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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 49

少し叱りすぎたと反省し、ワムは息子たちに次々と出される料理を勧め、バムとブムはけろっと再び食べ始める。
「まあ、お前たちの気持ちは解るがな…さあさあ、料理はどんどん来るんだ冷めない内に食うぞ!」
「そうなんだな!」「今日は食うぞ!」
(しかし、ジェムの顔は日に日に怖いほどヘムの兄上に似てくるな)
葡萄酒を飲みながら、ワムは実兄のヘムを思い出す。
幼少時から兄のヘムは息子のジェムと同じく英邁で絵に描いた美男子であった。
しかし、本性は傲慢で尊大な性格で父セムや家臣や使用人たちの前では模範的な嫡男を演じていたが、
その一方でワムは兄ヘムに『豚』と罵られ酷い苛めを受けていたのである。
その為亡き長兄に似ている甥のジェムをワムは嫌っていたが、父セムが引退し、自分が宰相となりヤヴズの嫡流になった今ジェムなんて恐れるに足りないワムは自信満々であった。
(この宰相の地位と父上が生きてる間はジェムは指を加えてるだけだ。後は父上が生きてる間に勢力を拡大させれば、父上が死んだ頃にはジェムを追い出すことも可能だ!)
しかし、ワムはまもなく甥ジェムの恐ろしさを知る事になるのを気づいてなかった。
 ドンッ ドンッ ドンッ
親子が食事を楽しんでいると突然、強く扉を叩く音が玄関の方から響いて来た。
「何じゃ?」
「見て参ります」
侍女の一人が玄関へと向かった。
「キャッ!?あ…あなた方は…一体こんな時間に何のご用ですか!?」
「どけ!!至急で宰相閣下に問いただしたい事がある!!」
何やら不穏なやり取りが聞こえてきたと思うと、どかどかと大勢の足音が近付いて来た。
「「ひいぃ〜!!」」
バムとブムは抱き合って震えている。ワムは額に嫌な汗が浮かんできた。
次の瞬間、食堂に武装した兵士達がぞろぞろと入って来た。ワムは怒鳴り付ける。
「な…何者じゃ貴様ら!!?ここをイルシャ王国宰相ヤヴズ・ワムの屋敷と知っての狼藉か!!?」
隊長らしき男が答えた。
「我々は国王陛下直属の近衛隊です!先日のアブシル・イムラーン殺害の件で宰相閣下に是非とも問いただしたき事がございます!」
「な…何ぃ〜っ!!?」
屋敷のあちこちからガシャーン!パリーン!と物の壊れる音がする。
どうやら家捜しをしているらしい。
「隊長殿!ありました!」
やがて一人の兵士が何かを持って来て隊長に手渡した。
矢筒(矢を入れて携帯するための筒状の容器)だ。
「うむ…」
隊長はその中から一本の矢を取り出してまじまじと眺めて言った。
「…やはり間違い無いな。告発の通りだ…宰相閣下、この矢は閣下の物に間違いございませんな?」
「そ…そうだ!それは私の狩猟用の矢だが、それが何だと言うのだ!?」
「…よし!ヤヴズ・ワムを逮捕せよ!」
「「「はっ!!」」」
「え…えぇぇ〜!!?な…何でぇ〜!!?」
「「お父上ぇ〜っ!!!」」
ワムはあっと言う間に捕縛されてしまった。隊長は言う。
「この矢羽根の模様、先日の国王陛下の鷹狩りにおいてアブシル・イムラーンに対して射られた矢と全く同じ!ヤヴズ・ワム!アブシル・イムラーン殺害および国王陛下に対する反逆の容疑で身柄を拘束させてもらう!」
「ば…馬鹿な!!私がイムラーンを殺した!?そんな事をして私に何の利がある!?」
「言い訳ならば近衛府にて聞こう…連れて行け!」
「「「はっ!!」」」
「は…はなせぇ〜!私は無実だあぁぁ!!」
「「父上えぇぇ〜〜!!!」」

…ワムが逮捕されたと知ったセムは飛び上がらんばかりに驚いた。
「何じゃとおぉ!!?ワムが…!?…おぉ!!これはきっとヤヴズ家の繁栄を快く思わぬ者達が我らの力を削ごうとして仕組んだ陰謀に違い無い!!」
彼はそう結論付けた。
…確かにそう考えるのが普通なのだ。
「ぐぬぬ…悔しいのう!しかし今は何とかしてワムを救う事を考えねば…!」
セムはさっそく各方面への働きかけを開始した。

しかし、かつて宮廷内で権勢を誇った大宰相といえど、既に引退した身…その発言力は現役時代の比ではなかった(弱さが)。
それに(セムの引退によって勢力を盛り返してきた)国王が“大層なご立腹”とあって、関係者の誰もがセムに非協力的だった。
そもそもセムを始めとするヤヴズ家自体が元々宮廷内であまり好かれていなかった事もあって、皆内心では「ざまあみろ」と思っているのだ。

そして逮捕から僅か数日後、ワムに判決が下った。
斬首。
翌日、ワムは王宮前広場で群集が見守る中、首をハネられた。

「おおぉ…ワム…何という事じゃ…」
セムは嘆き悲しみ、衰弱して寝込んでしまった。
ワムの減刑のための奔走も水泡に帰したのだ。
それにしても「犯人はワムだ」と告発したのは一体誰だったのだろうか…?

ここは王宮の中庭、そこに三人の人物が居た。
「王妃殿下、王太子殿下、この度は私めのご注進をお聞き届けくださり、誠に有難う存じます…」
片膝を付いて頭を垂れる若い男の言葉に、金銀の装飾品で着飾った太った初老の女性が満足げに微笑みながら言った。
「オホホホホ…これでジャーファール達の仇が討てましたわね。ざまあ見なさいヤヴズ・セムめ」
彼女の名はシェヘラザード第1王妃、イルシャ王国国王アフメト4世の正室である。
おそらく若い頃はそれなりの美人だったと思われるその容貌は、今や分厚い脂肪に覆われて見る影も無い。
「は…母上、何も彼の前でそのような事を申されずとも…。済まぬ、気を悪くするでないぞ」

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