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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 326

その問いにシャリーヤは静かに首を横に振って言った。
「…場所が場所ですので…切開して取り除く…という訳にも…」
一同は嘆息した。
「何て事だ…」
「手術が無理となると、出来る治療は限られて来るなぁ…」
「ああ、せいぜい薬で痛みを和らげつつ、ストレスを与えないようにし、その腫瘍が小さくなる事を願うばかりだ」
つまり人間本来の持つ治癒力に頼るしか無いという事である。
かなり消極的な治療であった。
そこに、ヤヴズ・オムが口を開く。
「…いや、このような難しい手術でも可能な医者を、私は一人だけ知っている…」
「そ…それは一体誰なのだ!?」
「ナスレッディン・ハジャ…イルシャ一の名医と名高い男だ。皆も聞いた事ぐらいはあろう?」
「ナスレッディン!?…駄目だ!あれは市井の町医者ではないか!」
「平民にジェム様を診させる訳にはいかん!」
大貴族の側近達は当然の如く反対した。
だがヤヴズ・レムが言う。
「い…いや、しかし…私は、ジェム様のお命には代えられないと思う…この際だ。もう身分にこだわっている場合ではあるまい…」
「うぬぅ…」
「……」
この意見には側近達も何も言えなかった。
「…決まりですな。では兵達に命じてハジャを連れて来させましょう」
言うが早いか、オムはさっそくそれを実行に移した(と言っても彼は命令を下しただけなのだが…)。
レムが心から嬉しそうに言った。
「良かったぁ…これでジェム様もきっと良くなられるだろう…」
だがオムは言う。
「まだ100%治ると決まった訳ではないぞ。あくまでもハジャならば治せる可能性が高いと言ったまでだ。ぬか喜びはしない方が良い…」
「そ…そうか…」
「そうだ…」
オムは他の側近達には気付かれぬよう“ちょっと来い”とレムを手招きした。
「…?」
レムも良く解らないながらオムに付いて行く…。

二人は庭園に面した回廊にやって来た。
辺りに人気は無い。
「一体何なんだい?こんな所に連れ出して…」
「話がある…」
「話?…あっ!い…言っておくけど僕はそっちの気は無いぞ!?」
「バカ!今後についてだ!」
「こ…今後…?」
首を傾げるレムにオムは話し出す。
「あぁ、そうだ。ジェム…あれはもう駄目だ。病が治ろうが治るまいが、もうあれには国を任せておけない…」
「い…いきなり何を言い出すんだ…!?」
「あれは物を知らないクセに…いや、だからこそ己を守るためか…プライドばかり無駄に高い。そしてそのために極度の人間不信に陥っている…最もリーダーに向かないタイプの人間だ」
「う…うむ…」
「やはりジェムは排除せねばならん。そしてファード王子を即位させ、ジャミーラ妃と我々による院政体制を……うっ!!?」
突然オムは言葉に詰まった。
背後に物凄い殺気を感じたからだ。
首筋に冷たい物を感じて視線を落とすと、後ろから伸びた白くしなやかな手が短刀を突き付けていた。
「あ…あぁ…あわわわわわ…」
レムもガクガクと震えながら腰を抜かしてその場にへたり込む。
「…二人でコソコソと抜け出したので念のためにと思って跡をつけてみましたが…やはり…」
その殺気の主…シャリーヤは静かに口を開いた。
「…あなた方がジェム様に対して含む所があるのは何となく察していましたよ。ジャミーラ妃殿下と何やら良からぬ事を企んでいた事もね…」
言いながらシャリーヤは短刀を持つ手に力を込める。
オムの首筋から真っ赤な鮮血がポタリポタリと垂れ始めた。
オムは震え上がる。
「ひいぃぃっ!!!?や…止めてくれえぇっ!!!と…とりあえず落ち着いて…は…話し合おうじゃないかぁっ!!!」
「おや…オム殿、何やら股の所が濡れていますが…よもや失禁でもされましたか?…そう言えば先程あなた、ジェム様を評して何と仰いましたかねぇ…“物を知らないクセに…いや、だからこそ己を守るためか…プライドばかり無駄に高い。そしてそのために極度の人間不信に陥っている…最もリーダーに向かないタイプの人間”…でしたっけ?…ハッ!偉っそうに…刃物を突きつけられたぐらいで震えて小便を漏らすようなガキが良く言いった物ですよ…」
「あぁぁ…ぼ…僕の言葉が気に障ったのなら謝りますうぅ!!!もう二度とジェム様を馬鹿にするような言動はいたしません!!もちろん逆らうような事もしません!!で…ですから…どうか許してくださいぃ!!い…命だけはあぁ…!!」
オムはオイオイ泣きながらシャリーヤに謝った。
だが彼女は冷然たるもの…。
「“僕”?…あなた一人称は“私”じゃありませんでしたっけ?…まぁ良いです…私はね、この世に許せない物が二つあるんですよ…一つはジェム様に逆らう者…そしてもう一つは、自分は良識と分別を弁えた大人だと言わんばかりに何でも知ったようなフリして上から目線で他人を評価する勘違い野郎です…そういう訳ですからオム殿…死んでください」
次の瞬間、シャリーヤはオムの喉笛を掻き切った。

 プシャアァァッ!!!!

「がはあぁ…っ!!!?」
鮮血が噴水のように噴き出しオムはガクリと崩れ落ちる。
「…あぁぁ……で…でも……この…まま……ジェム…では……イル…シャ……未来……無…い……」
オムは斬られた喉を押さえながら最期に何か訴えようとしたが、それは言葉にならなかった。
そのまま彼は血溜まりの中で息絶えた…。
それをシャリーヤは冷たく見下ろして言う。
「…本来なら反逆者としてあの真鍮の雄牛に放り込んでやる所ですが…ジェム様のお苦しみを取り除けるハジャという医者の存在について提言した事を考慮して私なりに慈悲を与えました…」

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