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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 338

一方、アーシアはサーラの前に片膝を付き、あたかも臣下が君主に対して礼を取るかの如く深々と頭を下げて言った。
「サーラ…いや、イルシャ・サーラ様。このイルシャ・アーシア、第二代目の聖剣の勇者様にお目通りいたします…」
それを見たシャフリヤールは驚いてアーシアに怒鳴りつける。
「ア…アーシア!!?何をやっておるか!?こんなヤツに頭を下げる事など無いぞよ!!」
「兄上…我らの負けでございます。何らかの絡繰りや仕掛けで、こんな事が出来るものではございません…もう本当にサーラが聖剣の勇者と考えるしか説明が付きません…」
「ふ…ふ…ふざけるなああぁぁぁっ!!!!余は…余は認めぬぞよぉ!!!サーラよ!!どんな手を使ったかは知らぬが、大きな顔をしておれるのも今の内ぞよ!!!余の後ろにはイシュマエル家が付いておる事を忘れるなあぁ!!!!」
顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら怒鳴り散らすシャフリヤール。
だがサーラは平然たるもの。
「…あぁ、実はその件に関して、イシュマエル家のアクバル殿に問い合わせてみたのですがね…」
「……えっ!!?む…向こうに訊いたの…!?」
その途端、何故かキョドりだすシャフリヤール。
サーラは溜め息混じりに言った。
「アクバル殿は次のように仰せでしたよ…『確かに短刀は差し上げたが、それは単に親愛の情を込めた贈り物としての物…シャフリヤール殿下個人と盟約を結んだ覚えなど一切無い。王族だからといって、ありもしない勝手な事を言わないでいただきたい』とね…」
「…あ…あ…あれぇ?あれぇ〜???お…お…おかしいのう…よ…余は、確かにアクバル殿と…つまり…その…そういう約束を…したような…しなかったような…そんな感じになったような…そんな気がしておったのだがなぁ…あっ!ひょっとしてアクバル殿、忘れちゃったんだぁ!うん!酒の席での事だったし!きっとそうだね!うん、うん…はい!もうこの話お終い!余はね、余は…ちょっとウンコに行って来るからね!言っとくけど余のウンコ長いから!うん、もう二時間ぐらい探さないでね!あは…あはは…あははははは〜…っ!!!!」
シャフリヤールは真っ赤な顔に涙目でまくし立てるように喋りまくりながら立ち去って行った。
その背中を見てアーシアが一言…。
「逃げおった…」
サーラは思った。
(…兄上、終わったわね…)
いつしか雲は晴れ、青空には綺麗な虹が掛かっていた…。


…サーラが兄姉達を押し除けて王位に就くために打ったこの大芝居は、予想だにしなかった意外な結果をもたらした。
何と王都を包囲していたジェム側の太守達の連合軍が、突如として王都に降った雷雨に驚き、それを“聖剣の勇者たるサーラ”が起こしたと知るや、降伏を申し出て来たのである。
もともとジェムの不人気と食料不足から士気が低かったのに加え、あの奇跡を目の当たりにした事で、特に下級兵士達の厭戦気分がいよいよ高まり反乱寸前まで来ていた。
太守達はもう包囲を続ける事は困難と判断。
曰わく…
「…我ら皆、イルシャ王家の臣下でございます。初代イルシャ・ルーナ女王陛下と同じ聖剣の勇者様が現れたとなれば、逆らおうはずがございません。我ら全軍、イルシャ・サーラ王女殿下に降伏いたします!」
「…良いでしょう。降伏を受け入れます。ただし…」
サーラは降った者達に対して次のような処置をとった。
“最高指揮官である太守達の自害と引き換えに、その家族、臣下一同、そして領民達の命は保証する。”
罪人としての“処刑”ではなく、あくまでも貴族としての体面を保った“自害”という形を取ったのは、サーラなりの情けだった。
本来ならば王族に逆らった逆賊として、一族郎党に至るまで皆殺しにされても文句は言えない所…ある意味では破格の待遇とも言えた。
「「「……」」」
太守達は甘んじて受け入れる他は無かった。

そして降伏が受諾された翌日、王宮の中庭で、正装した太守達はサーラの前で揃って毒を飲んで死んだ。
そこにセイルとアルトリアも立ち会った…。
「なにも殺さなくても…味方に引き入れれば良いのに…ねえ、アルトリアはどう思う?」
「反逆者に対する当然の措置です。むしろ甘過ぎるくらいですね…それにしても、このような偽りが一体いつまで持ちますかね…」
アルトリアはサーラに聞こえぬ程の小声で吐き捨てるように言った。
セイルは何とも言えない気持ちになる。

サーラは約束した事は守った。
太守達には自死を強要したが、その家族や臣下達は罪に問わず、領地を召し上げて即刻退去を命じたが、家財までは取り上げずに持って行く事を許した。

敗者に対するこの寛大な処置に民衆は賞賛の声を送り“サーラが次の女王に即位すべき”という気運は嫌が上にも高まった。
事はサーラの狙い通りに運んだという訳だ。
一時はシャフリヤール(の嘘)によって追い詰められた彼女だったが、それで一世一代の賭けに出た結果、見事な勝利を収めたのだ。

もちろん貴族達は嫌がった。
彼女に王になられて、あの“改革”の数々を実行されたら、自分達は特権身分ではいられなくなる。
だが“大衆の支持”という強力な後ろ盾を得たサーラは俄然、強気だった。

やがて彼女は正式に宣言を行った。
「年が明けたら、私は女王に即位します!!」
「「「「ワアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!!!」」」」
もちろん民衆は大歓迎。
これに対して貴族達は姉のアーシアを対抗馬として擁立しようと画策したが、肝心のアーシアが首を横に振った。
「…聖剣の勇者なのだぞ!?もしも妹(サーラ)を差し置いて王位に就く者があったとすれば、たちまち神々の天罰が下るだろう!!二度と馬鹿な事を申すな!!」
「「「は…ははあぁ〜っ!!!」」」

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