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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 343

また彼女が剣を抜くと、スモークが焚かれ、舞台装置がせり上がって来て、床下からアルトリア役の役者が現れた。
また歓声が上がった。

「似ておらんな…ルーナ様も…私も…」
セイルの隣で“本物”がボソッとつぶやく。
セイルは妙におかしくなり、込み上げてくる笑いを必死に抑えた。

舞台上のアルトリア役の役者が言った。
「…我が主よ、よくぞ聖剣を引き抜き、この私を目覚めさせてくださいました。これよりあなたは聖剣の勇者となり、世界を破滅へと導く暗黒の邪神“アザトゥス”と戦い、世界を救うのです」

「「「…?」」」
それを聞いた観客達は揃って首を傾げた。
何だこれは?
いつもの“ルーナ様の物語”と違うではないか。
アザトゥス?
そんな邪神の話など聞いた事も無い…。

もちろん現代の聖剣の勇者であるセイルも非常に戸惑っていた。
(な…何だって!?アザトゥスって何なんだよ!?世界を救う!?…まさか!それが聖剣の勇者の使命だって言うのか…!?)

…その後の舞台の展開はお馴染みのパターン…と思いきや、これまた微妙に異なっていた。
敵である所のカリフの治めるジャーヒリーヤ王国の中枢が、その邪神アザトゥスを信奉する“アザトゥス教団”なる怪しげな教団によって牛耳られており、王国は事実上その教団の支配下であった。
(…だから何なんだよ!?アザトゥスって…!!)
心の中で叫ぶセイルの疑問を余所に物語は進んでいく…。
…で、アザトゥスに関しても舞台の中で少し触れてくれたのだが、これが復活したら世界が滅ぶという実にとんでもない邪神らしく、時たま復活するらしい。
それで何故この世界が未だ健在なのかというと、その都度、その時代々々の聖剣の勇者がアザトゥスを倒して封印したからだそうな…。
(…とんでもない役目を与えられてしまった――――!!!!)
頭を抱えるセイルを横目で見ながらアルトリアは思う。
(説明する手間が省けた…良いな、この劇)
ちなみにサーラは始終ずーっと演劇に夢中で、セイルやアルトリアの心中など案ずる暇も無かった。
彼女はルーナ女王の大ファン…己のイメージをルーナとダブらせたのも単に政治的な理由からだけではなかった。

「…いやぁ〜、楽しかったねぇ〜」
「やっぱりルーナ女王様の物語は最高だわぁ〜」
「でも何か変なアレンジ入ってたよな?邪神がどうとか…邪教団がどうとか…」
「いつも変わり映えしないんじゃマンネリだからだろ?たまにはこういう亜流も良いじゃないか」
「ルーナ様役の女優が美人だったから許す〜♪」
…劇が終わると観客達は好き勝手な事を言いながら夜の街に散っていった。
まだまだ祭は終わる気配が無い。

「実はね…この演劇、ストーリーを少しイジらせたのは私なの…」
サーラは突然告白した。
「これは私が幼い頃、王室専属の語り部から聞いたルーナ様の物語よ。それが世間一般に伝えられている物語とは少し違う内容だという事は後になってから知ったんだけどね…」
アルトリアが言う。
「演劇の内容なんて長い時の流れの中で変容してしまう事が多いですからね。時代が下るにつれて邪神アザトゥスとアザトゥス教団の存在は世間から忘れられてしまったのでしょう。セイル様が聖剣の勇者の真の使命について知らなかったのも仕方ありません。ですが王族にだけは当時そのままの物語が伝えられてきたという訳ですか…」
「そういう事になるわね」
そして二人はセイルを見た。
「……」
セイルは茫然として立ち尽くしている。
(大丈夫かしら、この子?)
(色々あって大分メンタル強くなったと思っていたが…さすがにショックだったか…)
少し心配げな視線を向ける二人に、ようやくセイルは額に手を当てながら口を開いた。
「…ちょっと待ってくれよ…アルトリア、サーラさん…君達の話が本当なら…僕は…僕は、その…アザトゥスとかいう邪神と戦わなきゃいけない訳?…しかも世界の命運を掛けて…」
「そうなるでしょうね…」
「…重すぎる…」
「でもセイル君にしか出来ない事なんだから仕方ないじゃない。私は羨ましいけどなぁ…出来るなら代わりたいぐらいよ」
「はあぁ〜…」
セイルは深い溜め息を吐く。
サーラはパン!と手を叩いて言った。
「さて…楽しい時間はお終い。…そろそろ戻りましょうか…王宮に…」
「…ごめん…二人、先に帰っててくれよ…ちょっと一人になりたいんだ…」
「セイル様…」
「頼む…日常に戻る前に気持ちを整理したいんだ…じゃ、頼んだよ…」
言うなりセイルは行ってしまった…。
「う〜む、心配だ…サーラ殿、私はセイル様を追う事にします」
「な…なら私も行くわ!抜け駆けは許さないわよ!」
「そうじゃありませんて…一定の距離を保ちつつ付いて行くつもりです。尾行ですよ」
「そう…」
サーラは少し考えて、そして言った。
「…ならアルトリアさん、その役目、私に任せてちょうだい」
「尾行を…?」
「そうよ。…お願い!絶対セイル君の邪魔はしないから…!」
「うぅ〜ん……ま、良いでしょう。では頼みましたよ」
「任せて♪」
サーラはセイルの後を追った。
まあ、それほど心配は要らないだろうとアルトリアも思う…。
ゴロツキや酔っ払いに絡まれたとしても、そこら中に警備の兵士も巡回しているし、そもそもサーラ自身かなりの剣の使い手なのだから…。

…セイルは賑わう夜の王都の街を一人で歩いていた。
(はぁ…聖剣の勇者か…この僕に世界を救うなんて…そんな事が出来るんだろうか…)
 …ドンッ!
「…いでぇっ!!?な…何するっぺ!?」
「あ…し、失礼しました…!」
考え事をしながら歩いていたら人にぶつかってしまった。
「…あぁ〜!!オ、オメェは…!!」
「…あなた方は…!」

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