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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 76


「セイル様!」
「アルトリア!」
王宮を出て街中を歩いているとアルトリアが現れた。
「国王陛下との謁見、お疲れ様でした」
「大して疲れてもいないけどね…だいたいあれは謁見なんて物じゃないよ。期待外れも良い所だ」
普段あまり不平不満を口にしないセイルだが、さすがに今回ばかりは不服らしい。
「私も姿を消して見ておりましたが、随分とアッサリした物でしたね。イルシャ・ルーナ様は功ある者には平民であれ奴隷であれ堂々とお会いになり、直接手を取って言葉を交わされ、その働きを労われました。それが君主の務めと思ってやっておられましたから…それが、500年も経つと変わってしまう物ですね…」
「そういう事だね。まぁ、今回の事だってどうせ陛下のご意思ではないんだろうさ…。それより陛下のご尊顔を直接拝謁できて、その上一方的にとはいえお言葉まで掛けて貰えたんだ。これだけでも充分に光栄な事だよ。お金まで貰えたしね」
「ふむ…しかしセイル様の一日だけの自宅謹慎といい、今日の中庭での謁見といい、この国は何でもかんでも形式形式といって形骸化した物ばかりですね。オルハン殿と同じですよ。中身が無いのです」
「平和な時代が続いたからなぁ…」
「家に例えると骨組みが無くて屋根板と壁板と床板だけみたいな物です。柱が無いんです。しかも腐っています。もし一蹴りでもされたら簡単に倒壊するでしょうね」
「イルシャ王国は東大陸最大の国だよ?それに“蹴り”を入れる国なんて、このエスパニア世界の何処にも居ないと思うけど…」
「いえセイル様、一撃は外からとは限りませんよ。内からの場合だってあります。いずれにせよ、もしそうなった時、この形骸と怠惰しか無い国はどうなってしまうんでしょうね…」
「アルトリア…」
寂しそうな顔でイルシャ王国の現状を憂うアルトリアに、セイルは言葉が無い。
“国を憂う”と言っても欲求不満を持て余した若者の青春の捌け口などとは訳が違う…彼女は正にこの国が出来た所に立ち会っていた張本人なのだから。
(アルトリア…一体どんな気持ちなんだろう…仲間達と共に命を掛けて作り上げた国の…その変わり果てた姿を見せられて…)
同時にアルトリアから、聖剣のルーナの勇者として見出されたセイルは未だ何も為してない自分の不甲斐なさと非力さを情けなく思っていた。
(こういう時、彼女に何か言ってあげたい。でも、勇者として何一つも達成していない僕が言っても無意味だろうな)
グッググゥ〜〜〜
「むっ、少し湿っぽくさせましたね。セイル様、その報奨金で何か美味い物を食べに行きましょう♪〜」
かつて自分が作り上げた国の荒廃振りから、悲しみに沈んでいるアルトリアに何もできず苦悩するセイルであったが、腹が減ったアルトリアは食事に行こうとセイルを誘う。
そんな何時もの食いしん坊なアルトリアに呆れつつも内心はホッとするセイルであった。
「きっ君らしいよアルトリア。でも、少し節制したほうが良いんじゃない」
「節制なんて、理不尽な命令ですよ!」
「理不尽。こっちは君のことを思っていってるのに!」
「それが余計なんですよ!」
「余計な事って・・・(こっちは心配してるのに・・・)」
少々口論気味であったが、調子を取り戻してきたセイルとアルトリアの前に騎士学校時代の旧友アリーが話しかけてくる。
「騒がしいなと思えば、セイル!、久しぶりだな!アルトリアさんも元気でしたか!」
「アッアリー、アリじゃないか」
「おお、アリー殿!お久しぶりです」
意外な所で旧友との再会に喜ぶセイルとアルトリアにアリーは二人を昼食に誘う。
「丁度、昼時だから。俺が奢るから三人で飯でもどうだい。近くに王立学士院の学生達が通う美味い料理が売りの喫茶店があるんだ」
「おお!!学生御用達の喫茶店ですか〜良いですね〜良いですね〜セイル様、行きましょう〜行きましょう〜」
「うん、僕もアリーとは色々話したかったからね」
セイルの旧友との再会が嬉しいのでアルトリアの意見に賛成する。
「ありがとう。実は二人に相談したい事があったんだよ。話は食事をしながらにしよう」
何やらセイルたちに相談があるアリーは、そう言うと二人を店に連れて行った。

三人は連れ立ってその喫茶店へと赴いた。
席に着き、注文を終えるとセイルはアリーに尋ねる。
「…それでアリー、相談したい事っていうのは何だい?」
「実は…王立学士院を退学しようかと思ってるんだ」
「えぇぇぇっ!!!?」
「ば…馬鹿!声がデカい!」
「ご…ごめんごめん…でも何だってまた?せっかく夢だった学士院に入学できたのに…」
「そこだよ。騎士学校時代に夢見ていた理想と現実との乖離にほとほと嫌気が差してね」
「どういう事?」
「王立学士院には真面目に学問をしようと思ってる人間なんて一人も居ないんだ。どいつもこいつも卒業後の立身出世しか頭に無いヤツばかり。教授達だってそうだ。王族や貴族の顔色ばかり伺って真実を口にする勇気も無い」
「具体的には…?」
「実測に基づいた研究成果をねじ曲げて発表したりしている。例えば天体観測から大地は太陽の周りを回っているという結果が導き出されたとしても、それを公表したりすれば権力者から睨まれて自分の進退に関わるからと言って結果を書き換えてしまう…そんな事が日常茶飯事だ。なぜだ!?なぜ誤った既存の概念に固執して進歩の可能性の芽を摘み取ってしまうんだ!?」

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