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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 61

「どうだった、クルアーン君?」
「やっぱり門前払いされたか?」
第三中隊の詰め所に戻って来たセイルにアブ・シルや同期の者達が寄って来て訊いた。
「いえ、総監が会って話を聞いてくれる事になりました」
「「「おぉっ!」」」
皆は驚嘆した。
「無駄だと思うけどねぇ…」
ポツリと呟く中隊長。
それをたしなめながら小隊長が言う。
「まあまあ…この一連の街娼殺害事件、けっこう王都の市民達の間でも話題になってますし、もしかしたら本当にクルアーン君の嘆願で上の連中も腰上げるかも知れませんよ?」
「どうかねぇ…あの自分の出世しか頭に無い総監殿が動くかどうか…」
溜め息混じりにボヤく中隊長。
だがセイルはそれより気になった点があり小隊長に訊いた。
「あ…あの、今“一連の”って言いました?同様の事件が他にも起こってるって事ですか?」
「うん。おそらく同一犯と思われる街娼婦を狙った殺人事件が、ここ数ヶ月の内に8件も起きてる。それもどんどん頻度が上がってるんだ。まぁ、君達が入って来てから我が第三中隊の管区で起きたのは初めてだったから知らないのも無理無いかもだけど…」
「8人も!?」
「街娼ばっかり?」
「犯人は街娼婦に恨みでもあるんですかね?」
新人達は一様に驚き尋ねた。
「まぁ、怨恨という可能性も無きにしもあらずだけど、おそらくは金目当ての強盗だろう。殺された娼婦達は皆金を抜き取られてたからね」
「しかし街娼の稼ぎなんて微々たるものでしょうに…」
アブ・シルが独り言のように呟く。
「いや、恐らくそこが犯人の狙いなんだろう。被害者は身寄りの無い娼婦ばかり、おまけに被害額も少ないと来れば…」
「なるほど、我々衛士府も動く事は無い。稼ぎは少ないが捕まる心配も無いって訳か…考えたなぁ」
会話を聞いていたセイルは怒りに震える拳をギュッと握り締めて言った。
「許せない…弱い立場にある人々から金を奪い、そのうえ命まで…非道すぎる!」
「クックルアーン君、落ち着きなさい。冷静にならないと犯人は捕らえられないよ」
殺意にも似た怒りを犯人へと向けるセイルに冷静になれとアブ・キルは諭され、セイルは落ち着きを取り戻す。
「すいません、アブ・シル先輩」
「いや、良いんだよ。僕もこういう犯人はムカついてるからね」
何だかんだ言って、自分の事を気にしてくれるアブ・シルにジーンと来るセイルであった。
「アブ・シル先輩」
「こういう事件って、上層部が派閥争いにかまけてるのも大きいですよね〜本当に上の人は民の事を考えて欲し、イテッ!!」
王都で連続街娼殺しが起きてるのに上層部は出世争いにかまけてる現状を小隊長が呆れながら話した途端。
小隊長は中隊長に頭を叩かれる。
「無闇に滅多に言うものじゃない!死にたいのか!」
「すっすいません。中隊長…」
「お前にも家族がいるからな」
そういうと中隊長はセイルの方を向き、上層部と王宮には関わらない方が注意する。
「クルアーン君、君も上層部には滅多な事をしない方が良いですよ。王宮は禍々しき伏魔伝だからね」
普段は昼行灯な中隊長がシビアな顔で上層部の事を語る姿にセイルは目を丸くする。
「ふっ伏魔伝ですか…(中隊長って、こんなキャラだったけ?)」
「そうです。この間、東部国境地帯へ将軍として現地赴任したサーラ姫が良い例です。確か君はサーラ姫と騎士学校では同期でしたよね」
「えっええ、姫と僕は同期でしたから、知っています」
しかも、サーラが初任から左遷された事をいわれセイルは少し動揺してしまう。
サーラは今、無事に任地に到着し、軍務および政務に就いているという話である。

鎮台府とは、つまりは要塞だ。
…と言っても、なにも砦だけが国境近くにポンと置いてある訳では無い。
小さいがそれに付随する都市がある。
長である将軍は、その都市の行政長も担っているのだ。

任地に赴く途上での暗殺も心配されたが、幸いにも何事も無く着任したそうだ。
してみると王都の連中もサーラが事実上の島流しとなった時点で脅威とは見なさなくなったのであろう…。

そして数日後、セイルは衛士府のトップである総監と面会する事となった。
「余が衛士府総監、アジーズ・ムサルマーンじゃ。そなたがクルアーン・オルハンの倅じゃな?ワシはオルハンとは古い付き合いで彼の事は良く知っておる」
立派な髭を蓄え、太鼓腹を突き出して椅子にふんぞり返った総監にセイルは緊張気味に挨拶する。
「お…お初にお目にかかります!クルアーン・セイルと申します!本日は総監閣下の貴重なお時間を頂戴し…」

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