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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 335

彼は訝しげな表情でセイルの顔を覗き込むようにして言う。
「世が乱れると涌いて出て来るからのぉ〜、王族を騙(かた)る詐欺師がぁ…」
「ぼ…僕は別に…自分から王族だって名乗り出た訳じゃあ…」
見かねたアーシアとシャーザマーンは間に割って入り、シャフリヤールを諫めた。
「兄上!セイルは我らが弟!それを詐欺師とは余りなお言葉ではございませんか!?」
「アーシアの言う通り…私も確かにセイルは私達の弟だと思います。ほら…目元など亡き父上にそっくり…」
「…仮にだ!」
シャフリヤールは言った。
「そやつが父上とシャハーン妃の真の子だとしても、騎士の家の子として育ったのであろ?ならば王族ではないではないか!余はそやつを兄弟とは認めぬぞよ!だいたいさっき自分でクルアーンと名乗ったではないか!」
「兄上!そうは仰いますが、セイルには確かに我らと同じ高貴なイルシャの血が流れております!ならば…!」
「…否!高貴なる者の条件は血統+環境ぞよ!たかが騎士ごときの家で育った下賤の者を血縁というだけで弟とは言えぬ!」
「…たかが騎士ごとき…ですって…?」
その瞬間、セイルの顔色がピクリと変わった。
「ひぅ…っ!!?」
一瞬…ほんの一瞬だけだったがセイルから感じられた殺気にシャフリヤールは思わず後ずさりする。
詐欺師と言われても怒らなかったセイルが、自分の家を貶された事に顔色を変えた。
彼は自分がいくら馬鹿にされようと平気だった。
だが騎士としてのクルアーン家を…オルハンを、ヤスミーンを…そしてウマルを馬鹿にされる事だけは許せなかった。
あんな家族でも、彼にとっては家族だった。
それだけではない…同じ騎士身分の友人達、衛士隊の先輩達…彼らをも貶された気分だった。
「取り消してください…今、ここで…!」
セイルはそれまでとは態度を一変、シャフリヤールを睨み付けながら詰め寄る。
「あぁぁ…よよ…余は用事を思い出したぞよ!さささ…さらば!」
シャフリヤールは震えながらそう言うと一目散に逃げた。
「「……」」
それを見ていたアーシアとシャーザマーンは思った。
あぁ…彼は“騎士”なのだ…と。
(セイル……)
アーシアは何故か酷く物寂しい想いがした。
「セイルよ…気を悪くさせてしまったね。兄上に代わって私から詫びさせておくれ…」
そう言ってセイルの前に深々と頭を下げたのは、シャーザマーンであった。
「と…とんでもない!頭をお上げください殿下!」
セイルは慌てる。
「ありがとう……ときにセイル、もし君さえ良ければ私の事も兄と呼んでくれるかい?アーシアと同じようにね…」
そう言うとシャーザマーンはセイルに向かって微笑んだ。
「あ…はいっ、シャーザマーン兄上…」
セイルは嬉しかった。
一人っ子として育った彼は密かに兄弟姉妹というものに憧れていた。
シャーザマーンはしみじみ言う。
「あぁ…今日は良い日だ…。私に新しい弟が出来た…。セイルよ…君が例え正式の王族でなかったとしても、君は私達の兄弟だ…その事で何か謂われの無い非難を浴びても君は何も気にする事は無い。私は君を兄弟だと思っているよ…」
「…殿下!!勿体なきお言葉、恐悦……いえ、ありがとうございます、兄上!」
「うむ、うむ…」
微笑みながら頷くシャーザマーン。
彼は生来の虚弱体質であった。
今日は調子が良いが、普段は一日の大半を寝て過ごしている。

その頃、アルトリアは(珍しい事に)サーラの訪問を受けており、それに対応していた。
ユーナックも一緒だ。
「セイル様は今おりませんが…」
そう言うアルトリアに対し、サーラは言う。
「今日はセイル君じゃない…貴女に用があって来たのよ、アルトリアさん」
「…?」
アルトリアの頭の中に“?”が広がる。
「実はね…」
サーラは用件を伝えた…。

「……」
それを聞いた直後、アルトリアはサーラが何を言っているのか理解する事が出来ず、完全に言葉を失った。
「…アルトリアさん?」
そんなアルトリアの顔を覗き込むように尋ねるサーラ。
「…信じられません…」
ようやくアルトリアが口を開く。
彼女はサーラを睨み付けながら静かな声で言った。
「…サーラ殿…いや、イルシャ・サーラ…今の貴女の言、冗談にしては全く笑えぬのですが…というか、お願いですから冗談だと言ってくださいよ…でなければ私は貴女を心の底から軽蔑せねばならなくなってしまいますからね…」
「…非常に残念だけど…」
サーラは言った。
「…私は本気よ!」
「…っ!!」
その瞬間、アルトリアの右手が眩い光を放ち、一瞬後には彼女の手に握られた三日月刀の切っ先がサーラの喉元に突き付けられていた。
「く…っ!!」
ユーナックは剣を抜きかけた姿勢で固まっている。
主サーラの危機に咄嗟に反応するも、アルトリアの方が速かったのだ。
「〜♪」
そこへ、上機嫌のセイルが戻って来た。
「ただいまぁ〜♪アルト…リ……えええぇぇぇぇぇぇっ!!!?」
文字通りの“修羅場”に腰も抜かさんばかりに驚くセイル。
「何この状況!!?」
「…あ!セイル様!!お聞きください!」
「セイル君!!お願い!君からもアルトリアさんを説得して!」
セイルの姿を認めるや一気に詰め寄るアルトリアとサーラ。
「ちょ…ちょっと待ってよ!!話が見えない!説明してくれ!」
ここでずっと黙っていたユーナックが口を開いた。
「実はね、私達アルトリアさんにお願いがあって来たんだよ…」
「サーラさんとユーナックさんがアルトリアにお願い?一体何なんです?」

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