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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 48

翌日、王宮へ出仕したジェムは執務室に腹心の少女アブシル・シャリーヤを呼び出した。
ジェムの与えられた官職は王宮の“馬屋番頭”である。
馬屋番と言っても実際に厩舎の清掃をしたり馬達の世話をしたりする訳ではない。
大昔はそうだったのだが、長い年月を経て形骸化し、現在は名ばかりの名誉職だ(イルシャ王国にはこういう実務を伴わない単なる名誉称号と化した官職が多い)。
大宰相ヤヴズ・セムの孫にして第13王妃ジャミーラの甥でもあるジェムは、専用の執務室を与えられ、王宮内の(王とその妻達が暮らす後宮(ハレム)を除いて)全ての区画に立ち入る事を許されていたのである。
「お呼びでございますか、ジェム様?」
「うん、良く来てくれたね。シャリーヤ…」
このクールでミステリアスな印象を持つ美少女シャリーヤはジェムの直属の部下となっていた。
祖父セムの計らいもあったが、元々アブシル家がヤヴズ家の臣下筋の家柄なので、すんなり実現したと言って良い。
ジェムはシャリーヤに尋ねた。
「シャリーヤ、君は僕のためならどんな事でもするかい?」
「何を今さら…この私の身も心も、全てはあなた様の物です、ジェム様。このアブシル・シャリーヤ、あなた様のご命令とあらばどのような事でもいたします」
「本当にどんな事でも…どんな汚い事でも、人道に外れた事でも出来ると言えるかい?」
「もちろんでございます。それがジェム様のお望みならば…もしあなた様が今ここで死ねと仰れば私は喜んで死にます」
「そうか…ならば例えば…」
…とジェムはここで少し間を置いて、そして言った。
「…君の親を殺せと言ったら、君は自分の親を殺せるかい?」
これにはさすがのシャリーヤも一瞬の逡巡を見せた。だが彼女すぐに答える。
「…はい…ジェム様がそれを望むのであれば…」
「そうか…良く言ってくれたね、シャリーヤ…」
ジェムは椅子から立ち上がってシャリーヤに歩み寄ると、優しい手付きで彼女の身体を抱き寄せ、そして耳元で何やら囁いた。
その話を聞いたシャリーヤは一瞬、驚愕の表情を浮かべて凍り付いたが、すぐに元に戻り、ジェムの前に片膝を付いて頭(こうべ)を垂れて言った。
「……かしこまりました。ジェム様の仰せのままに…」

それから数日後の事。
イルシャ国王アフメト4世は近臣達と共に王都イルシャ・マディナ近郊の森で鷹狩りを楽しんでいた。
「おぉ!イムラーン、見たか?余の鷹がウサギを仕留めたぞ!」
「はい!さすがは陛下、お見事でございます!」
アフメト王は久しぶりに羽を伸ばしていた。
このイムラーンという男は、近臣達の中でも特にアフメト王お気に入りの臣下だった。
彼はヤヴズ・セムの配下の者だが、セムと違って気さくで人柄も良く、セムやその配下の者達の事があまり好きではないアフメト王とは珍しく気の合う仲だった。
…だが突然の惨劇が彼らを襲った。
「ぐあぁぁっ!!?」
「イ…イムラーン!?」
突如として飛んで来た一本の矢がイムラーンの胸を貫いたのだ。
方向から、王を狙った物とも思われた。
アフメト王は慌ててイムラーンに駆け寄り、その身を抱き起こした。
「イムラーン!しっかりするのじゃ!」
「へ…陛下…ご無事で…何よりでございまし…た…」
矢尻に毒が塗ってあったらしくイムラーンはすぐに息を引き取った。
医者も薬も無く、手の施しようが無かった。

アフメト王の怒りは大変な物だった。
王宮に戻った彼はすぐさま近衛隊に召集をかけて命じた。
「草の根を分けてでも犯人を見つけ出して厳しく処罰するのじゃ!!!」
「「「はっ!!」」」

…しかし、犯行は極めて鮮やかな手口で行われており、残された証拠と言えばイムラーンの命を奪った矢一本のみ。
捜査は難航し、何の動きも無いまま一週間が過ぎようとしていた…。

その夜、宰相ヤヴズ・ワムの邸宅では、いつものように家族が食卓を囲んで夕食を楽しんでいた。
「もぐもぐ…この肉、美味いんだな〜」
「んん〜、こっちの魚もなかなか…くっちゃくっちゃ…なんだな〜」
「バム、ブム、食べながら喋る物ではない」
「まあまあ父上、そんな固い事言いっこ無しなんだな〜」
「そう言えば父上、宰相の仕事にはもう慣れたのかな?」
「うむ、父上(セム)が引退前に王妃・王太子派の政敵共を一掃してくれたお陰で万事とてもやりやすい。他の派閥も大人しいし…本当に父上には感謝せねばなるまい」
そう言って、ワムはこんがり焼けた牛肉にソースを掛けナンで包むと豪快に頬張る。
父の気持ちよい食べっぷりに気を良くしたのか、バムは酒を軽く飲み思わずポロっと語り出した。
「これで、糞生意気なジェムがいなかったら嬉しいんだな!」
兄バムの言葉にブムも大いに納得するが、それをワムは厳しく注意する。
「うんうん、兄さんの言うとおりなんだな!」
「こら!滅多に言う物ではない。他の派閥は大人しいが、我々の落ち度を探してるんだぞ!気を引き締めろ!」
父親に叱られバムとブムはシュンとしてしまう。
「「ごっごめんだな父上」」

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