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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 75


それから数日後、セイルへの沙汰が下った。
その日、セイルが出仕せずに自宅で待機していると、当該の役人が来て重々しく告げた。
「クルアーン・セイルに一日間の自宅謹慎処分を命じる」
中隊長の言った通り、処分は形式のみのごく軽い物だった。
「はい!クルアーン・セイル、謹んで処分をお受けいたします!」
続いて役人はやや柔らかい口調となって言う。
「…それから、喜びなさい。国王陛下が今回の君の働きに対して、報奨金と直々にお褒めの御言葉をくださるという事だ」
「えぇ!!?こ…国王陛下が!?本当ですか!?」
意外な展開にセイルは目を丸くして驚いた。
セイル達ヒラ衛士にとって国王と言えば雲の上の人…本来ならば言葉を交わす事すら許されないような高貴な存在である。
それは本当に身に余る光栄だった。

「そうか!!!国王陛下が直々に…!!!素晴らしい!!!よくやったぞ〜セイル!!!」
その夜、話を聞いたオルハンは先日とは態度を一変、手の平を返したようにセイルを褒めちぎった。
「あ…ありがとうございます…父様…」
だがセイルは全然嬉しくなかった。
オルハンが喜んでいる理由はセイルの功績によって自分の評価も少なからず上がるから…セイルの功績を素直に祝福してくれている訳ではないからだ。


それから更に数日後、セイルは国王に会うべく正装して王宮へと赴いた。
(王宮かぁ…昔、父様に付いて一度だけ来た事があったっけ…懐かしいなぁ…)
セイルは感慨深げに王城を見上げながら歩いていると、城門の所で衛兵に止められた。
「ご用件は?」
「クルアーン・セイルと申します。本日、国王陛下が謁見してくださるという事で…」
「ああ、そうでしたか。話は聞いています。ご案内いたしましょう。こちらです…」

王宮の敷地はとてつもなく広く、建物も無数にある。
平民以下の立ち入りは基本的に禁止されており、士族でもお城勤めの者以外は許可無く入城は出来ない。

セイルが案内されて来たのは、城の中庭だった。
「ここは…?」
首を傾げるセイルに案内してくれた衛兵は説明した。
「君の身分では国王陛下に謁見する権利は無いのだ。それで、一種の融通というのかな…国王陛下は毎日この時間、この中庭をご散策あそばされる。そこで偶然君と出会ったという形を装って…」
「な…なるほど…」
つまり、そういう“形式”なのだ。
「あのぉ…それは陛下の方もご承知で…?」
「さあ…?」
「いや『さあ…?』って、あなた…そんなテキトーな…」
「だって我々兵士の仕事は君をここに連れて来る事であって…陛下の身の回りの事は、ご予定の管理も含めて侍従達が全て取り仕切っているから…」
「管轄外って訳ですか…」
「うん」
セイルは呆れた。
(はぁ…お役所仕事だなぁ…あ、僕もか…)
そんな話をしていると、向こうから国王と数名の侍従、さらに数名の衛兵がやって来た。
「いらっしゃったぞ!地面に片膝を付いて頭を下げなさい。陛下から話し掛けられない限り動いたり返答したりしては駄目だからね?」
「わ…解りました!」
セイルは言われた通りにした。
国王一行の足音が近付いて来る。
(うぅ…き…緊張する…)
セイルの心臓は犯人と対峙した時以上に高鳴っていた。
一行の足音がセイル達の前で止まった。
「陛下、この者は…」
下を向いているため地面しか見えないが、侍従の一人が小声で国王に囁いているのが聞こえた。
セイルは全身から汗を掻き、身体はカタカタと小刻みに震えている。
「クルアーン・セイル、面を上げよ」
侍従の声がし、セイルは顔を上げた。
(こ…この人が国王陛下…?)
目の前に居たのは疲れた顔をした小太りの中年男性だった。
太っているが、やつれている。
目付きも力無い感じがした。
その時、セイルは心の底から思った。
肖像画って七割増ぐらい格好良く描かれてるんだなぁ…と。
あぁ、もちろんサーラは別だ。
彼女は肖像画に引けを取らない…いや、むしろ実物の方が美しい。
そんな事を思っていると、国王は口を開いた。
「大儀…」
それだけ言うと彼はまた歩き出した。
ヨタヨタと、どこか覚束ない足取りで…。
(こ…これだけ…?)
一方、セイルは拍子抜けしていた。
せめて2、3、言葉を交わすぐらいの事はあると思っていたのだが…。
セイルを案内して来た衛兵は言う。
「はぁ…陛下もすっかり弱ってしまわれたなぁ…お気に入りの近臣アブシル・イムラーン殿が前宰相ヤヴズ・ワムに暗殺されてから…あ、そうそう…今日はご苦労だったね。報奨金を受け取って帰りなさい」
「はあ…ありがとうございました…」
そして、セイルは金を貰って城を後にした…。

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