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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 59


男の案内で駆け付けると、そこには若い女が胸から血を流して倒れていた。
「ふ〜む、こいつぁ街娼だな。もう息は無いか…左胸を刃物か何かで一突きってとこだな。結構美人じゃないか…畜生め、酷い事しやがる」
眉を潜めながらも冷静に検証するアブ・シル。
「うっ…」
「おえぇ…」
一方、セイルとアブラハムは情け無い事に、その場にうずくまって嘔吐してしまっていた。
「ハハハ…君らもまだまだだな」
「わ…笑い事じゃないですよぉ…」
「僕ら冗談抜きで他殺体って初めて見たんで…」
「…ま、俺も初めての時は吐いたっけなぁ…」
アブ・シルは昔を懐かしむように呑気にそう言うと、女の死体の前にしゃがみ込み、自らの胸の前で手を合わせて祈りの言葉を述べた。
「天にまします我らが神々よ、今一人の女の魂をあなた方の元へお返しいたします。願わくばこの哀れな女の魂が安らかならん事を…」
「アブ・シル先輩…」「………」
殺された女性に弔いの祈りをするアブ・シルの見事な対応にアブラハムセイルは関心すると。
アブ・シルに死者への弔いをしろと注意され、セイルとアブラハムは蹲って吐いてた自分たちを恥じるのであった。
そして、二人もアブ・シルの隣で殺された女性への弔いの祈り初める。
「こらこら、君らもやるんだよ。死者を弔うのも騎士の務めだよ」
「あっすいません」
「今すぐ、やります!」
そういって、セイルとアブラハムも弔いの祈りを行う。

街娼の死体を見た途端に嘔吐するセイルの軟弱且つ情けない姿にアルトリアは苦笑する。
イルシャ・ルーナと共に戦場を駆け抜けて人の死に慣れている彼女には嘔吐するセイルの姿は情けなく見えていた。
(遺体を観た程度で、動揺して嘔吐するようでは、セイルさま修行が足りませんね。聖剣の勇者はその程度では務まりませんよ!これでは実戦に出るときが心配だ)
そんなアルトリアの嘆きに全く気づかないセイルはのんきにくしゃみをしていたのであった。
「クッシュン!風邪かな?」
アブ・シルは言った。
「はぁ…もう四月も終わるってのに夜になると冷え込むなぁ…今年は寒いや…じゃあサッサと残りの順路を巡って帰ろっか!」
「「え…っ!?」」
その言葉にセイルとアブラハムは思わず絶句する。
「ん、どした?行くよ〜?」
「い…いやいやいやいや!ちょっと待ってくださいよ!」
「行くんですか!?行っちゃうんですか!?殺人事件ですよ!?」
「?…そうだけど?」
キョトンとした顔で聞き返すアブ・シル。二人は慌てて尋ねた。
「応援呼んで現場の検証とかしなくて良いんですか!?」
「犯人だってまだこの辺ウロついてるかも知れないでしょう!?非常線とか張らなくて良いんですか!?」
「あぁ…そういうのは遺族からの申し出があったらやるんだよ。我が衛士府の基本理念は“門前の殺人、訴え無くば検証せず”だからね」
例え正面玄関の前で殺人事件が発生しても被害者の遺族からの申請が無い限り捜査は行わない…という事である。
「まぁ、街娼なんて身寄りも無いだろうし、翌日には死体も片付けられてお終いだよ。可哀想と思うかも知れないけど、こんなもんだよ…」
「はあ…そんなもんなんですか…」
「……」
アブラハムは困惑しながらも納得したようだった。
だがセイルは何も言わず殺された女を見ている。
やがて彼は思い立ったように衛士の制服の上着を脱ぐと女の死体に被せた。
「あぁ!クルアーン君何やってんだよ〜?死体なんかに制服被せたらもう着れなくなるじゃないかぁ…確かに汚したり破損したりした場合は新しい制服が支給されるけどさ、あんまり無駄遣いしちゃダメだよ?最近は市民の監視の目も厳しくなってんだから…」
「…おかしい…こんなの絶対おかしいです…」
ボヤくアブ・シルの言葉を無視し、セイルは静かに呟いた。
彼の握り締めた拳は震えている。
「クルアーン君…?」
「セイル…?」

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