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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 329


それから一週間…

レムの祈りが天に通じたのか、彼の元に一つの朗報が舞い込んで来た。
「なに!?それは本当なのか!?」
執務室で白衛兵の隊長からの報告を聞いたレムは思わず椅子から立ち上がって訊き返した。
「はい!どのようなケガも病も“奇跡の術”と呼ばれる方法で癒やしてしまう術師なのでございます!医者が匙を投げるような重症者も何人も救っているとの事…!」
「その者が今、この都に来ていると言うのだな!?」
「はい!その術師は常に国中を放浪し、病める人々を救っているとの事で、普通ならばなかなか掴まえられない所を今回は全く良いタイミングで…!」
「きっと神々の思し召しだ…」
レムは天に向かって手を合わせた。
隊長は言う。
「ではさっそく連れて参ります!」
「まて!私も行こう!術師は都のどこに…?」
「それが、その…平民区の…しかも貧民窟でして…レム様のようなお方が行かれるような所では…」
「何処だろうと構わん!ジェム様をお救いするためだ!」

レムはさっそく護衛の白衛兵を数名だけ連れて、その術師に会いに貧民窟へと向かった。
「く…臭い所だなぁ…」
「ですから申し上げたでしょう…あ!あそこです」
「おぉ…っ!!」
兵士が指差す先を見たレムは驚き目を見開いた。
そこはちょっとした広場のようになっていて、多くの人々で溢れかえっていた。
大して広くもない広場に数千…いや、ヘタをすると一万以上の人々がひしめいているのではないだろうか。
その中央には奇妙な形(なり)をした集団がいた。
彼ら(女性らしい人物もいる)は百人にも満たないだろうが、その全員が頭から足元までを覆う真っ白なローブを身にまとっていた。
ローブの下も同じく真っ白な飾り気の無いシンプルな服装で、ただ一つ…首から下げた銀色に光り輝く首飾りだけが妙に際立っている。
人々は口々に白装束集団(仮)に向かって訴えかけていた。
「マラクン(神の使い)よ!!」
「マラクン!どうかお救いを!」
「マラクン様ぁ!!」
レムは呟く。
「…マラクン(神の使い)か…もはや崇拝の対象ではないか…」
「それだけその術師が凄いという事でしょう…」
白衛兵が言うがレムは嫌な予感がし始めていた。
「…おい、これまさかアレじゃないだろうな…治ったと強く思い込む事によって本当に病気やケガが快方に向かっちゃうっていう…奇跡の正体は、実は人間本来の治癒力でしたってオチじゃあ…」
「…いえ、それだと思い込みの激しい人間しか助からない事になりますが、かの術師は“奇跡の術”を施した者を全員、しかも瞬時に治してしまうのですよ」
「そうなのか!では期待して良いのだな!」
「恐らく…!」
そんな会話をしていると、人々の方からワーッ!!!!と大きな歓声が上がった。
見ると、白装束集団を掻き分けて、その中から金色に輝く錫杖のような物を持った人物が出て来た。
その人物だけ首飾りが銀色ではなく金色だ。
フードを被っていて顔は見えないが、周りの白装束達より若干小柄かも知れない。
あれが白装束集団の長…すなわち“奇跡の術”を使う術師か…とレムは思う。
一人の年老いた女が進み出て、跪いて訴えた。
「マラクン様ぁ!!どうか“奇跡の御力”で私の息子をお救いくださいぃ!!」
続いて老女の後ろから板に乗せられた彼女の息子と思しき男が運ばれて来る。
彼は全身に疱瘡が出ていた。
マラクンと呼ばれた術師はそれを見下ろして静かに言う。
「…なるほど…これは酷い…」
妙に高く、そして透き通った声だった。
「…だが安心せよ…我らが神の御力をもってすれば、必ず治る…」
その時、フードが少し揺れて術師の顔が見えた。
「「「…っ!!!」」」
レムと白衛兵達はハッと息を飲んだ。
術師は娘と言っても良い年頃の若い女だった。
しかもイルシャ王国の人間には有り得ない真っ白な肌、それに同じく真っ白な頭髪、そのように何もかもが白い中、瞳だけが血のように紅い…いわゆるアルビノだった。
(何と美しい…)
レムは思わず溜め息をつく。
容姿その物も美女と言って良いレベルだが、何よりも彼女の全身から醸し出される神聖なオーラのような物が感じられた。
女術師マラクンは疱瘡の男の傍らにしゃがみ込むと、杖を持っていない方の手をスッと伸ばして男の上にかざす。
「神よ…癒したまえ!!」
術師がそう言った次の瞬間、信じ難い事が起きた。
彼女の真っ白な手の中からドロリとした真っ黒なスライム状の“何か”が出現したのだ。
「神だあぁ!!!!」
「神が現れたぞぉ!!!」
「神様ぁ!!!」
人々は口々に叫ぶ。
“神”と呼ばれた“それ”は、たちまち男を包み込んでしまった。
「「「…っ!!!?」」」
レム達は目を疑った。
完全に男を飲み込んだ(取り込んだ?)それは、まるで生き物のようにグニュグニュと形を歪ませる…というか、明らかに中に人間が入っている動きではない。
やがて、物理法則を完全に無視した動きは次第に収まり、“神”と呼ばれたそれはペッ!と何かを吐き出した。
それは人一人ほどの大きさの塊…というか人そのもの…さっきの男だった。
しかも、あれだけあった疱瘡が一つも無くなっている。
「「「…っ!!?」」」
レム達はまたもや目を見開いて驚愕した。
「おおぉぉっ!!!!」
老女は興奮した様子で男を抱きしめる。
「あぁ…母さん…俺、何だか生まれ変わった気分だ…」
男は弱々しく言った。
だがその顔には生気が宿り、気のせいか数年ほど若返ったようにさえ思える。

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