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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 337

「おい、どういう事だ?」
「サーラ様は聖剣の勇者じゃないの?」
「嘘を吐いてたってのか?」
「俺たち騙されてたんだ!」
「そんな事ないよ!サーラ様は嘘なんてつかない!」
「そうよそうよ!」
「サーラ様!お願いですから何とか言ってください!サーラ様ぁ!!」
その様子を見てシャフリヤールは思った。
(フッ…サーラ、終わったのう…)
次期国王たる自分を差し置いて王位への野心など抱いたがために、大衆の面前で痴態を演じるハメになり、今までコツコツと積み上げて来た民衆からの信頼も今や完全に失った…王位継承順位も母親の身分も低い女の分際で不相応な夢など見るからこうなるのだ…。
彼は今にも腹を抱えて笑い転げたい気分を必死に押し殺しながらサーラに歩み寄る。
「サーラよ、残念だったのう〜。自分のイメージを建国の英雄ルーナ女王とダブらせて大衆受けを狙うたか?まあ確かに聖剣の勇者という発想は良かったがのう、いかんせん詰めが甘…」
「…フッ…」
その時、サーラが笑った。
「…おいおい、いかがした?よもやショックで気でも違えたか?」
「…いえいえ兄上、私は至って正気です。…良いですよ。兄上や姉上がお望みとあらばお見せいたしましょう。聖剣の勇者の力をね…」
「な…何じゃとぉ!!?」
「…サーラ、そなた…よもや本当に…!?」
驚く二人をよそにサーラは腰に下げていた剣を引き抜いた。
装飾の施された古めかしい剣だった。
見た目はいかにも何か云われのありそうな剣だが、それは聖剣ではなかった。
サーラはそれを高く掲げて言った。
「ルーナの聖剣が“水”を司る剣である事はお二人もご存知でしょう。これよりルーナ女王が聖剣を用いて起こした数々の奇跡の内の一つを再現してご覧に入れます…空をご覧ください」
「そ…空とな…?」
「…あ!あれは…!?」
見ると、王宮の上空に見る間に真っ黒な雲が広がっていく…雨雲だ。
乾燥した気候のイルシャ王国では雨は降らない。
当然人々は雨雲などという物も見た事が無い。
やがて雨雲は王宮どころか王都全域の空を覆い尽くした。
ゴロゴロゴロ…と雷の音が響く。
空一面を覆った暗雲に、もう辺りは夕刻のような薄暗さに包まれている。

…ピシャアァァァンッ!!!

「ひゃああああぁぁぁぁぁぁーっ!!!?」
突然の雷光にシャフリヤールは飛び上がる。
サーラは言った。
「お待たせいたしました!これより天から流れ落ちる川…西大陸では“雨”と呼ばれている気象現象をご覧に入れましょう!」
次の瞬間…

…ポツ…ポツ…ポツ…ドザアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…ッ!!!!!

水瓶をひっくり返したような大雨が降り注いだ。
「奇跡だぁ!!!」
「凄いわ!!!」
「かつてルーナ女王が日照りの畑に天から水を撒いて民を救った伝説の通りだ!!!」
「やっぱりサーラ様は本当に聖剣の勇者様だったんだよ!!!」
「イルシャ・ルーナ女王様の再来だぁ!!!!」
「イルシャ・サーラ殿下ばんざぁい!!!!イルシャ王国ばんざぁーい!!!!」
民衆は大興奮、何せ雨という物を見るのも初めての者達が殆どなのだ。

一体サーラはどんな手を使ったのか……実は種明かしすると、舞台裏でセイルが頑張っていたのだ。
サーラ達のいるバルコニーの更に上…宮殿の屋上…そこでセイルは聖剣の力を使って雨雲を発生させ、雨を降らせていた。
「…うおおおぉぉぉぉぉぉ…っ!!!!」
雷雨の中、仁王立ちになった彼は聖剣を天に向けて掲げ、精神を集中し続けていた。
薄暗闇の中で聖剣が蒼い光を放っている。
その光景をアルトリアは複雑な心境で眺めていた。
(…素晴らしい!今やセイル様の力は、かつてのルーナ様にも並ぶ…いや、既にルーナ様をも凌駕しておられるやも知れぬ!…ただ惜しむらくは、その力をこんな権力闘争の一環のパフォーマンスに利用するなんて…!あぁ…!!あのサーラめの頼みは非常識極まり無かったが、それをホイホイ受けてしまうセイル様もセイル様だ!聖剣の力を一体何とお考えなのか…!)

聖剣の力は全て使い手のイメージによって作用する。
普通の魔術のように、この呪文を唱えればこの作用、この魔法陣を描けばこの作用…という法則性が無い。
いわば自然界の力に意識を直接リンクさせて働きかける事によって作用を引き出すのだ。
ゆえにその可能性は無限とも言える。
だが一方で、その使い手には尋常ならざる気力と集中力が求められ、引き出される作用が大きければ大きいほど精神力を消耗するという反作用があった。
(この点は通常の魔術も同様で、例えばアルトリアがたまに使う“瞬間移動”などというチート能力が一日一回しか使えないのも、これに起因する。)
そして、この乾燥したイルシャの地で雨雲を発生させて雨を降らせる…などという芸当は、国内でも最高クラスの魔導師を一千人(そもそもそんなにいない)は動員せねば不可能な、まさに“神業”であり、それだけにセイルの精神消耗も、また凄まじい物があった。

「「……」」
シャフリヤールとアーシアは雨に打たれながら茫然と立ち尽くしている。
二人にサーラは尋ねた。
「…いかがですか?兄上、姉上…これで私が聖剣の勇者であるという事、信じていただけたかと思いますが…」
「…う…う…嘘じゃぁ!!!」
シャフリヤールは叫んだ。
「こんなの、絶対に嘘じゃあぁ!!!サーラぁ!!!これは一体どういう絡繰りなんじゃぁ!!?」
「…絡繰りじゃありませんよ、兄上、本当に聖剣の力なのですよ」
嘘は言っていない。

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