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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 73

「わ…解った!でもその前に止血だ。このままじゃあ失血死しちゃうからね」
男は肘から先がスッパリと無くなっていた。
セイルとアブラハムは犯人の傷口に布を当てて二の腕の所できつく縛った。
間接圧迫止血法だ。
「これは縛り上げる必要は無さそうだ。担架で衛士府まで運ぼう」
「ああ」
三人は近所の家から棒と布を拝借して即席の担架を作成し、犯人を乗せて衛士府まで運んだ。

衛士府は大騒ぎになった。
有志で夜間巡回をしていた新人のヒラ衛士が連続殺人犯を捕まえて来たのだ。
だが結局その日は逮捕時の状況を少し訊かれただけで、明日また改めてという事で帰宅が許された。

「やりましたね、セイル様」
帰り道、アルトリアはセイルに言った。
「うん…」
「どうしました?気のせいか、あまり嬉しそうには見えませんが…」
セイルは力無く語る。
「…いや、結局また僕は君の手を借りてしまったと思ってね…犯人を捕まえると張り切って夜回りを始めておきながら、最後の最後…一番肝心な所では君に頼りっぱなしだった。僕はやっぱり一人じゃ何も出来ない無力な人間なんだって改めて思い知らされた気がしてね…」
「な〜んだ、ま〜たそんな事ウジウジ考えて…もっと素直に喜んだら良いじゃないですか」
「そ…そんな事って言うけどね!僕にとっては重要な問題なんだよ!」
「もう…そんなの気にする事ありませんよ。そもそも一人で何でも出来る人間なんて居ません。世の中には自分一人の力で大きな仕事を成し遂げたような顔をしている人間も居ますが、そんなのは勘違い野郎。知らず知らずの内に多くの人に支えられ、助けられているんです。ですからセイル様、人の手を借りる事を恥じる事などありませんよ。…それに個人的にも、私はあなたのお力になれる事が何よりの喜びです。私はあなたの剣なのですから…」
「アルトリア…そうか…ありがとう…」
セイルにようやく笑顔が戻った。
アルトリアは言う。
「どういたしまして。…むしろもっともっと私を頼ってくださいとお願いしたいぐらいです。それに自分から棘の道に飛び込んだり、要らぬ苦労を背負い込んだりするのも止めてもらいたい…。正直、見ていて心苦しい物がありますし…。変な言い方かも知れませんが、もっと面倒くさい事や嫌な事から逃げても良いんです。人生、少しぐらいズルしたりサボったりするのも全然ありですから」
セイルは苦笑いしながら応えた。
「…ごめん、こればかりは僕の性格というか生き方だから直しようが無いよ」
(ハァ…愚直というか…天性の苦労性ですね…端から見てる分には好感持てるんですが…)
だが、そんな要領の悪い所もセイルの良い点である事をアルトリアは解っていた。
だからこそ何とかしてやりたいという思いもあるのだが…。
主セイルの事をアルトリアは一生懸命考えているのにセイルは全く気付いてなかった。
「アルトリア立ち止まって如何したの?」
「あっすいません(こ愚直さは気長に治して行くか。ルーナ様もセイル様に負けず劣らず愚直で、困った御方だったからな)」
そう言ってアルトリアはセイルと共に家に帰っていった。


翌日、衛士府に出仕したセイルは英雄扱い。
どうやら先に来ていたアブラハムが調子に乗って言い触らしたらしい。
セイルはたちまち先輩同輩に取り囲まれた。
「やったなクルアーン君!!」
「おめでとうセイル!」
「犯人と斬り合ったんだって!?」
「俺は前からお前はタダ者じゃないと思ってたんだ!」
調子の良い事を言う奴もいたが、それはそれ。
犯人逮捕という手柄を上げたのが最初に行動を起こしたセイルだったので皆も素直に祝ってくれた。
もし他の者だったりしたら気まずかったろう。
セイルも素直に嬉しかった。
そこへ、中隊長が現れてセイルを呼んだ。
「あ〜…クルアーン君、ちょっと話があるんだが、今いいかな?」
「はい、何でしょう?」

セイルは裏手に連れて行かれ、こう告げられた。
「実は…いろいろ難しい事になっていてね…」
「はあ…」

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