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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 333

「ジェム様…あなたは我がイルシャ王国をジャーヒリーヤ王国の二の舞になさるおつもりですか!!?」
「なにぃ…っ!!?」
ジェムの顔色が変わった。

…ジャーヒリーヤ王国は、イルシャ王国の前の王朝で、領土は現在のイルシャ王国の約七割ほど。
教王(カリフ)と呼ばれる聖職者を頂点とする一種の宗教国家であった。
ただ“聖職者”という割には、教王とその周辺の高位の神官達は完全に世襲であり(さながら現在の王族と貴族達である)アルラーフと呼ばれる唯一絶対の神のみを信奉し、重税と圧政によって民衆を虐げていた。
結局、腐敗堕落が極まった所をイルシャ・ルーナ女王率いる反乱軍によって滅ぼされた。
約500年前の事だ。
(※ちなみに、現在の“国王”を意味する“スルタン”という言葉は、このジャーヒリーヤ時代においては、教王(カリフ)に仕える将軍の称号であった。イルシャ・ルーナが即位するに当たって教王という称号を避けたためである。)
そして現在、イルシャ王国では“ジャーヒリーヤ王国”と言うと、無明・腐敗・堕落の象徴のように考えられている。

「こいつを捕らえろぉ!!!」
ジェムは白衛兵達に命じた。
たちまちレムは数名の兵達によって拘束される。
「ジェ…ジェム様ぁ…っ!!?」
「レム…こういう事になるとは残念だ。…連れて行け!!」
「ジェム様!!どうかご再考ください!!このままでは本当に取り返しの付かない事にぃ…!!」
レムは訴えながら引き立てられて行った…。
「……」
マラクンはそれを無表情で見つめていた。
ふと彼女に気付いたジェムが声を掛ける。
「おぉ…そうだ。お前、今日から城に住むが良い。いずれ王都の一角にアザトホース神のための神殿も作ってやろう。何せ私の命を助けてくれた救い主だからな。丁重にもてなさせてもらうぞ。えぇと、名は確か…マラクンとか言ったか」
「…有り難き幸せ…なれどマラクン(神の使い)とは信徒達が言い出した通称…我が名は“シファーァ”と申します…」
そう言ってシファーァは紅い瞳で妖しく微笑んだ…。

「こちらでございます…」
「う…うむ…」
一方、レムは王宮の地下にある牢獄へと連れて来られていた。
彼を連行して来た白衛兵の隊長が言う。
「まさかあなた様のようなお方までもがこのような事になるとは…誠に残念です」
扉が閉まり、鍵が掛けられた。
レムは鉄格子に張り付いて兵達に訴えた。
「君達は先のやり取りをどう思ったのだ!?」
「我らは……それに関してあれこれ言える立場にはありません」
隊長は自らの首に着けられた首輪を指して言った。
「そ…そうだったな…あぁ…ジェム様をお救いしたい一心であの女術師をお引き合わせしたものの…ひょっとして私はとんでもない怪物を宮廷内に引き込んでしまったのかも知れん…」
「ジェム様のお怒りが解け、あなた様が再び釈放される日が来る事を願っております…」
そう言って兵達は立ち去って行った…。

「はぁ…それにしてもエラい事になったなぁ…」
一人になったレムは溜め息をつく。
その時、彼の真向かいの牢の中から笑い声がした。
「クックックックックッ…その声…よもやヤヴズ・レム殿ではございませんかぁ…?」
「何者だ!?」
見ると、骸骨のように痩せ細った男が不気味な笑みを浮かべていた。
衣服はボロボロ、髪と髭はボウボウに伸ばし放題だ。
「ククク…私でございますよぉ…かつてジェム様やあなた様の足元に跪いておった臣下の一人…」
「えぇっ!?だ…誰!?」
レムは本当に解らなかった。
男は名乗った。
「私は…クルアーン・オルハン…かつてオム様の下で、食料の管理と売却をやっておった者でございます」
「お…おおおぉぉぉっ!!!クルアーン・オルハン!!覚えているぞ!!ジェム様に暴言を吐いて投獄されはしたが、息子(セイル)がジェム様のお気に入りだったがために生き長らえたのだったな!!」
「その通りでございます」
「まさかまだ生きていたとは…お前の息子のセイルは出奔してサーラ王女の元へ向かったぞ」
「獄卒達が話していたのを聞きました。その時に私の命もこれまでと思いましたが、どうもジェム閣下は私の存在自体をお忘れのようで…。それにしても私が投獄されてからも世の中は変わり続けておるようでございますなぁ…。まさかヤヴズ一族のあなた様がこのような所へ入れられるとは…」
「いや、別にクーデターとかではないぞ!?」


イシュマエル・マシャラフはイシュマエル家当主であるイシュマエル・アクバルの弟である。
そしてセイルの騎士学校の同期生であるイシュマエル・ドルフの父親でもあった。
兄アクバルが何事につけても豪快で派手好き、やや思慮の浅い性格であるのに対し、この弟マシャラフは衣食住は質素を好み、事に際しては熟慮する性格であった。
ただ、熟考するが故に即断即決が出来ないのは統治者として…ひいては軍隊指揮官としては、あまり向いていない性格だった。
この日、マシャラフは兄アクバルと魔導通信を使って対話していた。
「兄上、早まられましたな…」
「マシャラフ、何の事だ?」
「サーラ王女にお味方した事ですよ!!」
マシャラフは声を荒げた。
「な…何をそんなにいきり立っておるのだ!?お主は!よもやワシの選択が間違っておったとでも言うのか!?ええ!?コラ!!」
「選択云々以前の問題です!!あれは王家とヤヴズ家の争いではありませんか!!なぜ我らイシュマエル家が自ら進んでそれに巻き込まれねばならぬのですか!?我らは傍観者に徹すべきだったのですよ!!それをアナタという人は…!!」

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