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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 341

「なるほど……まあ、正論ではあるわね…」
サーラはフッと笑って言った。
「…でも人間は正論だけで生きている訳ではない…あの男は本当に民の気持ちを理解できないド阿呆ね。何でも締め付ければ良いと思ってるんだから…」
「まったく…短絡というか、浅慮というか…」
「ええ、父上が生前に言っていた言葉を思い出したわ…」
「なあに?」
「…三流の為政者は力で民を従わせる…二流の為政者は利益で民を従わせる…そして、一流の為政者は民の心を掴む…」
「なるほど、至言だね」
「…非常時ですって?知った事じゃないわ!戦争中だからこそ…今年の冬至の祭は盛大に祝うわよ!!皆にもそう伝えてちょうだい!」
「了解!」

…という訳でサーラ陣営では(ジェム陣営との統治方針の違いを際立たせるため)この年の冬至の祭は例年よりも規模を拡大して盛大に執り行う旨が発表された。
これに民衆は大いに湧いた。
やはりサーラ様の側に付いてて良かった…ジェム側だったら悲惨だ。
また、これを機に未だにどちらに付こうか日和見を決め込んでいた太守達が、あらかたサーラ陣営に流れた。
別に太守達は祭がやりたかった訳ではない。
サーラには人間としての余裕があるような気がしたのだ。
ジェムは…必死で、いっぱいいっぱいな感じ…。
イシュマエルも本家と分家で真っ二つに割れたらしいし、もう必ずしもジェム陣営優位とはいかなくなってきた。
…という訳でサーラ陣営とジェム陣営との勢力比は、おおよそ四分六分となった。
まだジェム陣営の方が若干ながら優位を保っているのは、やはりその正統性である。
(多くの者達が内心密かに疑っているが)国王が死の間際にファード王子を次の国王に指名した…という事に表面上はなっているので、一応ジェム陣営の方に正統性があるのだ。
サーラ陣営は形式上、反乱軍なのである。


そして冬至の日が来た。
「やぁ!冬至の日おめでとう!」
「冬至の日おめでとう!」
街中で誰もが顔を合わせる度にこんな挨拶を交わす。
王族も貴族も士族も平民も奴隷も、今日は皆揃って仕事は休みだ。
王都の中心にある王宮から東西南北の門へと伸びる大通りは色とりどりに飾り付けられ、見せ物や食べ物を売る露店が軒を連ねた。

そして王宮でも…
「セイル君、いる〜?」
「…サーラさん?」
「何でしょうね?」
セイルとアルトリアが部屋で寛いでいると、扉を叩く音とサーラの声がした。
「入るわよ!」
セイルの返事を待つ事も無く扉が開けられる。
「二人とも、冬至の日おめでとう!」
「!?…サーラさん、その格好どうしたの?」
セイルはちょっと驚いた。
サーラが庶民の娘の服装をしていたからだ。
「どうかしら?いま城下で流行の服装を意識してみたんだけど…私、町娘っぽく見えるかなぁ?」
そう言いながら彼女は嬉しそうに二人の前でクルリと一回転して見せる。
アルトリアは笑顔を浮かべて言った。
「ええ、非常に良くお似合いですね。とても王女とは思えませんよ」
「本当?ありがとうアルトリアさん♪」
「皮肉です」
「そ…それよりサーラさん、どうして街娘の格好なんてしてるの?」
セイルはすかさず話題を逸らした。
もっとも当のサーラはアルトリアの皮肉など少しも堪えていないようで…。
「そうだったわ!二人を誘いに来たの。今日は街中お祭り騒ぎよ。お忍びで見に行きましょう」
「良いね!行こう。アルトリアも一緒に…ね?」
「セイル様の行く所なら何処へでも…」

…という訳で三人は連れ立って王都の街へと繰り出した。
メインストリートは人、人、人でごった返していた。
皆、誰も浮かれた表情だ。
「うわぁ〜!ものすごい黒山の人だかりだねぇ!」
セイルは半ば感動すら覚える。
王都がこんなに賑わいを見せたのは、もう随分と久し振りのように感じられた。
サーラは言った。
「包囲が解かれたから、王国各地から人々が集まって来たのよ」
「それだけではないでしょう」
アルトリアは言う。
「皆、サーラ殿を慕って集まって来られたのですよ。聖剣の勇者だと信じてね…」
「あら、それも皮肉かしら?」
「さぁ、そうかも…そうでないかも…」
そんな二人に露店の店主が声を掛けた。
「そこの綺麗なお嬢さん達!ケバブ(串焼き肉)はいかがかね?」
「あら、“綺麗なお嬢さん”って私達の事かしら?」
振り向くサーラ。
店主は言った。
「もちろん!お安くしとくよ」
「ありがと、おじさん♪じゃあ二本もらおうかしら」
「あ…では私は十本いただきます」
すかさずアルトリアも注文する。
「毎度あり!」
「支払いは…セイル君、お願い」
「えぇぇっ!!?何で僕が!?」
「だって私、お金なんて持ってないんだもん…」
「な…っ!?」
通常、王族や貴族は財布を持ち歩かない。
そもそも日常、買い物なんてしないし、仮にその必要に迫られた場合も供の者に持たせる。
アルトリアはセイルに言った。
「セイル様、男ならこういう時に気前よく奢るものですよ」
「うぅぅ…」
セイルはしぶしぶ財布から銀貨を一枚取り出した。

それから三人は買い食いしながら街をブラブラ歩いた。
露店は食べ物ばかりではない、アクセサリーなど小物を売る店や、見せ物小屋などもあった。

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