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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 38

セイルの言葉にいまいち要領を得ないアルトリアはきょとんとした表情で言った。
そんな調子で四人が話していると、校門前に停められた一台の豪奢な馬車から、王宮の侍従官の服を身にまとった品の良さそうな中年男性が現れ、うやうやしくサーラに一礼して告げた。
「殿下、そろそろ参りませんと…」
「あら、もうそんな時間なのね」
日は既に西へ傾き始めていた。
「サーラさん…もう行っちゃうの?」
セイルの問いにサーラは微笑んで答えた。
「安心して。東方国境へ向けて発つのはまだ先よ…と言っても一週間以内の事だから、これが最後のお別れね…。今夜は王宮で私の将軍職就任を祝して貴族の方々を招いた晩餐会が開かれるのよ。まあ、さしずめ辺地へ向かう私のための送別会といった所かしら。とりあえず私の杯に毒が入っていない事を願うわ」
「で…殿下、冗談もほどほどになさいませ」
サーラの物騒な物言いに血相を変える侍従。サーラは言った。
「冗談で済めば良いけれどね…」
「サーラさん…」
真に受けたセイルは心配そうにサーラを見つめる。
「大丈夫よセイルくん、私はそんなに簡単に殺られるつもりは無いからね」
そう言うとサーラはアルトリアの方に向き直って言った。
「アルトリアさん…セイルくんの事はあなたに任せたわ」
「?…言われるまでもありません。私はこの命ある限り、セイル様にお仕えし、お守りいたします」
「いえ、そうじゃなくて…フフ…まあ良いわ。それじゃあ皆さん、私はもう行きます。またお会い出来るその日を楽しみにしていますよ」
「サーラさん!僕、手紙書くよ」
「殿下、どうぞお身体にお気を付けて…」
「ありがとう、さようなら!」
サーラは侍従と共に馬車に乗り込み去って行った。
「ふ〜む…セイル様といいサーラ殿といい歯切れの悪い…一体何なのだ?」


その晩、セイルは久しぶりに帰った実家で祖父と両親と食事を共にした。
意外にもセイルの実家は、十人前後の召使いが住み込む貴族のような大邸宅であった。
「セイル、今日の授与式には顔を出せなくて済まなかったな」
「本当にごめんなさい…セイルちゃんの晴れ姿、この目で見たかったわぁ…コホコホ」
セイルの父クルアーン・オルハンは割と平然と、セイルの母クルアーン・ヤスミーンは軽く咳き込みながら本当に申し訳なさそうに詫びた。
「いえ、父様はお仕事が、母様はお身体の具合が優れなかったのですから、どうぞお気になさらないでください。それに、お爺様が来てくださいましたし…」
穏やかな笑みを浮かべ、いかにも聞き分けの良い優等生的な回答をするセイル。
「うむ…ま、こちらもちょうど年度末で色々と忙しい時期なのでな、悪く思うな」
「セイルちゃん、本当にごめんなさいね…ママ、本当に今日のこの日を楽しみにしてきたんだけど…」
「いえいえ、お二人とも本当にお気になさらなくて大丈夫ですから…」
セイルは更に両親を立てる。だがその笑顔はさすがに少し引きつり始めている。
「そうか、ならば良いんだ」
「セイルちゃんがそう言ってくれれば気が楽になるわぁ…本当にセイルちゃんは優しくて聞き分けの良い素直な良い子よねぇ」
(ハァ…やっぱり家は疲れる…)
セイルは内心ため息をついた。
彼は両親が自分の騎士号授与式に来る事など端っから期待していなかった。

王宮に仕える高級武官である父オルハンは仕事命の典型的な仕事人間。
祖父ウマルのような剣の才能には恵まれず、同期の者達からは“無能のクセに根回しとゴマスリだけで出世した”と陰口を叩かれているが、田舎の下級士族に過ぎなかったクルアーン家を士族としては最高位である今の地位にまで引き上げた。
その手腕だけはセイルも評価している。

母ヤスミーンは生まれつき病弱で普段は殆ど寝たきり状態。
彼女を知る双方の親類からは“セイルの妊娠・出産を成し遂げられたのは奇跡”とまで言われている(出産は帝王切開だったが…)。
彼女は中流貴族の次女で、生まれてこの方、労働とか家事とかいう物を一切した事が無く、そのためか外見はセイルの年頃の息子が居るとは思えないほど若々しく美しかった。

セイルはこの両親から、およそ親らしい事をしてもらった記憶が無い。
だが彼自身はそれについては特に不満とも思っていなかった。
小さな頃からそういう風に育って来たからだ。
両親に代わってセイル育てたのは祖父のウマルで、幼いころ病弱なセイルの面倒を厳しくも優しく見ていたのである。
セイルが騎士学校に入学し、卒業できたのもウマルのお陰であった。
そのため、セイルは祖父ウマルに感謝していた。

上機嫌に葡萄酒を飲むオルハンは息子セイルの卒業と仕官を大喜びする。
「本当に今日は実に良い日だ!セイルの仕官が決まったからな」
「父様、あっありがとうございます」
自分の卒業と仕官が決まり機嫌の良い父にセイルでほっとする。
父オルハンが苦手なセイルであった。
何時も顔を会わせば怖い顔で自分を『軟弱者』と高圧的に罵り、彼にとって父親は暴君に等しい存在であった。

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