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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 77

熱く訴えかけるアリーをセイルは制する。
「まあまあ…そんなのどこにだってあるよ。それにしても我が国で最高峰の学術研究機関だと思っていた王立学士院が、実は単なる登龍門だったとはね…」
「そうなんだ。あと意外とコネ入学して来た上級貴族の子女の割合が高かった」
「それは意外だね。王立学士院の入学試験は100%実力かと思ってたよ」
そこでずっと二人の話を黙って聞いていたアルトリアが口を開いた。
「先ほど天体観測がどうのと仰っておられましたが、アリー殿は専攻は天文学でいらっしゃいますか?」
「いえ、僕は史学専攻です。特に戦史・兵器史を研究しております」
それを聞いたセイルは笑って言う。
「な〜んだ、進歩とかとは正反対の分野じゃないかぁ〜」
「そんな事は無い。過去を知る事は未来を知る事にも繋がるんだぞ」
「そうなのかい?それじゃあ、未来の戦争ではどんな武器が使われるのか…なんて事も分かるの?」
アリーは途端に少年のように目を輝かせて言う。
「良い質問だセイル!良くぞ聞いてくれた!ちょうど今も持ってるんだ!見せてやる!」
「持ってる…?」
するとアリーは懐から何か妙な物を取り出し、テーブルの上にゴトリと置いた。
「「…?」」
セイルとアルトリアは思わず“それ”に見入ってしまった。
今まで見た事も無い物だ。
一言で言うと“木と金属で出来た機械的なオブジェ”といった所か…。
何に使う物かは解らないが、そのデザインは何となく実用的で洗練されているように感じられる。
だが同時に、どことなく禍々しい印象もあった。
「アリー、これは一体何なんだい?」
「西大陸で発明されたアークィヴァスという武器だ。鉄砲、または銃とも言う」
「テッポー?」
「ジュー?」
「そう。これは古代から連綿と続いて来た戦法を一転させる画期的な兵器なんだ。その破壊力は凄まじく、鉄の鎧兜も容易く打ち砕く…」
「お前そんな物騒な物いっつも持ち歩いてんのかよ!?」
「大丈夫だ。今これには火薬も弾も入ってないから何の役にも立たないよ」
「なんだ…」
アリーは銃を手に取って説明し始めた。
「これは筒内で火薬による小規模な爆発を起こし、その威力によって弾丸を発射する装置だ。この筒の根元にゴチャゴチャ付いてるのが着火装置。その破壊力は言った通りだ。同じ飛び道具でも弓矢の比じゃない。射程距離もね…」
アルトリアは疑問を口にした。
「しかし小さな弾丸を飛ばすだけでしょう?この先端の穴の直径から言っても大した事は無さそうだ…。同じ遠距離攻撃なら魔法の方が良くありませんか?」
「いえ、この兵器の最も恐ろしい所は、使い方が物凄く簡単であるという事なんです。特別な知識も技能も要らない。一日も訓練すれば誰でも使いこなせるようになるでしょう」
「それが凄い事なのですか?」
「極端な話をすると、この銃を使えば、初めて持った農民でも熟練の騎士や魔術師を一瞬で殺せる…という事です。もしこれが何十、何百と揃ったら…?」
「な…なるほど…」
セイルは言った。
「それだけじゃない。誰でも使えるとなれば階級間のパワーバランスが滅茶苦茶になって社会秩序が崩壊するよ。僕たち士族や貴族が平民の上に立っていられるのは武力があるからだ。剣や乗馬の技術は金と時間にある程度余裕のある階層の者しか習得できない。でもこの銃にはそんな制約は無い。もし今の統治体制に不満を持つ平民達が組織だって銃を持って立ち向かって来たりしたら、ヘタすれば国がひっくり返るよ!」
「その通り。これはそれだけの危険を孕んだ兵器なんだ。…まぁ、もっとも弱点もあるんだけどね。まず一発撃ってから次の弾を装填するまでに、かなりの時間がかかる。それに構造が複雑だから製造工程がややこしくて大量生産できない。一丁一丁が職人による手作りで非常に高価だ。ちなみに僕のは西大陸から来た行商人から壊れたのを安く譲り受けて自分で修理したんだ。おかげで構造が理解できたから良かったよ」
「なんだ…無敵という訳ではないのですね」
「ええ、アルトリアさん。それで実は僕、イルシャ王国軍に弓矢を装備に導入すべきだと意見書を提出しようと思ってるんです。弓矢に慣れた者なら敵が弾を装填している内にいくらでも射られますからね。もう“飛び道具は卑劣”だなんて馬鹿な事は言ってられません」
「アリーも色々やってるんだな…」
そうセイルが言った所で店員がお茶とお菓子を持って来た。
「お待たせいたしましたぁ」
「おぉ!美味しそうですね〜」
アルトリアは幼子のように瞳を輝かせた。
やはりこの娘は何を置いても食い物なのだ。
「ここの甘菓子は女子に大人気なんですよ。さあ、食べましょう」
「いただきます!」
「いただきま〜す」

食べながらセイルはアリーに言った。
「アリー、僕これからは弓の練習もするよ。国民に矢を向けるような日が来ない事を願うけど…」
「セイル、僕が恐れているのはイルシャ国民じゃない。むしろ外国だ」
「外国?」
「もぐもぐ…しょういえば銃は…んぐんぐ…西大陸で発明しゃれたんでしたっけか?」
「アルトリア、食べるか喋るかどっちかにしろよ」
相変わらずのやり取りにアリーは笑って言った。

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