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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 325

所変わって…

‐ジャディード=マディーナ‐
王宮の広間には今日も今日とてジェムと側近達が渋い顔を揃えていた。
シャリーヤが報告している。
「…報告書にあります通り、ヤヴズ・ザム将軍は独断でナスィーム州都を放棄…イシュマエル・アクバル率いる軍勢15万は一度も刃を交える事も無くナスィーム州都を占領しました」
「うぬうぅ…ザムめえぇ…命を助けてやった恩を忘れおってえぇ…っ!!」
ジェムは眉間に深いシワを寄せ、片手で頭を押さえていた。
文字通り“頭が痛い”のだ。
ザムの助命を願い出たヤヴズ・レムはバツ悪そうにオドオドと口を開く。
「ま…まさかこのような事になるとは思わず…本当に何とお詫び申し上げれば良いやら…」
「……」
一方、同じく助命を進言したヤヴズ・オムは割と平然とした顔をして何も言わずに黙っていた。
そこへ…
「た、たた…大変でございますぅ!!!大執政閣下ぁ!!!」
息を切らせた文官が広間に駆け込んで来た。
「うぅぅっ…お…大声を出すな!…頭が痛いのだ…響かせるな…」
「こ、これは失礼いたしました…!」
「…で、何だ…?」
「はい…実は、我が国の西方海上にあるアナートリア藩国が、我が国に対して救援を求めて参りまして…」
「アナートリアが…?」
その国名にジェムも側近達も首を傾げた。

東西の大陸を隔てる海…通称“中央海”には無数の島々が浮かんでいる。
アナートリアはその一つであった。
ちなみに“藩国”とはイルシャ王に忠誠を誓う“藩王”によって統治されている属国で、イルシャ王国の周辺に複数ある。
“太守”との違いは、太守が王の臣下であるのに対し、藩王は王の同盟者の性格が強い。

「…で、救援を求めて来たとは一体どういう事だ?」
「それが…先月中頃、アナートリア島沖に突如としてゼノン帝国の艦隊が現れ、藩王との謁見を要求…そして藩王に謁見したゼノン帝国の大使は藩王に対し、ゼノン帝国皇帝への臣従、同島への帝国艦隊の駐留許可、さらには港湾建設地と労働力の提供を要求して来たそうです…」
「はあっ!!?」
「何だそれは!?」
「一体どういうつもりだ!?ゼノン帝国は!!」
皆は驚いて怒鳴り声を上げた。
「だ、だから大声を出すなと言ってるだろうが…っ!!」
「も、申し訳ございません、閣下…!」
「うぅぅ…っ!!」
両手で頭を抱え、辛そうに顔を歪めるジェム。
「だ、大丈夫ですか…!?ジェム様…」
シャリーヤが慌てて駆け寄り、ジェムの肩に手を置く。
「くっ…以前から時々頭が痛む事があったんだが…今日は特に酷いようだ…」
側近の一人が言った。
「お疲れなのではございませんか?少し休まれた方がよろしいかと…」
「休む…だと?」
ジェムはギロリとその側近を睨み付ける。
「その間の政務は一体どうするのだ…?」
「ご安心くださいませ。我々が滞り無く…」
「ならん!!!…あイタタタ…こ、国政は全てこの僕の認可を得た事のみ実行する事を許される…僕の目の届かない所で…僕の知らない所で何か事が進むなど絶対にあってはならない…僕はこの国の全てを支配する大執政ヤヴズ・ジェムだぞ…!?」
「「「……」」」
全てを掌握していないと気が済まない男…それがヤヴズ・ジェムであった。
しかし一国家の政務の全てとなると、その処理情報量たるや…完全に一個人の脳のキャパを超越しているのは明らかであった。
もちろん根底にあるのは人間不信である。
他人が信じられないのだ。
ヤヴズ・レムが相変わらずオドオドしたよな口調で言う。
「し…しかしゼノン帝国の意図は何なのでしょうね…やはり中央海の制海権を掌握する事でしょうか…?」
「…それもあるだろうが…」
ずっと何かを考えていたような素振りをしていたヤヴズ・オムが口を開いた。
「…それよりは“拠点”の確保という理由の方が大きいかも知れんな…」
「拠点!?…というと…貿易の…?」
「違う!軍事拠点だ!」
オムはキッパリと言った。
レムは真っ青になりガクガクと震え始める。
「そ…それは…中央海を行き来する商船を海賊などから守るのが目的で…?」
「我が国を牽制するために決まっているだろうが!!アナートリア島にゼノン帝国の軍が駐留するという事は、我が国にとって正に喉元に剣を突き付けられたようなものだ!!」
「うがああぁぁぁぁ〜〜っ!!!?」
突然、叫び声が響いた。
ジェムが奇声を発して腰掛けていた椅子から転げ落ちたのだった。
「あぁぁっ!!!?痛いぃっ!!!頭がぁっ!!!頭が割れるうぅっ!!!!」
「ジェム様っ!!!」
ジェムは頭を押さえて苦しがり、床の上をのたうち回った。

その後、ジェムは寝室へ運ばれ医者が呼ばれた。
少しして…
 キィ…
「皆様…」
「…おぉ、シャリーヤ殿!」
「どうなのだ!?ジェム様のご容体は…!」
ジェムの寝室から出て来たシャリーヤに、次の間で控えていた側近達が詰め寄る。
「…とりあえず御典医の処方した鎮痛剤を飲んで、今はお休みになっておられます」
「…で、頭痛の原因は一体何なのだ?」
「それが、御典医の話によると…脳内に腫瘍のような物がある…との事です。それが脳を圧迫して激痛を発生させていたと…」
ウマルを診た魔法医ナスレッディン・ハジャがそうであったように、この世界の魔法医は患部に手をかざすだけで体内の様子が解る。
皆は驚いた。
「何と…!」
「どうしてそのような物が…!?」
シャリーヤは難しい顔をして答えた。
「原因は“長期間に渡る連続した過度の精神的負担”だそうです…元から何の影響も無いくらい小さな物が存在していたのか、それとも新たに発生したのかは不明ですが、とにかくここ数ヶ月ほどで急成長したと…」
「そ…それは取り除く事は出来ないのか…?」

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