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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 42

「アブ・シル、俺はこのクルアーン君に付きっきりで指導するから、残りの新人は全部お前に任せる」
「はぁ!?冗談じゃない。新人全部で何人いると思ってんだよ?」
「うるせえよ。クルアーン君は“特別”なんだぜ?何てったって、あのクルアーン・オルハン殿のご子息様であらせられるんだからなぁ…ここはやっぱマン・ツー・マンで指導して差し上げねば失礼だろうが…へへへ」
確実に何かを企んでいるアブ・キルにアブ・シルは声を潜めて耳打ちした。
(お前なぁ…その調子で今まで何人辞めさせたと思ってんだよ?この子だけは本当にヤバいからな?本当に“ほどほど”にしとけよ?)
(へへへ…解ってるって…ちょっとばかしボンボンのお坊ちゃまに世間の厳しさってヤツを教えてやるだけさ)
そう言うとアブ・キルはセイルの方に向き直り、その肩に手を置いてギュッと力を込め、ニタァ…と笑って言った。
「じゃあ行こうか…た〜っぷり可愛がってあげるからねぇ?クルアーン君♪」
「…あぁ…はい…出来ればお手柔らかにお願いいたします…」
セイルはそれだけ言うのが精一杯だった…。


セイルが洗礼(?)を受けようとしていた頃、王都から何百里も離れた北方国境で、同じく一人の少年が上官に着任の報告を行っていた。
「ほ…本日付けで北方鎮台軍第4中隊に配属されました…アザド・タルテバと申します…」
タルテバは小刻みに震えながら消え入りそうな声で言った。
寒いからではない。
原因は彼の目の前の屈強な男達である。
どいつもこいつも目付きが悪く、顔にも手にも火傷の痕、槍傷、刀傷…ここはイルシャ王国の北方国境を守る最前線の砦のはずではなかったのか?
まさか間違って盗賊の隠れ家にでも迷い込んでしまった訳じゃあないよなあ…?
タルテバがそんな事を思っていると隊長らしき眼帯をした片目の男が言った。
「ククク…おい新人」
「あの…アザド・タルテバと申しま…」
「新人で良いんだよ。俺達ぁ新人の名なんて覚える気も無え。すぐに使う必要が無くなるからな」
「へへへ…違え無え」
「おいおい、あんまり恐がらせちゃあいけねえよ…ま、事実だけどな!」
そして男達はガハハ…と笑う。
とんでもない所に来てしまった…とタルテバは思った。
「ウフフ…新人ちゃん、怖がらなくても良いのよぉ〜ん♪」
そう言ってタルテバに近寄って来たのは、筋肉ムキムキのスキンヘッドの“男”だった。
「ひいぃぃっ!!!?」
タルテバは恐怖で身がすくむ。
「ウッフ〜ン♪ここでは“友達”が必要よん。安心しなさいな。私が仲良くしてあげるから。それに私のゲイ友達にも紹介して居心地良くしてあげるわん♪ちょうど君みたいな小柄な男の子が好みの大男が三人ほど居るの…きっとすぐに仲良くなれるわよん♪」
「ど…どうかお助けをぉ…!!」
タルテバはガクガクと震えながら男から後ずさる。
「ヒヒヒ…良かったなぁ〜新人」
「“姐さん”に優しくしてもらえるなんて羨ましいぜぇ〜」
他の男達はゲラゲラ笑っているのみ。
(チクショォ〜!何で…何で僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだぁ!?それもこれも全部セイル達のせいだコンチクショオォ〜!!)
タルテバはもう泣き叫びたい気分だった。
その時である!

カン!カン!カン!カン!カン!

けたたましく城内に鳴り響く早鐘の音、そして音響魔術で拡張された声。
『敵襲ぅー!!敵襲ぅー!!北方より異民族と思しき一団が接近中!!総員戦闘配置に付けぇー!!』
次の瞬間、男達の目付きが変わった。
「…っしゃあ!!行くぜ野郎共おぉ!!出撃だあぁぁ!!」
「「「おおぉぉー――っ!!!!」」」
今までのダラダラとした態度から一変、きびきびと武具を身に付け、武器を手に取る男達。
「おいコラ新人!!何をボサッとしてやがる!?テメェも出撃だぁ!!」
眼帯をした隊長は突然の事態におどおどして立ち尽くしているタルテバを怒鳴りつけた。
「え…えぇぇ!!?ぼ…僕、実戦なんて初めてですよぉ!?」
「なあに、気にしねえよ!誰でも最初は初めてさ!」
「気にしてくださいよおぉぉ!!!!」
「新人、一週間だ!」
「は?一週間?何がですか?」
「一週間、生き延びる事が出来たら名前を覚えてやる!」
そう言うと隊長はニッと笑った。
「はあ…」
「解ったら早く鎧を着ろ!武器は飛び道具系以外なら何でもある!好きなのを選べ!」
「は…はいぃ〜!!」

武装した兵達は閉ざされた城門の内側に集合した。
(ま…まさか配属初日から実戦だなんてなぁ…)
タルテバは手にした槍と盾をギュッと握り締める。
「な…なぁ…お前もひょっとして新人じゃないか?」
「あ…ああ…そうだけど…?」
ふと声を掛けられて振り向いてみると、タルテバと同じような年格好の少年兵だった。
「そ…そうか!俺はサーダットって言うんだ。良かったぁ…自分と同じ新人に会えて…」
これから戦闘だというのにホッと安堵の溜め息を漏らすサーダット。タルテバはこの砦に来て初めて“仲間”に会えたような気がした。
「お…俺もだよ!俺はタルテバだ。よろしくな、サーダット!」
「タルテバかぁ…よろしく!絶対二人、生きて王都に帰ろうな!」
「ああ!こんな所で死んで堪るかってんだ!」
その時である。
「よぉし!城門を開くぞぉ!」
その合図と共に城門がギギギ…と開いていく。
各隊の隊長は剣を抜いて各々の部下達に命令する。
「野郎共ぉ!!突撃だあぁぁ!!!」
「「「うおおぉぉぉ〜〜〜〜っ!!!!」」」
兵達はときの声を上げて城門から一斉に打って出た。

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