイルシャ商人達が安い値で商品を運び続けた成果じゃないか。文句を言われる筋合いは無いよ」
「国家間にそんな理屈は通用しない。とにかくゼノン帝国にとってイルシャ王国は倒さねばならない存在なんだ。そして最大の理由は…ゼノン帝国は最近、国力の劣る隣国に敗れて権威が失墜している。これを取り戻すためにも“愚鈍な象”はちょうど良い獲物という訳だ」
「つまり…ガキ大将が隣町のガキ大将とケンカして負けたので、さらに別の町の自分より弱いガキ大将をブチのめして威厳を取り戻す…そんな感じですかね?」
「まさにそんな感じです。アルトリアさん」
「理不尽すぎるよ!!」
セイルは叫んだ。
「国際関係なんてそんな物だ」
一方、アルトリアはポツリとつぶやく。
「ゼノン…ディオン殿の国か…出来れば戦いたくはない物だな…」
「え?アルトリア、今何か言った?」
「いいえ、何でもありません。ちょっと昔の事を思い出しただけですよ…」

ディオン…それはゼノン帝国を建国した初代皇帝の名である。
彼はイルシャ王国の祖イルシャ・ルーナと同時代の人物であり、両者は面識もあった。
東と西の大国は、奇しくも時をほぼ同じくして誕生したのである。
そしてその両大国が今、衝突しようとしているのだ…。

(もしかして…)
セイルは思う。
(今この時代になって二代目の聖剣の勇者(自分)が現れた事に何か関係があるんだろうか…?)

だが、この時に芽生えた疑問は日々の忙しさの中、次第にセイルの心から忘れられていった…。


それから数日後、セイルたち衛士にとって非常に嬉しい日が訪れた。
月に一度の…そう、給料日である。
セイルら新人にとっては初任給となる。
もちろん銀行なんて無いので現金手渡しである。
退勤前、皆を前にして中隊長は言った。
「それではこれより給与を手渡すので名を呼ばれた者から順に取りに来るように!」
「「「はぁーい♪♪♪」」」
新人達はまるでお菓子を貰える幼い子供のように瞳を輝かせながら給料を受け取る。
やがてセイルの番が来た。
「はい、1ヶ月ご苦労さん」
「あ…ありがとうございます!(重い…)」
…あぁ、これがこの1ヶ月間の労働の対価なんだ…とセイルは思う。
決して多くはない貨幣の入った粗末な麻袋が、彼にはとても重く感じられた。
それは彼が生まれて初めて自分の力で得た金銭だった。
(もっともセイルの場合、非常に“濃い”1ヶ月間だったが…)
喜ぶ新人達を見ながら上官達と先輩達が何やら話し合っている。
やがてアブ・シルが大きな声で言った。
「よぉ〜し!!みんなぁ!!初給料だぁ!!飲みに行こうぜぇ〜!!」

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