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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 60

恐る恐る顔を覗き込んで尋ねるアブ・シルとアブラハム。
セイルは半ば叫ぶように二人に訴えた。
「だってそうじゃないですか!?一人の人の命が奪われたんですよ!?こんな…こんな簡単に済まされて良い話じゃないハズだ!命がこんなに軽くて良いはず無い!」
「うぅ…」
アブラハムは何も言えなかった。
一方、アブ・シルはどこか諦めたような表情で言う。
「…残念だけどクルアーン君、人の命の値段は君が思っている以上に安い。君も衛士府に勤めるなら、その事を良く覚えておくと良い…」
「そんな…」
「さあ、二人とも帰ろうか。戻って報告書作らなきゃな」
「「はい…」」
三人は現場を後にした。
だがセイルはどうしても納得できなかった。
彼は胸の内に釈然としない物を抱えたまま衛士府に戻り、夜明け前に帰宅した…。

部屋のベッドに寝転がって仮眠をしようとするセイルは無惨に殺された娼婦の姿が忘れることができず全然寝れず憤りが止まらなかった。
(命は軽くない!街娼だって人間だ。それなのに“門前の殺人は訴えなければ何もしない”なんて間違ってる!)
考え抜いた末に何か思いついたセイルは起き上がり、昨晩の娼婦殺しの下手人を見つけ出すのを衛士府に嘆願しようと決める。
「決めた!今回の事件はちゃんと調べるべきだ。御祖父様が僕と同じ立場ならば絶対にやる筈だ!まずは中隊長に直談判だ!」
「セイル様“聖剣の勇者”は短慮を起こしてはいけませんよ…」
しかし、セイルは短慮を起こしてはいけないと突然現れたアルトリアに諌められる。
いきなり現れたアルトリアにセイルは一瞬驚きそうになるが、それを抑えてアルトリアにセイルは言い返す。
「人が殺されたんだよ!冷静でいられる場合じゃないよ」
「そうやってムキになるのが、短慮というのですよ」
言い返すセイルにアルトリアは“やれやれ”って表情になる。
そして、どうやって犯人を見つけ出して捕まえるのかアルトリアはセイルに訊ねる。
「セイル様、確かに昨晩の事件は痛ましい物です。しかし、どうやって犯人を捕まえるのですか?」
「決まってるじゃないか、中隊長に直談判するんだ。こんな事を無視するのは騎士として間違ってるよ!」
「無駄だと思いますがねぇ…」

しかして翌日、出仕したセイルはさっそく中隊長に直談判した…が、やはりと言うべきか、満足のいく返答は貰えなかった。
「うんうん…君の気持ちは良〜く解る。解るよ、クルアーン君。人として正しい感情だ」
「では事件の捜査を…!」
「いやぁ、それはね…また別の問題でさ……まぁ、君も若いよね。その気持ちを大切にすると良いと思うよ?」
「な…何ですかそれ!?…解りました!こうなったら衛士府の総監に直訴します!」
「止めはしないよ…まあ無駄だと思うけど」

セイルは意気込んで総監室に向かった。
「待て!何者だ貴様は!?」
入り口で秘書官に止められる。
「実は総監殿にお会いして申し上げたい事があって来ました!」
「ならん!総監閣下はお忙しい身なのだ!貴様のような下っ端に付き合っている隙は無い!持ち場へ戻れ!」
「そこを何とか!お時間が出来るまで待たせていただいても構いませんから…!」
「ふ…ふざけるな!勤務時間中だぞ!?貴様、所属部隊と官、姓名を名乗れ!」
「第三中隊、二等衛士、クルアーン・セイルと申します!」
「え?……クルアーン・セイル!?ひょっとして、あのクルアーン・オルハン殿のご子息の!?」
「そ、そうですが…?」
「あぁ!それでしたら私の方から総監殿に話を付けておきますよ。第三中隊でしたね?後でお知らせに伺わせていただきます…あ!私の名はバーシャル、バーシャル・アブドラドと申します。はい。以後、お見知り置きを…」
「は…はあ、ありがとうございます…」
秘書官はセイルがオルハンの息子と知るや否や高圧的だった態度を一変させ、猫なで声でゴマすりして来た。
セイルは内心軽蔑したが、改めて父の影響力を思い知らされ複雑な気分だった。

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