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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 331

そこへ、ヤヴズ・レムが現れる。
「おぉ!シャリーヤ殿、喜んでくれ!ジェム様の病を治せる術師を連れて来……ひゃあぁーっ!!!?し…死んでる!!白衛兵が!死んでいるじゃないかぁ〜!!」
「ご安心を…ちょっとゴミの始末をしたまでです。…して、その術師というのは、そちらの方々ですか?」
「そ…そうだ!あなたも噂ぐらいは聞いた事があるだろう?どんな難病も癒やしてしまう“奇跡の術”を使う術師だ!」
「……」
シャリーヤはレムの後ろの白装束の集団を見た。
怪しい…。
それが彼女の第一印象だった。
「レム殿…よもやこの怪しげな新興宗教団体の術中に陥っておられるのでは…?」
「いや、新興宗教ではないぞ。彼女達アザトホース教団は千年以上の歴史ある宗教団体なのだ」
「…アザトホース?聞いた事もありませんよ」
「うむ、私も知らなかったのだがな…何でも、この世の終わりに出現し、人々を新たな世へと導く救世神だとか…」
「…この世の終わりにアザトホース様が現れるのではない……アザトホース様がこの世を終わらせるのだ…」
ここで白服の長…術師マラクンが初めて口を開いた。
(若い女…?)
シャリーヤは少し驚く。
マラクンは続けた。
「…アザトホース様が降臨されれば、この地上に存在する国は全て滅ぶ…人も、獣も、魚も、草木も、生きとし生けるものは全て死に絶える…」
シャリーヤは半ば呆れ気味に言う。
「それはまた…随分とまあ容赦の無い神様ですね。なぜそれで救世神なんですか…」
「…アザトホース様の教えを信じる心正しき者達だけは生き長らえる…そしてその後に生まれる新たな世へと導かれ…新たな世を創る…」
「ああ…典型的な終末思想と選民意識の組み合わせですね」
マラクンに冷ややかな視線を向けるシャリーヤにレムが小声で言った。
「ま…まあまあ…彼女達の教義などこの際どうでも良いではないか…。重要なのは彼女の使う“奇跡の術”と呼ばれる不思議な治癒術だ。原理は解らんが、それを使えばジェム様を必ず助けられる」
「……」
ジェムが助かる…その言葉にシャリーヤは黙る。
確かに怪しすぎる連中だが、ジェムがハジャを殺してしまった以上、もうこんな連中にすがるしか無いのも事実なのだ。
やがて彼女はマラクンに向かって言った。
「…解りました。ただし少しでも妙な真似をしたら、その場で斬り捨てますので、そのつもりで…」

ジェムの寝室は酷い有り様だった。
寝台の上の布団は乱れ、枕は引き裂かれて中の羽毛が辺りに飛び散っており、床には割れた水差しと杯が転がり、植物の鉢は倒され、カーテンは引き裂かれて垂れ下がり、本棚の下には何冊もの本がズタズタに破られて捨てられていた…。
「ううぅぅぅぅっ!!!?い…痛いぃ!!痛いぞおおぉぉ!!!うぅぅ…うがああぁぁぁぁっ!!!?」
荒れに荒れまくった寝室の真ん中…寝台の上でジェムは頭を押さえてのた打ち回っていた。
「マラクン殿、ご覧の通りだ…」
「…なるほど…これは酷い…」
マラクンはジェムを見、室内を見回し、またジェムを見て言った。
「…だが心配いらぬ…アザトホース様の御力をもってすれば、必ず治る…」
「…まだ病状も説明してないのに…」
シャリーヤが訝しげにボヤく。
レムは言った。
「な…治せるか!?ならば早く!さっきのようにアザトホース神を出してジェム様を助けて差し上げてくれ!」
「…あれはアザトホース様のごく一部に過ぎぬ…本当はもっともっと大きなお方なのだ…」
ふとシャリーヤは疑念を抱いてマラクンに尋ねた。
「ちょっとお待ちください!世界を滅ぼすような神の力を…例え一部だけとはいえ、それをどうしたら病人を治療できるのですか…?」
「シャリーヤ殿、今はそんな事どうでも…」
渋い顔をするレム。
一方、マラクンはシャリーヤの疑問ももっともと思ったのか、説明を始めた。
「…アザトホース様は一つの世界を滅ぼし、新たに創られるお方…すなわち、それは穢れきった世界を浄化し、新たに生まれ変わらせるという事…その御力の一部をもってすれば人一人の肉体を作り替えるなど造作も無い事…」
「つ…つまり、悪い箇所だけを治癒するのではなく、肉体その物を新しく作り替えると…!?」
「…いかにも…」
「ふ…ふざけるなっ!!!」
シャリーヤはキレた。
「「「…っ!!!!」」」
これには怒鳴られたマラクン当人よりもレムや白衛兵達の方が驚く。
シャリーヤがこんな風に大声を出すなんて今までに無かった。
「つまり貴様の言っている事は、ジェム様を殺し、外見だけ全く同じように見える複製を作るという事ではないのか!!!」
「そ…そうなのか!!?」
レムは驚く。
先ほど見たあの疱瘡の男も…本当は最初の男と全く同じに見える肉体を持った別人…?
だが待てよ…と彼は思う。
男の母親である老女は男を息子と認識し、男も老女を“母さん”と呼んでいた。
どうやら記憶や人格もちゃんと受け継いでいるようだ…それはつまり…
「ど…どうなるのだ!?」
レムは解らなくなった。
マラクンは言う。
「…それも心配いらぬ…なぜなら、肉体は違えど魂は同一だからだ…」
「…なら…良いかな…」
「…し…しかし…」
レムは一応納得したが、シャリーヤは今ひとつ腑に落ちない所があった。
レムは言う。
「シャリーヤ殿、こんな時になんだが、こんな冗談を知っているか…骨董屋のオヤジが古ぼけた剣を見せて『これはかつて国祖イルシャ・ルーナ様が使っておられた伝説の聖剣だよ』ところが確かに古い剣ではあるが、とても500年も昔の物とは思えない。するとオヤジ曰わく『刃の部分を五回、柄の部分を三回交換したからね!』」
「…いえ全く笑えません。そして一体何が言いたいんですか?」

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