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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 39

だが、セイル本人は納得しても、彼の祖父ウマルは納得がいかなかった。
「フン…まぁ、病気はまだ仕方ないとして…」
先程からこの仮面家族のやり取りを黙って見ていたウマルは吐き捨てるように息子オルハンに言った。
「たった一人の息子が卒業する日にまで仕事とはのう…まったく、我が息子ながら非情な男じゃ…」
「…父さん、一体何が言いたいんですか?」
「セイルが可哀想じゃと思わんのか!?」
「セイルは“気にするな”と言ってるじゃないですか!」
「ふざけるな!お前達がそんな調子じゃからセイルはこんな気を遣う子になってしまったんじゃろうが!それでも父親か!」
この言葉にオルハンはキレた。
「黙れクソオヤジ!俺は家族の幸せのために毎日々々一生懸命に仕事に励んで、そしてクルアーン家をこれ程までに盛り立てたぞ!あんたは俺とオフクロに何をしてくれた!?イルシャ王国一の剣士と呼ばれ、名誉ある王室親衛隊長にまでなっておきながら、家族の暮らしはちっとも楽にはならなかったじゃないか!
当然だ!あんたときたら剣以外は人が良いだけが取り柄の付き合いベタで、出世して家族に楽をさせてやろうって考えが全く無かったんだからな!清貧を旨としていたらしいが、こっちは飢え死に寸前だったんだぜ!?俺やオフクロが毎日近所に一升の小麦粉を借りに行くのに、どんな惨めな思いをしていたと思う!?」
「うぅ…」
ウマルは何も言い返す事が出来なかった。
こういう時、本来であれば間に立ってなだめる役の嫁は何も出来ずにただオロオロしているのみ。
「と…父様!お願いですから、もうそれくらいにしてください!」
見かねたセイルが割って入る。
「セイル!お前には関係の無い話だ!口を挟むな!それともこの俺を敵に回す気か!?誰の金で騎士学校を出してもらえたと思ってるんだ!?」
「ご…ごめんなさい、父様…」
「フンッ!気分が悪い!出掛けて来る!」
「あ…あなた、どちらへ…?」
ずっと黙っていたヤスミーンが恐る恐るといった様子でようやく口を開く。
「お前には関係無い!!」
だがオルハンに怒鳴りつけられ、すぐにシュンとなってしまった。
しかし、そんな妻を気に留めずオルハンはヅカヅカと居間を出て行った。

今日はセイルの前途を祝う日なのに、自分が余計な事をいったせいで、それをぶち壊してしまった事をウマルは反省し、セイルとヤスミーンに謝る。
「セイル、ヤスミーンさん、今日はめでたい日なのに台無しにして、本当に済まない」
「顔を上げてください。お祖父さまは悪くないです」
「そうです。お義父様はセイルちゃんの事を思って言っただけです」
セイルとヤスミーンの言葉にウマルは少し安堵するが、オルハンの上昇志向やセイルに対しても、それを強いらせ厳しく接する原因を作ったのは自分なのをわかってる為、ウマルは申し訳ない気持ちいっぱいだった。
「ありがとう。しかし、ワシが不甲斐ないばかりに貧しい思いをさせたのは事実だ。オルハンが恨むのは仕方ない」
そう言って、家族を犠牲にした事をウマルは後悔するように語りだす。
「お祖父様・・・」「お義父様」
そんなウマルにセイルとヤスミーンは、何もいえずもどかしくて仕方なかった。

そんな場の雰囲気を打ち消そうとウマルはアルトリアはどうしたかセイルに訊ねる。
「所でセイルや、アルトリアさんはどうしたのだ?」
「え?アルトリアですか?」
セイルはなぜ祖父が突然アルトリアの名を口にしたのかが解らなかった。ちなみにアルトリアには今、姿を消してもらっている。
「そうじゃ。あの娘さんは確か身寄りが無いのじゃろう?こうして卒業を祝ってくれる家族も無く、さぞ寂しい思いをしておるじゃろう…もし良かったら家に呼んであげてはどうじゃ?」
「お爺様…」
ウマルの温かい心遣いにセイルも思わず我が事のようにジーンと来た。
「セ…セイルちゃん?その…アルトリアさんって一体誰なの?人柄は?家柄は?セイルちゃんとはどういう関係なの?まさかもう“関係”してるの?そんなのママ許しませんよ?」
一方、ヤスミーンは急に不安げな表情になりセイルを質問責めにした。

彼女は息子ベッタリでセイルを溺愛していた。
その偏愛ぶりは凄まじく、セイルが自分以外の若い女性と親しげにすると精神的に不安定になるという困った癖を持っていた。
“母親”としての自覚が薄い彼女は、女としての心理でセイルを他の女に取られると思って焦るのである。
同年代の親しい友人もおらず、没頭できる趣味も持っていない彼女にとって、自らの腹を痛めて(?)産んだ愛息子セイルは彼女の生き甲斐であり希望であり人生その物であった。

そんなヤスミーンの反応にウマルは慌てて小声でセイルに尋ねた。
(な…何じゃセイル!?アルトリアさんの事、まだオルハンとヤスミーンさんに話しとらんかったのか!?)
(は…話せる訳無いじゃないですか!とくに母様には…)
(…………確かに)
ウマルは咳払い一つしてから言った。
「コホン…あ〜、ヤスミーンさん。心配せんでよろしい。アルトリアさんというのはセイルの同級生の女の子じゃが、セイルとはタダの友達で、それ以上でもそれ以下でもない。…本当じゃよ」
「…本当?本当にタダのお友達なの?セイルちゃん…」
「は…はい、母様!アルトリアとは何もしてません!…本当です!」
セイルもウマルに話を合わせた。母に嘘をつく事に胸がチクッと痛む。
「そう…それなら良いのだけれど…」
ヤスミーンが納得してくれたのでセイルとウマルはホッと胸を撫で下ろす。

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