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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 342

「ふふふ〜こんなに街を散策したの久しぶりだわ」
「ムシャ!ムシャ!やっぱり祭りの露店での買い食いは良いですねぇ〜」
「トホホ…ハァ〜(もう財布にお金が無いよぉ!!)」
和気藹々とアルトリアとサーラは祭りを楽しんでいたが、セイルだけは表情が暗く心の中で悲鳴を上げていた。
実はアルトリアとサーラが買い食いやアクセサリーや小物や見世物を楽しんでいたのはセイルが全てお金を払ってたからである。


その後も三人でいろいろ見て買って楽しんだ。
意外にもサーラが殊の外に興味を示したのが大道芸人の見せ物だった。
一種のサーカスで、剣を飲み込む男、火を噴く男、軽業を披露する美女…。
「わぁ〜!すごい!すごいね!セイル君!」
「う…うん!」
見事な曲芸の数々にセイルも思わず目を見張るが、サーラの興奮した事といったら無かった。
まるで幼い少女のように瞳を輝かせてはしゃぐ彼女の横顔にアルトリアは思う…。
(こんな顔もするのか…この人がこんなに無邪気に振る舞うのを見たのは初めてだな…)
思えばサーラも年頃の娘…本来なら恋やお洒落や遊びに夢中になりたいだろう…だが王族という立場と時代が彼女にそれを許さなかった…そう考えるとアルトリアは少しサーラに同情した。
(…ま、だからといって聖剣の勇者を騙った事を許した訳ではないがな…)

大道芸が終わって…
「…はぁ〜、すごかったなぁ…あぁ、何かゴメンね二人とも…私一人でテンション上がっちゃって…私、あんなの見たの初めてだったから…」
サーラは少し照れ臭そうに微笑みながら謝った。
セイルも微笑みながら応える。
「良いんだよ、僕も楽しかった!」
「…ま、たまには息抜きも必要ですからね。お祭の日くらいは…」
そんな事を話しながら三人は連れ立って賑わう通りを歩いた。
その通りだ…今日この日ぐらい、戦争の事も政治の事も忘れて楽しもうじゃないか。
いつしか日も傾き、西の空が茜色に染まり、反対に東の空には星が輝き初めていた…。

すると、人々の何人かが慌ただしげに王宮の方へと急ぐのが目に留まった。
「おい!王宮前広場で無料の野外劇やるってよ」
「ほう、演題は何だい?」
「詳しくは解らないけど、イルシャ・ルーナ様の話だってさ!」
「本当!?見たい見たい!」
「もうすぐ始まるわ!行きましょう」
イルシャ王国では文学や演劇の題材として、昔の王や英雄達の伝承が良く取り扱われるが、その中でも初代国王イルシャ・ルーナ女王は断トツで人気があった。
「…ルーナ様の話とな…?」
前の主の名前が出たアルトリアが反応を示す。
サーラは二人の手を取って言った。
「行きましょう!」


王宮前広場に設置された野外舞台の前は、既に黒山の人集りでごった返していた。
人ごみを掻き分けて、三人は何とか舞台の見える場所に腰を下ろす。
「ふぅ…何とか座れたわね」
「おや、ちょうど始まるようですよ…」
ドンドンと舞台開始の合図である太鼓の音が鳴り響き、辺りを照らしていた松明の灯りが(舞台上を照らし出すものを残して)落とされる。
暗闇の中に舞台だけが浮かび上がった。
舞台上に狂言回しの男が現れて口上を述べる。
「…さぁ!これより始まるは我がイルシャ王国の始祖、聖剣の勇者にして、偉大なる初代女王イルシャ・ルーナ様の物語!時はジャーヒリーヤ王朝時代…」

…イルシャ王朝の前王朝、ジャーヒリーヤ王朝の時代…腐敗堕落したカリフ政権は恐怖と暴力によって民衆を支配していた。
抑圧された民衆達は自分達を救ってくれる“救世主”、“英雄”の登場を待ちわびていた…。

物語の始まりは、ある神殿…そこには遥か昔に神から与えられたと伝わる一本の剣が安置されている。

…この後の展開をセイルは知っている。
その剣には言い伝えがあって、曰わく“この剣が抜けた者はこの国の王となる”。
その噂を聞いて多くの人々が神殿を訪れるが、剣を抜く事が出来た者は一人もいない。
そこに現れたのがイルシャ・ルーナだ。
彼女は山のような大男でも抜けなかったその剣を、いとも容易く抜いてしまう…すなわち、剣に“選ばれた”のだ。
出現した剣の精霊(アルトリア)に『あなたこそ王となる人です』と告げられ、人々から持て囃されるルーナ…。
だが、それは同時に現在の統治者であるカリフ政権から目を付けられる事にもなる。
ルーナはカリフの刺客に命を狙われながらも、精霊の導きに従って同士を集い、ついには国に対して反旗を翻す。
そして彼女と仲間達は激しい戦いの末、カリフ政権を打ち倒し、めでたくイルシャ王国を建国しました。

…と、これが一般的に知られる“イルシャ・ルーナ女王の物語”である。
イルシャ人なら子供でも知っているストーリー。
だが話の先が判っていても、結末が判っていても、人々はルーナ女王の物語に心躍らせ、興奮し、そして感動するのだ。

…ところが、この日演じられた劇は、少し違っていたのである…。

ルーナ女王に扮した役者が登場すると観客達から歓声が上がった。

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