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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 43

タルテバとサーダットもその中に混じって一緒に突撃する。
彼らの意思というより流れに飲まれたと言った方が正しいかも知れない。
そんな彼らを待ち受けていたのは矢の雨だった。
比喩ではない。
本当に矢が雨となって降り注ぐのだ。
「ぐあぁぁっ!!?」
タルテバは肩に矢を受けた。
余りの激痛に彼は槍を取り落として、地面の上を転げ回って苦しみもがいた。
「いひいぃぃ!!?い…痛いぃ!!痛いよぉ!!お母ちゃあぁぁん!!」
「タルテバぁ!!大丈夫かぁ!?」
気付いたサーダットが駆け寄る。
「し…しっかりしろぉ!今、軍医をォ…っ!?」
だが次の瞬間、サーダットの額を一本の矢が深々と射抜いた。
「サ…サーダットおぉぉっ!!?」
タルテバは肩の痛みも忘れて立ち上がり、倒れたサーダットを抱き上げる。
「あぁ…っ!!」
サーダットはもう息が無かった。
即死だ。
彼は自分の身に何が起きたのかも解らないといった顔で息絶えていた。
「う…嘘だろ…」
「おい新人!何してやがる!?ボサッとしてっと殺されちまうぜ!?」
「そうさ!これから本物の戦争なんだぜぇ!?ヒャッハアァーッ!!」
既に幾度となくこの修羅場を乗り越えて来た歴戦の兵達がタルテバに言った。
「う…うぅ……うあああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
タルテバは絶叫して肩に刺さった矢を引き抜いた。
突き刺さった時以上の激痛に彼は涙を流しながら叫んだ。
「い…い…生き残ってやるぅ!!俺は絶対に生き残ってやるうぅ!!!」
そして傷口から流れ出る血を気にも留めずに槍を拾い上げる。
隊長は言った。
「ガハハハ…!そうだ!ここでは生き抜くという強い意思こそが必要なんだ!誇りだの勇気だの騎士精神だのは馬にでも喰わせちまえ!野郎共、敵が来るぞぉ!!肉弾戦だあぁ!!!」
「「「うおおぉぉぉぉっ!!!!」」」
男達は大きく吶喊(とっかん)すると迫り来る敵勢に向かって各々の武器を振りかざして突撃していった…。


その頃、セイルは何をしていたかと言うと……彼は何故か穴を掘っていた。
 ザクッ ザクッ
「はぁ…はぁ…こりゃあ思ってたより大変だぁ…」
ここは衛士府の中庭。
この作業を彼に命じたのは先輩アブ・キルだった…。

『クルアーン君!さっそくだが君に任務を与えよう!これは大変重要な任務であるからして心して取り組むように!』
『は…はい!一体何ですか…?』
アブ・キルはセイルに木製のスコップを渡して言った。
『大人の男がすっぽり入れるぐらいの穴を掘ってくれ』
『はあ、何に使うんですか?そんな穴…』
『それは君が知る必要は無い。君は穴を掘るんだ』
『はあ…』
『そして俺は君がサボらないように側で見てる』
『はあ…』
『解ったなら返事しろ!』
『は…はい!解りました!』
そしてセイルは言われるがままに穴を掘り始めた。
最初、アブ・キルは『もう少し幅広く』とか『穴の口は正円にしろ』とか指示していたが、やがて次第に関係の無い話へと変わっていった。
その話の約9割は今までに彼が抱いたという女の話と職場の人間の悪口だったのでセイルは聞き流しながら穴を掘り続けた。
アブ・キルは女の話と同僚・上司のグチを二時間近くに渡って喋って喋って喋りまくり、やがて疲れたのだろう(あるいはさすがにネタが尽きたのかも知れない)、近くの木陰で昼寝を始めた。
(先輩は一体どういうつもりなんだろう?でもこれで掘るのに集中できるから良いか)
ようやく煩わしい話から解放されたセイルは穴掘りを続け、今に至るのである…。

カーン…カーン…カーン…

昼休みを告げる金の音が鳴り響く。
「…んぁ?もう昼か…ふあ〜あ、よく寝たぁ〜」
アブ・キルは目を覚まし、気持ち良さそうに伸びをした。
ドルフあたりならブチ切れて殴りかかっているであろう態度だが、人間が出来ている(ヘタレな)セイルは汗を拭ってアブ・キルに言った。
「はぁ…それじゃあ先輩、僕、お昼に行って来ますね…」
「は?何言ってんの?クルアーン君」
「え?…いや、お昼休みなので…食堂にお昼ご飯を…」
「いやいやいや、穴掘り、まだ終わってないよね?俺最初に何て言った?“大人の男がすっぽり入れるぐらいの穴”って言ったよね?」
穴はセイルの腰辺りまでの深さになっていた(午前中いっぱい掘っていたが、木のスコップなので予想以上に時間が掛かるのだ)。
セイルは言った。
「もちろん解ってます。でも疲れたし、お腹も空いたので休憩を…」
「ハイ来ましたぁ!職務放棄!」
アブ・キルはパンッと勢い良く手を打って言った。
「平気な顔してやりかけの仕事を放り出す!さっすがクルアーン家のお坊ちゃま!仕事より昼飯だってさ!お兄さんもうビックリだよ!」
「いえ…お昼ご飯を食べたら、また戻って来て穴掘りを再開しますから…」
「僕ちんお腹すいちゃったんでちゅ〜♪だからお仕事なんて止めてオマンマ食べに行くんでちゅ〜♪」
セイルをからかうようにおどけて見せるアブ・キル。
寝起きなのでテンションも高い。
これにはさすがのセイルもカチンと来た。
「せ…先輩!いい加減にしてください!怒りますよ!?」
「うわっ!逆ギレしやがった!これがユルユル教育世代かぁ!自分の気に入らない事があると即キレる!怖ぇ〜!ユルユル世代怖ぇ〜!こんなのが将来のイルシャを背負って立つのかよ!?考えただけでもゾッとしちゃうぜ!」

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