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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 6



僕らは目指すイルシャ王国の都イルシャマディーナまで、駅馬車に揺られながら街道を進んで行った。
これは都市間を行き来している乗合馬車の定期便で、僕らの他にも複数のお客さんが乗り合わせている。
「セイル様、この馬車には護衛の兵士は乗っていないのですね。盗賊団に襲われたらどうするのですか?」
アルトリアは大真面目にそんな質問をして来た。
「今はそんなもの必要無いんだよ」
確かに500年前なら国内の治安も今よりずっと悪かったろうから、安全に旅も出来なかったんだろうな。
「へへへ…兄ちゃん、その女奴隷ずいぶんトボけてんなぁ。西大陸からでも連れて来たんかね?」
僕らの隣に座っていた中年男が下品そうに笑いながら尋ねて来た。
「はあ…まあ、そんな感じで…」
適当に答えながら僕は思う。そう言われてみれば確かにアルトリアはこの東大陸の人間にしては肌が白い。西大陸の人間と思われてもしょうがないかも…。
(そうだな、学園のみんなにも西大陸出身の奴隷っていう事にしておこう。それならこの国の事情に通じてなくても納得だし…)
だが次の瞬間、僕はその考えを改めざるを得ない状況を目の当たりにした。
「…貴様、今“奴隷”と言ったな…?確かに私はこのお方に仕える身だが断じて卑しい奴隷などではない。…取り消せ。今すぐに!」
アルトリアはいつの間にか僕の腰の聖剣を抜いて男の喉元に突き付け、物凄い剣幕で彼を睨み付けて迫っていた。
「は…はいぃ、し…しいましぇん…」
可哀想な男はガクガクと震えながら涙目でアルトリアに謝った。
彼女がかつて女王に仕えた聖剣の聖霊である事をウッカリ忘れていた。そりゃあ奴隷なんて言われたら怒るだろう…。
「…セイル様も、私の身の上の説明が面倒だからと言って、適当にお返事などなさらないでいただきたい…」
「は…はい」
僕も思わず敬語で返事してしまった。
(奴隷という設定は無し…と)
僕はそう心に刻み付けた。


駅馬車を乗り継ぐこと三日、僕とアルトリアは無事、王都イルシャマディーナに到着した。
「ここがイルシャマディーナですか…昔の面影がまるでありませんね」
「そりゃあ500年も経ってるんだから当然だろうね。さぁ、こっちだよ」
僕達は停車場から歩いて騎士学校に向かった。

騎士学校…正式には“イルシャマディーナ王立騎士学院”なんて仰々しい名前が付けられている。歴史は古く、国祖イルシャ・ルーナ女王が自ら街の少年少女達に剣術を教えたのが始まりだと言われているけど、真偽の程は定かではない。
当時は青空教室だったらしいが、今では王都の一角に広大な敷地を持ち、少なくとも300年以上前に建造されたという風格ある立派な校舎を持つ“一応”名門校だ。
“一応”と付けたのは入学資格が生徒個人の実力よりも家柄による所が大きいから。生徒の大部分は貴族や騎士の家の子弟なのである。
かく言う僕も実家が代々続く騎士の家系だったから入学出来たようなものだ…。

「よう!セイル!元気そうじゃねえか!!久々の帰郷は楽しかったか?」
「あ!ドルフ!!」
僕がアルトリアを連れて騎士学校の校舎に入ると、身長二メートル近い大男が声を掛けてきた。
(あ〜あ・・・帰って早々嫌な奴に会ったな・・・)
その男の名はドルフといいイルシャ王国でも有数の大貴族の息子で、この騎士学校の生徒たちの中でも最強の腕前を誇っている。(もっとも学問の方はサッパリだが・・・)
彼の巨大な体格から繰り出される無双の豪剣は、かつて剣術実習で適役である猛牛を一撃で真っ二つに引き裂いた事もある。
ただ残念ながらドルフの素行は余り良くない。
普段から大貴族の息子という地位と、自らの腕力を傘に着て、騎士学校でも素行の悪い人間や町の悪ガキ共を従えて、日々様々な事件を起こしており、学校の悩みの種になっている。
因みに基本的に真面目な堅物タイプの僕とドルフは、相性が最悪に近く、僕らは犬猿の仲に成っている。
「お!何だ、何だ?随分良い女を侍らせてるじゃねえか!お前みたいなモヤシ野郎には勿体無いぜ!・・・どうだ姉ちゃん!そんな青ビョータンは止めて俺の女に成らねえか?」
そう言うとドルフは馴れ馴れしくアルトリアの肩に手を回した。
(あ!この馬鹿!!)
「無礼者!!」
僕の予想通り、ドルフの無礼な言動に、それでなくとも短いアルトリアの堪忍袋は一瞬で引き裂かれ、ドルフの股間と脳天に鋭い剣線が二つ走った。
「がうぉ!?!?」
幸いアルトリアは抜き身では無く、鞘に入ったままの剣でドルフを打ったのだが、男の急所を剣の鞘で叩かれたドルフは、余りの痛みに悲鳴も出せず悶絶した。
次の脳天への一撃で気を失ったのは、彼にとっては不幸中の幸いだったかも知れない。
「セイル様への侮辱は、この私が許さん!命が有っただけマシと思え!!」
アルトリアはそう言うと汚らわしい物を見るような目つきでドルフを見下し、僕はこれから彼の巨体を保健室まで運ぶ苦労と、何れ行われるであろう彼の復讐を想像して、短い溜息を吐くのだった。

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