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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 320


地下水路を通って入って来たのは食糧、武器、生活必需品、嗜好品などの物資だけではなかった。
人だ。
ヤヴズ一族の支配を良く思わない者達が軍民を問わず続々とイルシャ=マディーナに集った。
その中には王族…即ちサーラの家族もいた。
だが彼ら彼女らに対してサーラはあまり良い顔をしなかった。
元々彼女は(自らも王族でありながら)王族が好きではなかった。
さらに自分よりも王位継承権が上の王族に対しては危機感すら抱いているようであった…。

‐サーラの執務室‐
「ユーナック、今日アーシア姉様がシャフリヤール兄様とシャーザマーン兄様の元を訪れたようだけど…」
「そうみたいだね…」
「…何を話していたと思う?」
「何をって…女官達の話だと、ただ一緒にお茶を楽しんだだけだって…」
「…いいえ!あの三人、どうもツルんで何かしようとしているような気がするわ!…シャーザマーン兄様は病弱で野心も無いから良いとして、問題はシャフリヤール兄様よ!あの人は第二王子だからアルシャッド兄様亡き今、実質、次の国王よ!私がイルシャ=マディーナを仕切っている現状が内心では面白くないはずだわ!」
「サーラ、落ち着いて…考えすぎだよ」
「いいえ!あの人はきっと私から政治の実権を奪い返すつもりよ!国民受けの良いアーシア姉様と接近してるのもそのためだわ!」
「あぁ、サーラ…あなた少し疲れてるんだよ。確かな根拠も無いのに、思い込みだけで人を疑うなんてサーラらしくないもの。…まぁ、ここの所ずっと軍務と政務に追われる日々だったからね。少し休んだ方が良いよ…」
肩に手を置いて優しく諭すユーナックに、サーラも少し落ち着きを取り戻したのか、溜め息混じりに言った。
「ハァ…そうね、確かに私は冷静じゃなかったわ。…前にセイル君が話していた事を思い出したわ」
「ヤヴズ・ジェムの事…?」
「ええ、ジェムは権力を握ってから次第に狂気じみてきたって…もしかしたらあの男も疑心暗鬼に捕らわれて変になってしまったのかも知れないわね…」
おかしな話だがサーラは仇敵であるはずのジェムの気持ちが今なら少し解るような気がした。
もっともジェムの場合、元々狂気を孕んでいたという話もあるが…それに関しては今あえて言う必要もあるまいと思うユーナックであった。
「とりあえずシャフリヤール兄様の狙いは密偵に調べさせるわ」
サーラは異母兄シャフリヤールを早急に始末せず密偵に調査させる事にする。
このサーラの堅実な判断にユーナックも賛成する。
「それが賢明だよ。今は問題を一つずつ片付けるのが一番だよ。」
「ユーナック、あなたの言う通りね。」
「そう焦りは禁物だよ。」
落ち着きを取り戻したサーラにユーナックはホッとすると。
サーラはセイルの姿が見当たらないことに気付く。
「所でユーナック、セイルくんはどうしてるの?」
「セイルならアルトリアちゃんと市街地内の警邏をしてるよ。」
「警邏?そんな事は下級兵卒にでもやらせておけば良いのに…」
「セイルが自分からやりたいって言ったんだよ。あの子、ここに来てから仕事無くて暇そうにしてたからね」
「そう?セイル君は私直属の騎士って事で常に側に置いておきたかったんだけどなぁ…」


その頃、セイルとアルトリアはイルシャ=マディーナの城下を巡回していた。
「相変わらずの賑わいだなぁ…今が戦争中だって事をつい忘れそうになるよ」
「ええ、食糧の他にも色々な物が入って来るようになって、市井の人々も更に活気づきましたからね…」
市場にも品物が豊富に並ぶようになった。
ふと思い出したようにアルトリアは言った。
「…それにしてもセイル様、新しいお仕事が見つかって本当に良かったですね!」
「…何その言い回し!?人に聞かれたら誤解されちゃうからマジやめて!」
「いや、だって今までのセイル様は食客という名のニートだったじゃないですか」
「に、に、に…ニートちゃうわ!」

二人がそんなバカな会話をしていると…
「おらおらぁ!!どがねぇがぁ!!こん庶民共がぁ!!」
「騎士様のお通りだべぇ!!道を開けやがれだべぇ!!」
「頭が高ぇだよぉ!!」
通りの向こうからイヤに態度のデカい騎士の一団が現れた(しかも何故か訛っている)。
「わぁ…嫌なヤツラが来やがった…」
「成り上がりの田舎者共め…」
「早く娘を隠せ…」
彼らを見た街の人々は、そそくさと警戒し始める。
セイルも嫌な気分になった。
その横暴な姿は亡き内務大臣ヤヴズ・ゲム(ミレルを攫ったやつ)を彷彿とさせたからだ。
「彼らは一体何者なんだ…?」
セイルの呟きに近くの露天商の店主が応えた。
「騎士様、ご存知ないんですか?あれはサーラ様の軍の兵士でございますよ」
「はぁ!?嘘だろ。サーラさ…いや、サーラ王女殿下の配下の兵士があんな…いや、そもそも彼らは到底騎士には見えないよ…」
「元からの騎士ではなく元農民でございますよ」
店主は言った。
「サーラ様の兵は正規の騎士ばかりではございません。このイルシャ=マディーナの都まで来られる間にサーラ様を慕う志ある民百姓達が続々と軍に加わったのです。そしてサーラ様はあの通りお優しいお方ですから、元からの兵士達も新たに加わった百姓達も、等しく“騎士”として扱われました…」

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