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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 58

「もう、君は食べ物の事に関してだけは呆れるほど貪欲なんだから…」
「むしゃむしゃ…しかしセイル様“腹が減っては戦は出来ぬ”と申します。それに食べられる時に食べておかないと、いつ都が包囲されたり国内の流通が止まったりして食糧難にならぬともかぎりませんから…もぐもぐ」
「いつの話をしてるんだよ!?今は平和な時代なんだから、そんな心配しなくて良いんだよ」
「冗談です…本気になさらないでください」
「えぇ〜…」

そんな調子で毎日が平穏無事の内に過ぎていった。
ところがセイルが勤め始めてから1ヶ月が経とうという頃、一つの事件が起きた。

その日、セイルは夜番に当たって午後遅くに出仕した。
「では小隊長、アブ・シル、クルアーン・セイル、シャフィーク・アブラハムの三名、夜間定期巡回に行って参ります」
「うん、気を付けてな」
あのやる気の無い中隊長の部下に当たる中間管理者である小隊長に告げ、アブ・シルはセイルともう一人の新人を連れて夜警に出た。
このアブラハムというのはセイルの同期の一人で“名は体を現す”という格言を体現しているかの如き小太りのぽっちゃりした少年だった。
「うぅぅ〜…やっぱり夜の街って何か怖い…何度夜警に出ても慣れないよ…」
そう言いながらブルブル震えているアブラハムにアブ・シルは言った。
「おいおいシャフィーク君、仮にも王都の治安を担う衛士が暗闇ごときに怯えてどうすんの?クルアーン君を見習え、クルアーン君を…」
「ハハハ…」
セイルは苦笑い。アブラハムは言った。
「は…はい、でも俺、小さい頃から暗闇とか幽霊とかホント苦手で…はぁ…セイルは凄いなぁ。俺、お前を尊敬するよ」
「いやいや、僕だって全く怖くないって訳じゃないんだけど…」
ただ、生きている人間の方が幽霊なんかよりもよっぽど厄介で恐ろしいという事を知っているだけだ。
「そう謙遜するなよ。同期の中でも一目置かれてるんだぜ、お前」
「そうなの…?」
そりゃ赴任早々あんな事(通称アブ・キル事件)があったんだから無理もないか…とセイルは思った。
アブラハムは言う。
「ここだけの話、最初は俺ら新人みんな、あのアブ・キルって先輩がそんな酷い人だって知らなかったからさ、その先輩をあんなにしちゃったセイルの事を『なんか怖い』とか『あいつヤバい』って言ってたんだ」
「うん…何となく知ってたよ」
最初、セイルは同期達が妙によそよそしいと感じていた。
もちろん今では誤解も解けて打ち解けたが…。
アブラハムは続ける。
「それで、先輩達がアブ・キルって先輩の事を教えてくれて、それで誤解が解けたんだ」
「そうだったんだ…ありがとうございます」
セイルはアブ・シルに頭を下げた。
それに対してアブ・シルは答えるでもなく言う。
「…まぁ、ほんとアイツは毎年々々若い芽ぇ摘み取る事にかけては他の追随を許さない新人キラーだったからなぁ…」
「今はどうしてるでしょうねぇ…?」
「なんか聞いた話じゃあ、施設でも周りに溶け込めなくて、しょっちゅうトラブル起こしてるらしいよ」
「そ…そうなんですか…」
「相変わらずですね…」
「幼児になっても本質だけは変わらないみたいだな。それでも以前のように日々恐怖に怯えて虚勢を張りながら生きていた頃に比べれば、今の方が断然幸せだろうよ」
幼児退行しても変わらないアブ・キルにセイルとアブラハムは呆れ返っていたが、
恐怖から解放されたからアブ・キルは幸せなんだとアブ・キルはフォローし、セイルもアブ・シルに賛成する。
「アブ・シル先輩、僕もそう思います」
アブ・シルは上手く話を切り上げると後輩達に仕事に専念しろと発破をかける。
「さてと、無駄話はこれでお終い。仕事に専念するよ!」
「「はい!」」
そして、夜警の仕事に専念するセイル達であった。

夜の街路をアブ・シルを先頭にセイル、アブラハムと続く。
街灯など無いので街中と言えど夜は真っ暗闇である。
昼間は多くの人でごった返していた賑やかな通りも、今はまるで違う顔を見せていた。
「それにしても夜の街ってやっぱ怖いよなぁ〜…」
そう言いながらアブラハムは横を歩くセイルにすり寄って来た。
「もう、アブラハム…またそれ?」
「“またそれ”って…怖い物は怖いんだからしょうがないだろ!?」
「いや逆ギレされても…」
そんな二人のやり取りを余所にアブ・シルは呟く。
「そういや今夜は新月か…どうりで闇が深い訳だ…」
その時だった。
「あぁぁ〜〜!!!へ…兵隊さぁ〜ん!!」
少し先の辻から真っ青な顔をした男が飛び出してきた。
「どうした!?」
「そ…そ…そこの袋小路で…お…女が殺されてるんですぅ〜!!」
「「「…っ!!?」」」
三人に緊張が走った。
アブ・シルは男に言った。
「その現場へ案内してくれ!」

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