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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 46

「シッ!方々、滅多な事を申されるな。どこで宰相派の臣下が聞き耳を立てておるやも知れません。宰相殿に目を付けられて暗殺…とまでは行かずとも左遷などされたりしては詰まらないではありませんか」
「確かに…我ら下っ端は派閥闘争などより、無事にお勤めを果たして平穏な余生を送れればそれで良いのですから…」

そんな下っ端共の会話を余所に宰相ヤヴズ・セムはアフメト王に申し出た。
「陛下…私も歳でございます。本日を持ちまして宰相(ワジール)を辞させていただきたく思います」
「う…うむ、左様か。長きに渡る務め、真にご苦労であった」
大臣の任命・解任の権限は本来ならば王の物だ。いくら宰相とは言え自分から「歳だから辞めさせてくれ」は無いじゃないか(しかもこんな公の場で)…とアフメト王は内心で思ったが、そこは突っ込まない事にした。もう居なくなってくれるんだから、余計な事は言わないでおこう。王は言った。
「…では近日中に詮議して後任の宰相を指名するゆえ、内閣の執務室を整理して明け渡してくれ…」

「何だ…今回の騒ぎは、いわば引退前“最後の大掃除”だったという訳ですね…」
オルハン達はまだ話し合っている。
「それで殺された者達は堪らんでしょうがね…しかしようやく“恐怖政治”の時代も終わりかぁ…次の宰相は誰でしょうね?」
「順当に行けばイシュマエル家のアクバル殿ではないですか?ここ最近ヤヴズ家の宰相が続きましたから…」

だが、次にセムの発した言葉にアフメト王以下文武百官は一瞬耳を疑った。
「ああ陛下、詮議の必要はございません。次の宰相は我が息子、ヤヴズ・ワムと既に決めておりますゆえ…」
「……は?」
アフメト王は目をパチクリさせて聞き返す。
「ですから陛下、ワジール(王佐)の称号は我が息子ワムに譲る…と申したのですが、何か?」
「え……………ああ、いや…そうね…そうなのね…うん…いや、余は良いと思うよ…うん…ほんと…」
その答えにセムは満足げな顔で言った。
「有り難うございます、偉大なる我が国王陛下!」
そして居並ぶ臣下達の方に振り返って言う。
「…という訳で皆もよろしいな!?」
「「「は…ははぁ〜!!!」」」
誰も逆らえなかった。
「お待ちくださいませ宰相閣下!」
一人の勇気ある(空気の読めない)若い臣下が立ち上がって抗議した。
「国祖イルシャ・ルーナ女王が国をお開きになって、この地を都と定めてより500年、現役の宰相が独断で後任の宰相を決めてしまうなどという事は前例がありません!しかもご自分のご子息を…!我ら臣下の官職は全て王によって任じられる物…断じて親から子へ受け継がれる物では…」
宰相セムはその男をジッと睨んだ。
何も言わない。ただ睨んだ。
周りの者達はハラハラしながら男と宰相を交互に見ている。
「…あ、すいません。やっぱ何でもないです…」
若い臣下もさすがに何かヤバい物を感じ、言葉を収めて着席する。
ちなみにこの愛すべきバカは数日後、変死体となって河原で発見されるのだが、それはまた別の話…。
宰相セムは口を開いた。
「…他に異議のある者は?」
「「「……」」」
今度こそ、もう誰も何も言わない。
「ふむ…では私はこれにて失礼いたします」
そう言うとセムは王に一礼もせず、堂々たる態度で大広間から出て行った。
それを見た臣下達は一斉に立ち上がり、退場するセムに向かって深々と頭を下げたのだった。
「…一体どちらがスルタン(王)で、どちらがワジール(王佐)なのか判らぬな…」
アフメト王は誰にも聞こえない小声でポツリとつぶやいた…。

屋敷に戻ったセムは、さっそく息子のワムを呼び出して事の次第を話した。
「…という訳でワムよ、お前が次の宰相だ。良いな?」
「お任せくだされ父上様!このヤヴズ・ワム、必ずやヤヴズ家の名に恥じぬ働きをして見せましょうぞ!」
丸々と肥え太った中年男ヤヴズ・ワムはポンッと太鼓腹を叩いて自信たっぷりに言った。
「う〜む…どうも心配じゃ。お前はあまり頭の回転が早い方ではないからのう…」
「いやいやいや、そんな事言わないで信用してくださいよ…」
「ハァ…ヘムさえ生きておればなぁ…」
「またそれでございますか父上?もう15年も前にお亡くなりになった兄上の事を今さら…」
ワムは長男ではない。次男だ。長男のヘムは今から約15年ほど前に流行り病にかかって妻と共に死んでしまった。
ちなみにこの長男夫妻の残した忘れ形見がジェムである。両親が死んだ時、ジェムはまだ幼く、幸か不幸か彼には親の記憶という物は無かった。ジェムは祖父セムによって育てられたが、セムは宰相としての職務(謀略・暗殺・権力闘争)に夢中で、幼いジェムは殆ど放っておかれた。
召使い達も居るには居たが、結局ジェムは“肉親の愛情”という物を知らずに育ち、それは彼が現在の人格を形成するに至った事に無関係ではなかったのである。

そのジェムは今、屋敷の中庭で頭を悩ませていた。
彼にしては珍しく、落ち着き無く辺りを行ったり来たりして、同じ所をぐるぐる歩き回っている。
そんな彼に声を掛ける者達があった。
「よう、ジェム!久しぶりなんだな〜♪」
「ジェム、何だか浮かない顔してるんだな…あ!無理もないかな〜♪ヤヴズ家の嫡流から外れちゃうんだもんな〜♪」
「くっ…バム、ブム、君達も叔父上に付いて来ていたのか…相変わらず人を不愉快にさせる才能だけは天下一品だね」

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