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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 327

「…あぁ…あわ…あわわわわわ…」
レムは恐怖でガクガクと痙攣するように震えながら後ずさりした。
腰が抜けて立てないのだ。
彼は失禁に加えて脱糞までしていた。
そんな彼にシャリーヤは声を掛ける。
「レム殿…」
「ひいいぃぃぃぃー―――っ!!!?こ、殺さないでえぇぇー―――っ!!!?」
「…レム殿、あなたはそこに転がっている馬鹿と違い、ちゃんと自分の主が誰なのか解っている人間だと理解しています…」
「……っ!!!!」
レムは物凄い勢いで何度も頭を縦にブンブン振って頷く。
「よろしい…」
シャリーヤは言った。
そして庭園の茂みの方に視線を移して呼び掛けた。
「…で、あなたは何をしているのですか?ハイヤーム博士…いえ、アリー殿」
「…バ…バレていたのか…出来れば見つからずに旅立ちたかったんだがな…」
そう言いながら茂みの中から姿を現したのはアリーだった。
彼は旅姿であった。
「これは一体どういうおつもりですか…?」
「き…決まってるだろ!!!アイーシャさんを探しに行くんだよぉ!!!」
アリーは叫んだ。
「アイーシャ殿を?何をたわけた事を言っているのですか…あなたにはジェム様の元でジェム様のために役立つ新兵器を開発するという義務がある事をよもやお忘れになった訳ではありませんよね…?」
「そ…そんなの知った事かよ!!?アイーシャさんは僕が生きる理由なんだ!!!僕は是が非でも彼女を探しに行くぞ!!!」
「探す?どこに居るかも分からない…生きているか死んでいるかさえ定かではない人間を?一体何年かかるのですか…そんな事は許されませんよ。第一、あなたがジェム様に従う事になった理由をお忘れですか?アイーシャ殿が首に着けておられる呪いの首飾り…その存在を忘れたとは言わせませんよ。あなたがジェム様を裏切って逃げると言うのであれば、ジェム様は容赦無くアイーシャ殿の命を奪うでしょう…」
「いや!ジェムは彼女を殺さない!殺させない!」
「何なのですか…その自信は…」
「聞け!まず僕はジェムを裏切って逃げる訳じゃない!アイーシャさんを見つけたらジェムの元に戻って来る!必ず!約束する!だが、もしもジェムがその約束を信じられずにアイーシャさんを殺したら、僕は彼女の後を追って自殺する!!」
「…何ですって…」
シャリーヤの顔色が変わった。
これまでジェムのために色々と発明して来たアリー…彼を失う事はジェム政権にとって大きな損失であった。
アリーは続ける。
「解っただろ!?僕を…僕のこの頭脳を失わないためにはジェムが取るべき選択肢は一つしか無いんだよ!解ったら僕を見逃せ!そしてジェムにこう伝えてくれよ!“殺れるもんなら殺ってみろ!”ってな!」
「解りませんね…」
シャリーヤは眉をひそめて言った。
「…あなたの行動は“ジェム様があなたを必要としている”という前提に基づいていますが、もしジェム様があなたなど“必要無い”と判断なさったら全てお終いではありませんか…危険すぎる賭けですね…」
「そりゃあ…僕だって命懸けなんだよ!それでも会いたいんだよ!!彼女に!それが愛するって事じゃないのかよ!?」
「格好良く啖呵を切ったつもりかも知れませんが、あなたのその衝動的な行動によって、彼女の命をも危険に晒しているという点から考慮すると、あなたは非常に情動的で独善的な最悪の男ですよ」
「最悪上等だコノヤロウ!!何とでも言えよ!殺すなら殺せ!それでも…それでも僕は行くからなぁ!!?」
「……」
シャリーヤは黙ってジッとアリーを見た。
それまで黙って二人のやり取りを見ていたレムが震えながら声を振り絞って言う。
「シャ…シャリーヤ殿……ぼ…僕は…話は見えないが……い…行かせてやっても良いんじゃないかと…」
「何ですと…?」
シャリーヤはギロリとレムを睨んだ。
「ひぃっ!!?や…やっぱり何でもないですぅ!!」
「……」
シャリーヤは再びアリーに視線を戻して言い放った。
「…良いでしょう、アリー殿。お行きなさい…」
「!?……い…良いのか…?」
思い掛けない返答に目をぱちくりさせるアリー。
「ええ、確かにあなたの仰る通り、あなたを失う事は私達にとって大きな損失ですからね…恐らくジェム様も同じ判断を下すはず…しかし決して忘れないでください…アイーシャ殿が例え何処にいても、その命はジェム様が握っておられるという事をね…さぁ、早く行きなさい。私の気が変わらない内に…」
「シャリーヤ殿……済まん!恩に着る!」
そう言ったきり、アリーは脇目も振らず一目散に走ってその場を後にした。

ナスレッディン・ハジャが白衛兵達に連れられて王宮にやって来たのは、それから数時間後の事だった。
「…そのまま真っ直ぐ進め…止まれ。右に曲がれ…また真っ直ぐ進め…」
「やれやれ、面倒臭いなぁ…別に私はサーラ姫のスパイでも何でもないってのに…こんなに警戒されるなんて、まったく心外だよ」
彼は目隠しをされていたのだ。
自宅兼診療所の前で付けられ、そのまま馬車に乗せられて王宮まで連れてこられた。
本来なら王宮への立ち入りを許されていない平民に、宮殿内の間取りを覚えられぬようにとの配慮だった。
「…よし、止まれ。目隠しを取るぞ…」
兵士によって目を覆っていた布が外され、ようやく視界を得たハジャは目を瞬かせながら辺りを見回す。
どうやら今いるのは寝室のようで、中央に天蓋付きの豪奢な寝台が置かれていた。
そこにジェムが死んだような生気の無い顔をして横たわっている。
「うぅぅ…」
寝台の周りには王宮付きの御典医、ヤヴズ・レム、シャリーヤ、それと警護の白衛兵数名が顔を揃えていた。

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