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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 50

優しげな顔立ちをした色の白い青年が、王妃をたしなめながら頭を下げている若い男に言う。
彼の名はアルシャッド王太子。
アフメト4世と正妃シェヘラザードとの間に生まれた嫡男にしてイルシャ王国の次期国王の座を約束された“王太子”である。
「いいえ、王太子殿下。お気遣いありがとうございます」
そして三人目、こう言いながら頭を上げた若い男…いや少年と言っても良い年頃かも知れない…それは何とヤヴズ・ジェムその人であった。
「それにしてもジェムよ、ワムはそなたにとっても叔父であったはず…それを同じヤヴズ家の身でありながら、良く勇気を持って『彼が此度の事件の首謀者だ』と知らせてくれた。誠にそなたは私心無き臣下の鑑(かがみ)である。そなたは国の宝だ。本当に良く教えてくれた…」
王太子は優しげにジェムに語りかけた。
ジェムは応えて言う。
「勿体無いお言葉にございます、殿下。このヤヴズ・ジェム、例え叔父と言えども王家に仇なす者を見逃す事は出来ぬと思い、このような結果になる事も覚悟の上で両殿下にご相談いたしました次第でございます。悔いてはおりません。私の望みはただ一つ…偉大なる王家の下、イルシャ王国が安らかに治められる事、ただそれに尽きます」
それを聞いた王妃は笑って言った。
「ホホホ…白々しいですこと。さすがヤヴズ・セムの孫。涼しい顔をして平然と虚言を口にする…とんだ狸もいたものですわね。まったく末恐ろしい…」
「は…母上!?何という事を…!」
「良いのです、殿下。まったく、王妃様には適いませんな…」
「ジェム!?それはどういう事か!?」
「アルシャッドや、このヤヴズ・ジェムは忠臣などではありません。こやつめはただ単にヤヴズ家の家督が欲しくて叔父のワムが邪魔だったため、我々を使って排除しただけの事…どうせ今度の事件もお前が仕組んだ事なのでしょう」
「これは参りましたね。そこまでお見通しとは…いや、恐れ入りました」
「まあ、今回のワム失脚は助かったわ。それにヤヴズの家督は現時点では、お前が継いでくれた方が都合が良い物ね!」
忌々しげにジェムを睨みながらも、王妃はワムを失脚させてくれたジェムに一応労いの言葉をかける。
ジェムは恭しく返礼をするが、腹の中はどうやって王妃を潰そうか考えていた。
「はっありがとうございます!(せいぜい、一時の我が世の春を楽しんでください。王妃様)」
王妃にとってジェムは憎らしいヤヴズ・セムの孫であるが、壮年のワムよりも少年のジェムの方が御せられて王太子の地位再確立にはジェムの登用は必要と思ったからである。
最も用が済めば、王妃はジェムは消す腹積もりであった。

王太子アルシャッドは決して暗愚ではなく穏健で良識ある王子でイルシャ王国を良く治めようと日々、政務と勉学に励んでいた。
しかし、気が優しく王妃シェヘラザードは愛しい息子を溺愛してたが頼りなく感じて宮廷内で派閥を築いてたのである。
そして、力を得るために叔父を陥れたジェムとそんな男を利用する腹積もりの母にアルシャッド王太子は付いていけなかったが、一言言わねばならぬと感じていた。
「はっ母上、ジェム」
「アルシャッドどうしたのです。しっかりなさい!」
アルシャッドは気分悪そうにフラつきながらもジェムに尋ねた。
「ジェ…ジェムよ、いくら家督を己が物としたいからといって、それは実の叔父を犠牲にしてまで手に入れたい物なのか?肉親の命よりも権力の方が大切だというのか…?」
ジェムは答える。
「…王太子殿下、生まれながらにして次代の玉座が約束されていたあなた様には…自ら求める事をせずとも全てを与えられてきたあなた様には解らないでしょうな…野心という物はね…」
加えて王妃も言う。
「ホホホ…ジェムの言う通りですよ、アルシャッドや。あなたもいずれ国王となるのですから、もう少し野心という物を持った方が良くってよ?」
「野心ですか…私は野心などいりませんよ。野心は多くの人々を傷付け、不幸にする元凶です。私はそんな物は持ちたいとは思いません。逆に私にはあなた方の考えの方が理解に苦しむ。人はそれぞれ手の届く範囲で幸福を得て生きていければそれで良いではありませんか…なぜ他人の分まで奪わねばならないのですか?なぜそこまでして他人より優れていなければならないのですか?」

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