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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 55


…アブ・キルは、まるで何かに取り憑かれたかのように、悪鬼のような形相でまくし立てた。
「……」
セイルは呆気に取られて何も言えなくなってしまい、ただ呆然とそれを眺めているしか出来なかった。
(…この人は、僕を責めているようでいて、本当は自分を責めているんだ…他人を憎み、世の中の何もかもを呪っているように見えるけど、本当は誰よりも、何よりも、自分自身を嫌い、憎み、呪っているんだ…)
その事に気付いた彼は口をつぐんでしまった。
言い返すべき言葉を失ってしまったのである。

そこへ、新たな人物が現れた。
上司である中隊長と先輩のアブ・シルだった。
「あ〜、アブ・キル君…ちょっと良いかな?」
「あ!ちゅ…中隊長!聞いてください!こ…このクルアーンのヤツは、実はとんでもない悪党だったんです!腹の中で俺達みんなを、嘲笑っていやがったんです!」
「あ、そう。ま、そんな事どうでも良いんだけどさ、それより君に、ちょっと単身赴任してもらいたいんだ。ちなみに拒否権は無いよ」
「た…単身赴任ですって!?一体どこへ!?」
「北方鎮台」
中隊長はサラッと地獄の一丁目の名を口にした。
「ほ…ほほ…ほほほ…っ!!!?」
「…ああ、ちなみに期間は無期限だから。じゃ、確かに伝えたよ…」
それだけ言うと中隊長は踵を返して帰って行った。
「ま…待ってくださいぃ!!!何で俺があぁぁ!!?」
「解らないのか?左遷に決まってるだろう」
アブ・シルが言った。
「仕事は出来ない、同僚との協調性も無い…それでも大人しくしてるならまだ可愛げもあるってもんだ。それがお前ときたら、陰口は叩くわ、職場の人間関係は乱すわ、毎年入って来る新人に取り憑いてツブすわ…もう救いようが無いじゃないか。北方行きも当然だよ」
「ば…馬鹿な事言うな!!だいたい“取り憑く”って何だよ!?人を悪霊みたいに言いやがってぇ…っ!!」
「充分悪霊だよ。…さあ、クルアーン君、上がって来い。もう穴掘りはお終いだよ。今日から君は俺が指導する。同期に遅れた分、早く取り戻さないとな」
アブ・シルはセイルに手を差し伸べて言う。
「あ……はい!」
セイルはアブ・シルの手を取って穴から出て来た。
「お…おい!!!クルアーン!!!テメェ一体誰の許しを得て穴から出やがったぁ!!?」
ブルブルと震えながら怒鳴り散らすアブ・キルにアブ・シルは溜め息混じりに言った。
「これは中隊長命令だ。…てゆうかお前は早く自分の机と棚の整理しろ。…ああ、その前にその穴はちゃんと埋めておけよ?…ったく、中庭あっちこっちほじくり返させて、畑にでもする気かよ…」
「ふざけるなあぁぁ!!!何でだよおぉぉ!!?何で俺が北方行きなんだよおぉぉ!!!?」
彼は有らん限りの声を張り上げて叫んだ。
そして次の瞬間ハッと悟った。
「そうか!!解ったぞぉ!!これは陰謀だ!!俺を陥れるために仕組まれた陰謀に間違い無い!!!アブ・シル!!!犯人はお前だなぁ!!!?」
「はぁ?…ふざけんな!!!!俺がそんな事して何になる!!?テキトーな事言うな!!!」
「ヒィッ!!!?」
アブ・シルに怒鳴り付けられたアブ・キルはビクンッと身をこわばらせた。
「ア…アブ・シル…じゃないとするとぉ…」
アブ・キルは怒鳴られた途端に急に態度を一変させ、ビクビクオドオドしながら何かを探し求めるかのように辺りをキョロキョロと見回した。
そしてセイルの姿を認めるや否や、クワッと目を見開き、また叫んだ。
「わ…解ったぁ…解ったあぁぁ!!!!お前だあぁぁ!!!!お前が真犯人だったんだあぁぁ!!!!ついに見つけたあぁぁ!!!!コイツだあぁぁ!!!!コイツだったんだあぁぁ!!!!コイツが陰謀を企てて俺をこの職場から追放しようとしやがったんだぁ!!!!」
「え…えぇぇっ!!!?」
セイルは戸惑う。
アブ・シルはそんなセイルの手を引っ張って言った。
「クルアーン君、もう相手にするな。行くぞ」
「い…良いのかなぁ…」
二人は無視して立ち去ろうとした。
「フゥーッ!!フゥーッ!!待てえぇ!!!!クルアーン!!!!」
「あ…っ!!!?」
振り返るとそこには目は据わり呼吸を荒げ口からはヨダレを垂らしたアブ・キルが腰の剣を鞘から抜いてセイルを睨み付けていた。
「お…おい!!アブ・キル!?お前一体何考えてんだ!?」
「うるせえアブ・シル!!!!テメェは黙ってやがれぇ!!!!俺はコイツを殺さなきゃならねえんだよぉ!!!コイツは俺の人生を破滅に追い込むために地獄から来た悪魔の化身なんだからなあぁ!!!!」
本気の目だ。
「よ…よし、解った…俺が悪かった…お前が正しい…だから、まず剣から手を離せ…落ち着いて話し合おう?な?」
「だから、そこのクルアーンを引き出せよ!話はそれかっ!!」
必死でアブ・キルを宥め説得するアブ・シルにアブ・キルは全く折れず剣を振り回しセイルを引き渡せと喚くが、その時意外な事が起きた。
バッチーーーーーーーーン!!!!!!!!
「うっぼあああああぁぁぁぁぁぁ…っ!!!?」
何と今まで黙っていたセイルがアブ・キルの顔面を思いっきり殴り壁まで吹っ飛ばしたのである。
しかも、殴り飛ばしたアブ・キルを臆病で最低な人間と怒鳴りつけた!
「クックルアーンくん?」
「いい加減にしろ!!!僕は悪魔なんかじゃないし、あなたを見下したりもしてない!自分を肯定するために他人を見下してるのはあなたじゃないですか!!あなたは自分の過ちや欠点を何もかも他人のせいにして自分を誤魔化して生きている臆病で卑屈な人間だ!!もういい加減に目を覚ましてくださいよ!!!」
アブ・キルを殴りつけ一喝するセイルの意外な行動に隣にいた先輩アブ・シルは驚いていた。

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