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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 45


所変わって、ここは王宮…王都イルシャ・マディナの中心に位置し、全市街地の約一割にも及ぶ広大な敷地を有する。
そこは王とその家族達の暮らす宮殿であると共に、イルシャ王国の政治の中枢でもあった。

この日、その王宮の大広間に文武百官が勢揃いしていた。
一段高い場所にある玉座には人の良さそうな太った初老の男が眠そうな顔で腰掛けている。
当代イルシャ王国国王アフメト4世である。
その国王の前に、臣下の列の中から一人の老臣が歩み出て、恭(うやうや)しく深々と頭を下げて言う。
「国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく、恐悦至極に存じまする…」
年の頃は60代の半ばといった所だろうか…髪も髭も眉毛も半分白い毛が混じっており、その顔には深いシワが刻まれている。
だがその眼光だけは異様に鋭く、まさに“老獪”という言葉を具現化したような老臣だった。
彼の名はヤヴズ・セム。
イルシャ王国の政(まつりごと)の全てを司る宰相にして、あのヤヴズ・ジェムの祖父である。
アフメト王は口を開いた。
「ワジール(宰相)よ、此度のにわかな召集、一体何事じゃ?」
「はい、国王陛下。実は恐るべき陰謀が露見いたしましたので、お知らせいたしたく…」
「陰謀?何じゃそれは?申してみよ」
「はっ!畏れ多くも国王陛下を暗殺し、未だお若い王太子アルシャッド様を新王として即位させ、その裏で政治の実権を握り、国を思うがままにしようと企む者達が居ります!」
「何と!?それは真か?」
「はい陛下、これが謀反人共の一覧でございます」
そう言うとセム宰相は懐から一枚の紙を取り出し、アフメト王に手渡した。
一人の老齢の文官が立ち上がって叫んだ。
「異議あり!宰相殿の言、信ずる証拠は!?」
セムはその男をジロリと睨んで言った。
「…ジャーファール宮廷書記長殿、貴殿の名もあるぞ」
「な…何ですと!?冗談ではない!私が国王陛下の暗殺など企むハズがあろうか!?」
「ふむ、確かに…ジャーファールは我が祖父の御世より三代に渡って王家に仕えた功臣じゃ。にわかには信じられぬなぁ…」
国王も紙から顔を上げて言う。
セムは反論した。
「陛下!騙されてはなりませんぞ!この男は陛下を亡き者にし、イルシャ王国を我が物にしようと企む大謀反人なのです!」
「陛下!どうかこの奸臣の虚言に惑わされますな!」
「う…うむ…」
アフメト王は恐る恐る言葉を選びながら言う。
「その…まあ、なんじゃ…宰相の調べにも、ひょっとしたら間違いがあるやも知れぬ。ここはもう一度調べ直してみては…」
「そのような事をしている暇はありませぬ!事は一刻を争うのですぞ!?おい!衛兵!ジャーファールを始め、この一覧に名の上がっておる謀反人共を全て捕らえよ!」
「「「はっ!」」」
次の瞬間、武装した衛兵達がドカドカと大広間に入って来て、リストアップされた者達を次々と捕らえていった。
「な…何をするのじゃ!?離せえぇ!」
宮廷書記長ジャーファールも捕縛される。セムは衛兵達に命じた。
「よし!見せしめにこの場で首をハネよ!」
「はっ!」
「ま…待て宰相!いささかやり過ぎではないか!?そもそも充分な取り調べも無しに殺すのは…!」
アフメト王が慌てて止めに入る。
「陛下!反逆者共に情けは無用でございます!やれぃっ!!」
「はっ!」
衛兵達は後ろ手に縛った容疑者達を国王の前に並べると、次々と首を落としていった。
「ひいぃぃ!!?お…お助けくださ…ガハァッ!!?」
「我らは誓ってそのような企てなどしてはおりません!!どうかもう一度…グハァッ!!?」
ジャーファールはセムを睨み付けて叫ぶ。
「この奸賊めぇ!!貴様の天下も長くは無いぞぉ!!貴様の手に掛かるぐらいなら…ぐっ!!!」
彼は自ら舌を噛み切って死んだ。セムはそれらの死体を見下ろして言う。
「フンッ…負け犬の遠吠えか…衛兵!これらの死体は王宮の正門前に晒して犬にでも喰わせよ!」
「「「はっ!!」」」
「あ…あわわわわ…」
アフメト王は玉座の上で何も言えずにガタガタと震えているのみ。いや、彼だけではない。この場の誰もが(武官でさえも)抗議の声を上げる事も出来なかったのである。

ところでここに集まった面々の中にはセイルの父であるクルアーン・オルハンも居た。彼は近衛隊の事務方の中隊長格…すなわち実際の部下は持たないが階級と俸禄は中隊長並(係長と主査のようなもの)の職にあり、このような重臣会議の末席にも出席を許されていた。
オルハンもまた突然目の前で繰り広げられた惨劇に、すっかり萎縮してしきっている一人だった。無理も無い。今や文弱の世、武官とは言え血を見る機会など無いに等しいのだから…。
オルハンの隣に居た下級貴族出身の武官が小声で言った。
「恐ろしい事ですな…しかし何とも露骨な“人選”だ…処刑された方々は皆、王妃様や王太子様の近臣ばかりではありませんか…」
オルハンも小声で答える。
「…という事はやはり宰相殿は王妃様方の勢力を削ごうとしてこのような事を…?」
「ええ、おそらく…昨年、宰相殿のご息女で第13王妃であらせられるジャミーラ様が王子様をご出産あそばされましたから…野心でも芽生えたか…それにしても惨(むご)い真似を…」
さらに我も我もと近くの者達がヒソヒソと会話に加わって来た。
「しかし此度はちと強引ではございませんか?宰相殿、前々から謀略や暗殺を常套手段としてこられた御方だが、これほど乱暴な真似はなさらなかった…」
「もうお年ゆえ、焦っておられるのでは…?」

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