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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 33

タルテバは訳の解らない事を叫びながら旗を奪取し、ジェムの元へ向かってダッシュした。旗が青チームの人間の手元に渡れば赤チームは負けだ。
「ジェム様ぁ!!今旗を持って参りますうぅぅ!!」
「バカ!!僕じゃなくても良いんだ!!誰でも良いから青チームの人間に旗を渡せぇ!!」
だがその言葉はもうタルテバの耳には入らない。
(ジェム様に旗を!ジェム様に旗を!ジェム様に旗を!!)
彼の頭にはもうそれしか無かった。このままではジェムに自分の実力を認めさせるどころか、自分のせいでジェムを敗北に導いてしまう。そうなれば自分の輝かしい栄光の将来(予想)が潰えてしまう。それだけは何としてでも防がねばならない。挽回しなければならない。
…いや、何もタルテバだけではなかった。この場の誰もが心のどこかで政治的影響力の強い名門の子息であるジェムの心象を損ねてはいけないと思っていた。いかに白熱したとてその一点は常に心の片隅にあった。
だが、そんな事を気にも留めていない人間達だってもちろんいた。その一人であるセイルは木剣を振りかざしてジェムに飛びかかった。
「ジェム!!お前は一体どこまで腐ってるんだあぁぁ!!?」
「くそぉ!!」
ジェムは旗竿でセイルの剣を受けた。カァーンッ!!と木と木のぶつかる音が響き渡る…と次の瞬間、セイルはジェムが全く予期していなかった行動に出た。足だ。足でジェムの身体を蹴倒したのだ。
「ぐぅっ!?」
ジェムは地面に倒れた。
「ヒュゥ〜♪やるじゃねぇかセイル!」
パサンが言った。ジェムの持っていた旗が地面に転がる。
(これを取れば勝てる!)
セイルは旗に駆け寄ろうとした。だが…
「そうはさせるかぁ!!」
身を起こしたジェムがセイルの足を掴んだ。
「ぐはぁ!!?」
セイルは正面からハデに転んだ。

一方、赤の旗を持ったタルテバの前にはサーラとパサンが立ちはだかっていた。
「このクズ野郎!!一度ならず二度までも裏切りやがったな!?」
「私達の旗を返しなさい!」
「う…うるさい!常に強い者を見極めてその側に付く!人間として当然の行動だろうが!」
「そんなもんテメェだけだぁ!!」
まずパサンが、その後からサーラが木剣でタルテバに斬りかかる。
「いひいぃぃ〜〜っ!!?」
タルテバは奇声を発しながら次々と襲い来る二人の剣を紙一重でかわしていく。パサンもサーラも同期の中では五指に入る剣豪であり、その二人から逃げ続けるというのは何気に凄い。どうやら彼は“逃げ”に限って才を発揮するようだ。だがそんな彼の行く手に新たな相手が立ちふさがる。
「待ちやがれぇ!!タルテバぁ!!」
なんとそれはドルフだった。
「ド…ドルフさん!?何でだぁ!?あんただってジェム様には借りがあるだろう!!?」
「うっせぇ!!俺は裏切りとか謀略とか姑息な真似が嫌ぇなんだよ!!死ねえぇぇーっ!!!!」
ドルフはタルテバの脳天に会心の一撃を決めた。
「ぐっはあぁぁ…っ!!!?」
『アサド・タルテバ、死亡!』
タルテバは脳震盪を起こしてクラクラしながら光に包まれて騎士学校へ転送された。
「ガァーッハッハッハッハァッ!!どうだ!?この俺様の力を思い知ったかぁ〜!!」
腰に手を当てて高らかに笑うドルフにパサンが突っ込む。
「おい!それより旗だ!旗!」
タルテバが持っていた旗はあらぬ方向へ転がっていく。その先に居たのは…
「こ…これは一体どういう事!?ジェム様は!?」
そこに居たのは騒ぎを聞いて引き返して来たシャリーヤら青チームの主力部隊だった。
「マズいわ!まさか戻って来るなんて…!」
旗を拾われてしまう!…サーラは負けを覚悟した。
シャリーヤも足元に赤の旗が転がって来たのに気付く。彼女は旗に手を伸ばす。

一方、セイルとジェムは…
「くうぅ…は…離せぇ!!」
「誰が離すものかあぁぁ!!」
倒れながらも旗に向かって懸命に手を伸ばすセイル。そのセイルの腰にしがみつくジェム。旗はセイルの指先あと数センチの所だ。
「も…もうちょっとぉ…!!」
そしてついにセイルの手が旗を掴んだ。
『両者そこまで!!赤チーム、青チーム、同時失格!!』
彼らの頭上を舞う魔鳥が告げた。双方のチームから驚愕と落胆の声が漏れる。
「えぇ!!?」
「ど…同時!?」
「そんな事ってあるのかよ…」
つまりセイルが青の旗を手にしたのと、シャリーヤが赤の旗を手にしたのが完全に同時だったという事だ。これで双方失格となる。
『よって優勝はアル・ディーン率いる白チーム!!』
「「「「ええぇぇぇ〜〜〜〜っ!!!?」」」」
あまりにも予想外の幕切れに一同は声を合わせて叫んだ。

こうして、卒業試験は最初から最後まで不動を貫いた(何もしなかった)白チームの優勝という、まさかの展開で幕を下ろしたのであった…。

そして後日、騎士学校の卒業式に当たる“騎士号授与式”が厳かに執り行われた。
生徒達は騎士の称号と共に、その証であるイルシャ王家の紋章が入った剣を与えられ、同時に卒業後の任地を言い渡された。

こうしてセイル達の学生生活は終わったのである。

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