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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 56

だが、セイルの言葉はアブ・キルの心には響かなかった。
「チクショオォォ!!!悪魔めぇ!!ついに本性を表しやがったなぁ!!?神々よぉ!!!我に力を与えたまえぇ!!!!悪魔を成敗する力をおぉぉ!!!!」
アブ・キルは天に向かって両手を上げ、喉も張り裂けんばかりに絶叫した。
その瞳には狂気の光が宿っていた。
「ヤバい…クルアーン君、逃げろ!!」
「アブ・シル先輩、下がっていてください…」
「ク…クルアーン君!?」
セイルはアブ・シルの前に立ち、腰の聖剣を抜いて構えた。
「お…おい!!!二人とも馬鹿な真似は止めろ!!私闘は犯罪だぞぉ!!?」
アブ・シルは真っ青になり半ば叫ぶように言った。
だが、睨み合い対峙する二人にはもうアブ・シルの言葉は届かない…。

セイルは剣を構えるアブ・キルをジッと見ながら考えていた。
(…あの構え方からして、恐らく剣の腕自体は大した事はなさそうだ…でも彼は僕を本気で殺そうとしている。僕を悪魔だと彼は言った。自己の内面の負の感情を全て僕に投影して激しく憎悪しているんだ。だから容赦なく本気で僕を殺しにかかって来るだろう。しかも真剣…負けは即ち死だ!本物の死だ!!)
そう、これはかつてのダブウとの三本勝負とは違う、卒業試験の旗取り合戦とも違う、命を懸けた文字通り真剣勝負なのだ。

アルトリアは姿を消したまま少し離れて様子を見守っていた。
(えらい事になってしまった…これでは助けようにも助けられない。姿を消したままあの男を殺せばセイル様が殺人犯になってしまうし、かと言って姿を現して助太刀に入っても、下手に割って入れば間合いを乱してしまう。こうなったらもうセイル様を信じて見守るしか無いではないか…クソッ!こんな事ならあの男をサッサと事故にでも見せかけて始末しておくべきだった…!)
アルトリアはギュッと拳を握り締める。
セイルの剣の腕を信用していない訳ではないが、見守る事しか出来ないというのがもどかしくて堪らない。

セイルとアブ・キルはもう一分ほど睨み合っている。
…と、アブ・キルが動いた。
「このおぉぉ!!!死ねやあああぁぁぁぁぁっ!!!!」
技も何も無かった。
剣を思いっきり振りかぶり、渾身の力を込めてセイルに向かって打ち下ろす。
「…っ!!」
だが、次の瞬間セイルは勢い良く後ろへ飛び退き、剣先が地面を叩いた。
アブ・キルは咄嗟に剣を構え直そうとするが、セイルの方が早かった。
「はああぁぁぁぁっ!!!!」
セイルの剣先が閃き、アブ・キルを逆袈裟に斬り上げた。
「ぎゃああぁぁぁぁっ!!!?」
 キイイイィィィィンッ!!!!
いや、実は斬ったと見せかけて、剣を弾き飛ばしただけだった。
「…あ、ああ…あぁっ!?」
アブ・キルは弾みでフラフラっと後ろに二、三歩後ずさる。
そこにあったのはセイルが掘った穴だった。
「うわあぁぁっ!!?」
 ドスンッ
アブ・キルは穴に転落した。

「うぎゃあ〜お母ちゃん!!痛いよ〜助けてえ〜!!」
穴に落ちたアブ・キルは泣き叫び失禁し居ない母親に助けを求めていた。
余りにアブ・キルの醜い様にセイルとアブ・シルは黙ってみていた。
「何だ騒がしいぞ!何が起きたんだ!
アブ・キルの泣き叫ぶ五月蠅い声に気付いた中隊長が部下を連れて現れた。
すかさず、アブ・シルはアブ・キルが乱心した経緯を話しを聞き中隊長は大いに納得する。
「あっ、中隊長殿」「中隊長、アブ・キルの奴が乱心をしてクルアーン君を殺そうとしました」
「奴の醜態を見る限り間違いないな」
アブ・シルの報告を聞き中隊長も納得する。
アブ・シルは穴の縁にしゃがみ込み、手を差し伸べて言った。
「おいアブ・キル!何が“お母ちゃ〜ん”だ。そんな所でめそめそ泣いてないで早く上がって来いよ」
「うえぇ〜ん、うえぇ〜ん、こわいよぉ〜、みんながボクをいじめるよぉ〜、たすけてぇ〜、お母ちゃぁ〜ん」
「お前なぁ…いい加減にしろよ!?こんな大騒ぎを引き起こしやがって!いつまで幼児のフリなんてしてるつもりだ!?早く出て来ないと本当に承知しないぞ!」
「ちょっと待ってくださいアブ・シル先輩!アブ・キル先輩の様子、何だかおかしいですよ」
「はあ…?」

その後、ぐずるアブ・キルを数人がかりで穴から引っ張り上げ、診療室に連れて行って軍医に調べさせた所、精神的ショックが原因の幼児退行現象である事が判明した。
演技ではなかったのだ。
とりあえず家族に連絡を…という事になったが、困った事にアブ・キルの両親は既に亡く、親戚連中も「そんな事を家に言われても困る。そっちで何とかしてくれ」と冷たい対応。
皆はアブ・キルの心が歪んでしまった一因を垣間見たような気がした。

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