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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 69


…その後、衛士府に着いたセイルとアブラハムは門前でアルトリアと別れた。
詰め所へ戻ろうという時、アブラハムはセイルに言った。
「そういやセイル、アルトリアさんと遭遇した嬉しさで言いそびれてた事があるんだが…」
「何?」
「娼婦殺しの犯人探し…あれさ、僕も、もう止めた方が良いと思うんだよね…」
「アブラハム、もしかしてそれを言いたくて僕を食事に誘ったのかい?」
「まあな…セイル、お前の気持ちは解るよ。僕だって衛士だ。何の罪も無い王都の市民が凶悪犯に殺されてるのに何も出来ない自分を情けなく思うし、だからこそ実際に行動を起こしてるお前は凄いと思う。でも現実問題お前一人がいくら頑張った所で、この広い王都を全て見張れる訳じゃなし…まして実際に犯人に遭遇したとして、相手は本物の殺人犯だ。ヘタをしたら殺されるかも知れない。そうやって命を張って犯人を捕まえた所で、それは衛士の職務外の行為…つまり何の栄誉にもなりはしないんだ。なあセイル、アブ・シル先輩も言ってたろう。少なくとも一人は救えたんだ。もう良いんじゃないかい?」
「アブラハム、それは僕を心配して言ってくれてるの?」
「そうだよ。だって仲間じゃないか」
「そうか…ありがとう、アブラハム。君の気持ちは嬉しい…でも僕は止めないよ。例え何の栄誉にもならなくてもね。僕は衛士である前に騎士だ。騎士の本分は忠誠を誓った主君に剣と命を捧げる事だと教わって来た。でも僕は思うんだ。この世を支えているのは王族や貴族だけじゃない。市井の人達の日々の暮らしを守る事だって立派な騎士の務めなんじゃないかな。もちろん僕一人がどんなに頑張ったって一人の力には限界があるだろう。でも、こんなちっぽけな僕だって、せめて目の前で苦しんでいる人の手助けぐらいはしてあげられるだろう?だから守りたいんだ。せめてこの目に映る人々ぐらいは…。それが僕の騎士道なんだ」
「セイル……ハァ、お前には何を言っても無駄だったようだな」
「ごめん、アブラハム…でも嬉しかったよ」
「謝るなよ。今夜の見回り、僕も同行して良いかい?一人よりは二人の方が良いだろう」
「本当かい!?もちろん!一緒に来てくれれば嬉しいよ!」
「先輩や隊長達には内緒だぞ?」
「解ってる」

そして、その夜…

セイルとアブラハムは衛士府の前で落ち合った。
「ハァ…ハァ…す…済まんセイル!遅れたぁ!」
「良いよ。僕も今さっき来た所だ。さ、行こうか」
「ああ、それにしても夜の街って何かワクワクするな♪」
「おいおい、この前は暗闇怖いって言ってたじゃないか」
「娼婦を守るっていう目的意識が芽生えたせいか、何だか恐怖感も薄れたよ」
「調子良いや…」
そして二人は夜回りを始めた。

しばらく歩いた頃…
「なあ、あれ何だろう?」
アブラハムが何かに気付いた。
ある商家、一人の男が塀をよじ登って忍び込もうとしている。
「ま…まさか泥棒!?」
「捕まえなきゃ…おい!待てぇ!」
二人は男を取り押さえた。
勤務中ではないが、現行犯である限り一般人でも逮捕権がある。
縛り上げ、衛士府へ連れて行き、当直の者に引き渡した。
取り調べの結果、男は王都内で窃盗を繰り返していた犯人だと判った。
思いがけない手柄だ。

翌日、アブラハムは得意気に衛士の仲間達に昨夜の話を語って聞かせた。
「僕が最初に犯人を見つけたんだ!」
「「「へぇ〜!」」」
それが良い方に作用した。
日が経つにつれ、我も我もと夜回りをする者が増えたのだ。
ついにはアブ・シルまでもが「後輩達にだけやらせてはおけないだろ」と言って夜回りを始めた。
こうなると事は衛士府だけに留まらなかった。
衛士府とは関係の無い他の部署の者達まで夜回りを始めたのだ。
特に腕に自信のある者の中には「自分こそが犯人を成敗してやる」と意気込む者さえいた。
何せ平和な世である。
騎士といえども功績を上げて出世する機会など皆無に等しい。
これで名を上げれば取り立ててもらえるかも知れない。
…そんな打算で行動する者も多かったが、結果的に王都内の治安は確実に改善した。

…だが、それにも関わらず悲劇は再び起こった。
その夜、いつものように夜回りをしていたセイルとアブラハムであったが、その知らせを聞いて現場へと走った。

そこには20〜30人の人垣が出来ていた。
殆どが騎士である。
その真ん中で胸から血を流した女が倒れていた。
もう息は無いようだった。
集まった騎士達は話し合っている。
「くそっ…これだけの騎士が見回っていながら…」
「まるで我らを嘲笑っているかのようだな」
「逆に騎士が増えすぎたのがいけないんじゃないのか?犯人も紛れて動きやすくなったのかも…」
セイルは辛そうな表情で呟く。
「あの時、僕があの男を捕まえていれば…くっ!」
「セイル、気にするな。お前のせいじゃない」
その時、二人の後ろからアルトリアの声がした。
「こうなったら最後の手段しかありませんね」
「ア…アルトリア!?」
「アルトリアさん!!まさかこんな所で再びお会い出来るなんてぇ〜♪♪」

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