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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 74

中隊長の話によると、犯人は没落した最下級ではあるが貴族の男だった。

イルシャ王国民は概ね王族・貴族・士族(騎士)・平民(農民、職人、商人)・奴隷の五階級(聖職者や興行人などの例外を除く)が存在し、階級が上の者は下の者に対して傷付けたり命を奪っても罪に問われない…逆に下の者が上の者を傷付けた場合、重い罪に問われるのだ。

中隊長は言った。
「…もちろんこの原則は必ずしも厳密に守られている訳ではない。今回のようなケースは特に相手に絶対的な非があるからね…」
…と、そこまで言って中隊長は急に声を潜めてセイルに尋ねた。
「…もう一度確認しておきたいんだが、確かに犯人の方から斬りかかって来たんだろうね?まさか過剰防衛なんて事は…」
「あ…ありません!昨夜お話しした通りです!(…まぁ、犯人の腕を落としたのは、僕じゃなくてアルトリアだけど…)」
アルトリアを調べられると戸籍が無い事がバレて面倒な事になるので、セイルが正当防衛で切ったという事にしたのだ。
ちなみにアブラハムも事情は知らないまでも、アルトリアを庇うためならと口裏を合わせてくれた。
セイルの言葉を聞いた中隊長は頷いて言う。
「…ん、それなら良いんだがね。まぁ、そもそも君は衛士だし…審査役のお役人も融通を利かせて多目に見てくれるだろう。まぁ、ごく軽い処分で済むと思うよ」
「はあ…(“処分”なんだなぁ…)」
良い事をしたのに罰せられるというのは納得いかない話に聞こえるかも知れないが、今更そんな事に文句を付けるセイルではない。
形式上の事だから仕方ないのだろう。

だが、セイルの父オルハンは大激怒した。
「この大馬鹿者が!!!!夜な夜な家を抜け出してそんな事をしていたのか!!?しかも貴族を斬っただとぉ!!?セイル!!!お前はそんなに俺の出世の邪魔がしたいのか!!?」
「ご…ごめんなさい…父様…」
ムチャクチャにセイルを罵倒するオルハンに対して、セイルは萎縮して平謝りするしか無い。
「あ…あなたぁ…セイルちゃんも頑張ったんだし…そんなに怒らないであげてくださいな…」
見かねたヤスミーンが弱々しく抗議するもオルハンは一蹴した。
「お前は黙ってろ!!!!まったく…独り善がりの正義感で余計な事をしおって!!!審査の役人にも『手加減よろしく』と“付け届け”をせねばならんし…まったく想定外の出費だ!!!これで俺の出世に響いたらお前のせいだからな!!!?」
「……はい」
セイルはそれだけ言うのが精一杯だった。

一体何故これ程までに叱責されねばならないのか…?
しかも一番の身内に…。
別に父に褒めて貰いたくてやった訳ではないが、せめて「よくやった」の一言ぐらい言ってくれはしないかと淡い期待をしていた…。
それがこの罵倒だ。
自分がした事はそんなに悪い事だったのか…?

セイルはもう泣きたかった。
その時、あらぬ方から声がした。
「いい加減にしなさい!!!!」
「ア…アルトリア…!?」
「何だ!!?これは我が家の問題だ!!!他人の分際で口を挟まないで貰おうか!!?だいたい下宿人のクセに屋敷の主に対して『いい加減にしなさい』とは何という口の効き方だ!!?どういう教育を受けて来た!!?」
「お黙りなさい!!!!申し訳ありませんが“他人”の立場から言わせて貰いますよ!!!セイル様は人として正しい事をなさった!!!天地に恥じる所は何一つございません!!!それをあなたは何ですか!!?出世がどうの出費がどうのと自分の事ばかり!!!親だったらここは子供に対して労いの言葉の一つでも掛けてあげるのが道理という物じゃないんですか!!?」
「何だとぉ!!?こ…この小娘がぁ!!!」
カッとなったオルハンは思わずアルトリアに手を上げた。
だが、その手をアルトリアはグッと掴んで押さえる。
「く…っ!!」
「…非力ですねぇ。揉み手とゴマスリばかりして剣を振るう機会も無いんでしょう。…それにしても、口で言い返せなくなったら手を上げるとは…あなたはまるで幼児のような人だ。地位や財産を重要視する理由も納得ですね。あなたは人としての中身が無いから外面的な価値に執着するのですね…」
「ぐぬぬぅ…も…もう良い!!!でで…出掛けて来る!!!今夜は、か…帰らないんだからな!!?」
「あ…あなた…どちらへ…!?」
「お前には関係無い!!!」
「はい…」
そしてオルハンはドタドタと乱暴な足取りで家を出て行った。
余りに見っとも無いオルハンの有様に高潔なウマルの子なのかアルトリア疑問に思った。
「ふう〜あれでウマル様の子なんですかね?全く信じられません」
「しょうがないわ〜昔から、お義父様と比べられて馬鹿にされたのを見返すにために出世しかないと思ってるのよ。現に実家で病弱で厄介者だった私と結婚したのが良い証拠よ」
「かっ母様・・・・・」
オルハンの過去と同時に自分の過去を自嘲のように語るヤスミーンの辛さを感じたセイルは何も言えなくなる。
アルトリアは口にはしなかったが、母にも大人になれず家族と向き合わないヤスミーンの不甲斐無さに呆れ。
セイルを育て上げたのはウマルであると納得する。
(やっぱり、セイル様を立派に育てたのはウマル様なんですね)
「さあ〜二人とも、夕飯にしましょう」
ヤスミーンはその場を誤魔化す様に二人を食堂へ連れて行く。

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