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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 44

「…解りました。もうあなたには何を言っても無駄という事ですね。じゃあ僕はあなたの許可を得ずにお昼に行かせてもらいます!」
そう言うとセイルは穴の縁に足を掛け、上がろうとする。
「行かせるかよ!」
アブ・キルは上がろうとするセイルを足で穴の中に押し戻した。
「…どうあっても僕を穴から出さない気ですか?」
セイルは穴の中からアブ・キルを睨み付けて言った。
「出さないなんて言ってませ〜ん?穴を掘り終えたら出て良いんですよ〜?」
「フフフ…」
「な…何だお前!?何がおかしいんだよ!?」
「いえ、何も…でも先輩だってお昼ご飯は食べなきゃいけないんじゃないですか?」
そうなのだ。
アブ・キルだって昼食を食べに食堂に行かなければならない訳で…。
だが、彼は不敵な笑みを浮かべると、懐から何かを取り出して言った。
「クックック…これを見たまえ。クルアーン君…」
「そ…それは!!まさか、お弁当!!?」
そう、アブ・キルは弁当持参だったのである。
アブ・キルは勝ち誇った顔で弁当をセイルに見せ付ける。
そんなアブ・ギルをセイルは拳を握り睨みながら、腐ってると心の中で叫ぶ。
「腹が減っては戦はできないからね〜」
「・・・・・・・・(腐っている。それでも、あなたは騎士か!)」
「ふん、睨んでもあげないよ。まあ、君は穴を掘っていたまっ!!」
自分を睨みつけるセイルを小馬鹿にしながら、アブ・キルはその場を去り弁当を食べに行こうとする。
しかし、アブ・キルは突然足を滑らせて頭を打って気を失ってしまった。
「先輩、どうしたんですか?」
勝手にアブ・キルが転んでしまいセイルは何が何なのか解らなかった。
そこへ、どこからかアルトリアの声が聞こえる。
(セイル様、セイル様)「アルトリアかい!?」
どうやら、アブ・キルが転んで気を失ったのはアルトリアが仕掛けたようである。
(余りにむかつく奴なので、少し懲らしめておきました!さあ、昼食に行ってください)
「ありがとう、アルトリア!」
そう言うとセイルは穴から出た。

「ふぅ〜、食べた食べたぁ〜」
昼食を終えたセイルは満腹のお腹を抱えて中庭に戻って来た。
「貴っ様ぁ…やってくれたなぁ!?」
「う…っ!」
思わず後ずさるセイル。そこには真っ赤な鬼のような顔をしたアブ・キルが立っていた。
「い…良いじゃないですか!僕だって昼ご飯ぐらい…」
「ああ!よくも食ってくれたなぁ!?俺の弁当まで綺麗によぉ!!」
「……は?」
覚えが無い。まさか…と彼は思った。
(ア…アルトリア…?)
(…申し訳ありません。食べました…)
(おい!!)
(なんか意外と美味しそうだったので…この男が気絶している間に、つい…)
(つい…じゃないよぉ!!見ろよ!あの先輩の恨めしそうな目!)
「クク…ククク…初めてだよ…この俺をここまでコケにしてくれた新人はなぁ!!」
アブ・キルはセイルを穴の中に蹴り落とした。
「うわあぁ!!?」
(セイル様!おのれ、我が主に対して何と酷い仕打ちを…3倍にして返してやる!)
(だ…だめだアルトリア!先輩に手を出すな!)
(な…何故ですかセイル様!?…まさか仕返しを恐れているのですか!?それならばご安心ください!こんな下衆(げす)、私めにお任せくだされば一生流動食しか喉を通らないようになるまでブチのめしてやります!)
(そうじゃない!それじゃあダメなんだ!意味が無いんだよ!)
(い…意味が無い?どういう意味ですか?)
(…きっと…これは僕自身が解決しなきゃいけない問題なんだよ。確かに君の助けがあれば即解決するかも知れない…でもそれじゃあ僕自身は何も成長しない!これは僕自身の力で乗り越えなきゃいけない壁なんだ!!)
(セイル様、な〜んか無駄なモノ背負い込もうとしてません…?)
どうも生来の糞真面目というのか、自分に対して変に厳しいセイル。
アルトリアはアブ・キルの方に目をやる。
アブ・キルはありったけの憎しみを込めてセイルを睨み付けながら叫ぶ。
「チクショウ…チクショウ!チクショウ!!チクショオォォ!!!この俺を馬鹿にしやがってえぇ!!許さねえ!俺は絶対に貴様を許さねえぞ!クルアーン・セイル!!今日からお前を苛めて苛めて苛め抜いてやるから覚悟しろぉ!!?」
アルトリアは思った。
(う〜む…凄まじい敵意と憎悪…こういう情念の強いタイプは敵に回したら最も厄介だからなぁ…セイル様も、確かに“成長”も大切かも知れんが、もっと他の形でも良いであろうに…)
そんなに自分を追い込まなくても良いのになぁ…とアルトリアは思う。
まるでセイルは何かに焦っているように思える。
自分は早く強くならなければいけない、と…。

カーン…カーン…カーン…

午後の始業を告げる金の音が、この中庭にも鳴り響いていた…。

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