PiPi's World 投稿小説

剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 49
 51
の最後へ

剣の主 51

ジェムは思った。
(フン…自分だけは無欲の聖人君子気取りか、お坊ちゃまめ。他人よりも優れたものでありたい…例えそのために他人を犠牲にしてでも…それこそが人間の本質ではないか。この男が言っている事は恵まれた人間の寝言に過ぎない。まったく不快にさせてくれる…)
ジェム自身も気付いていたが、彼は苛立っていた。
この手の甘っちょろい戯れ言を口にする人間を目にすると、彼は無性にイライラするのだった。
だが、それが“嫉妬心”から来る苛立ちである事には、彼自身も気付いてはいなかった。
王太子アルシャッドの方も、ジェムの鋭い目付きや態度をみて本能的に危険人物と感付いていた。
(こっこの男は危険だ。母上はとんでもない男を味方にしたのではないか)
ジェムの危険性に気づいた王太子であったが、母である王妃にジェムは危険と言いたかったが、
常日頃、己の実力を過信している母に何を言っても聞き入れないのとアルシャッドは知ってる為、
ただ憂うるだけであった。
(これから、わが国はどうなるのだ…)
そんなアルシャッド王太子の内心を余所に、シェヘラザード王妃はジェムに言った。
「ヤヴズ・ジェム…あなたが何を考えているのかは今は問いません。私達としても今は少しでも味方が必要な時なのですからね…。あなたは若いのになかなか頼りになります。見込みがあるわ。良いですか、ジェムや。これからはあなたは私達の手足となって我が派閥の回復そして更なる拡大ために働きなさい。私達の利害は一致するはずよ」
「かしこまりました王妃殿下」
そう言うとジェムは深々と頭を下げた。王妃は思う。
(フフフ…忠実で、賢く、おまけに見た目も可愛い…本当に良い“犬”を得られたわ。…でも油断はならない。この犬は忠犬のフリをしているけれど、いつ主人に噛み付いて来るか判らないんですもの…。まあ、いざとなったら先手を打って始末すれば良いだけの話…何も心配いらないわ)
いくら遣り手とは言え所詮ジェムは若造…何十年もの間、宮廷内で謀略を駆使して可愛い我が子の王太子の座を守って来た自分に比べれば赤子も同然。
彼女にはそれだけの自信があったのである。

王宮内の自分の執務室に戻ったジェムは腹心のアブシル・シャリーヤを呼び出した。
「お呼びでしょうか?ジェム様」
「うむ、計画が上手く行き、叔父は死んだ。君のお陰だよ、シャリーヤ。本当に良くやってくれたね…あ、そうそう、忘れる所だった。犠牲になられた君のお父上にはお悔やみを申し上げるよ」
もうお気付きの方も居られると思うが、今回の陰謀で殺されたアブシル・イムラーンは彼女…アブシル・シャリーヤの父親であった。
矢を放ったのはシャリーヤ自身である。
つまりジェムはシャリーヤに自分の父親を殺させたという事になる。
だが彼は特にそれについて罪の意識を感じているといった風は無かった。
「……ジェム様、一つだけ言わせていただけるのならば…私と父は、特に仲の悪い父娘ではありませんでした…」
表情も声色も変える事無く、しかし言葉の前に少しの間を置いて、シャリーヤはジェムに物申した。
「そうか」
それに対するジェムの答えは、その一言だけだった。それも平然と。
このジェムという男にとって家臣なんて、自分の為に働く手駒としか思ってないのだろう。
主君の為に実の父親を殺めた少女に対して、ジェムの言葉と態度は余りにも理不尽で鬼畜非道その物であった。
このジェムの仕打ちに流石のシャーリーヤも戸惑いの表情になる。
愛しい主のために実父を殺めたのに、一言ですますジェムの態度にシャーリーヤは心のどこかで憤然とした物が沸いていた。
「ジェムさま……」
「だが、君のお陰で僕は最悪の危機を脱した。君の働きは無駄にしない為にも、僕は更なる高みを行くよ!」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す