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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 319




…再びセイル達のいるイルシャ=マディーナ…。
現在この王都を包囲している20万の軍勢は、数は多けれど士気は低かった。
指揮官である太守達はもともと特にジェムを支持していた訳ではなかった。
ただ成り行き上、家と領地を守るために惰性で仕方無くジェム側に付いたというだけだった。
指揮官クラスからしてそんな具合だったから、兵士達は尚更だった。
彼らは臣下の身でありながら王家を蔑ろにし、国を私物化して民を虐げる肝臣ヤヴズ・ジェムなどより、王族でありながら庶民派のサーラ王女の方がよほど親しみ深く感じていたのだ。
セイルとアルトリアが包囲を突破出来たのも、彼らに本気で止める気が無かったからなのだ…。

一方、立て籠もる側のサーラ達は、何とか外部と通じる手段は無いものかと探っていた。
国内の他の反ジェム派と連絡を取りたかったし、何より武器・食糧の備蓄の残量が厳しくなって来ていた。
何せ軍・民合わせて40万の大所帯である。
いくら士気が高くとも腹が減っては戦えない。

幸いにして手立てが全く無いという訳ではなかった。
王都内には大小いくつかの河川が流れ込んでいる(王宮周りの堀の水もここから引いていた)。
その部分は城壁の下部に鉄柵がはめ込まれており、人が通り抜けようと思えば不可能ではなかった。
また、この世界では未だ画期的な事に、イルシャ=マディーナには既に上下水道が整備されていた。
それは王都郊外の山中にある水源地から、地下を通って王都内に生活水を供給し、また汚水を別ルートで郊外の河川へ排出していた。

「この地下水道が使えるわ!」
これに目を付けたサーラは、さっそく部下に命じて補給路として使えるか調査させた。
特に食糧を運び込む都合上、衛生面から上水道の方が有力視された。

結果は…ビンゴ。
敵は王都から十里以上も離れた地下水道の入口の方までは無警戒だった。
…いや、本当は思い至った者もいたはずだが、あえて誰も手を回さなかったか…あるいは気付いて進言する者があっても握り潰されたのかも知れない。
それぐらい包囲側は、もうやる気が無かったのだ…。

…という訳で20万の軍勢による包囲は意味を為さなくなった。
何せ地下水路を通っていくらでも出入り出来るのだから。

…とはいえイルシャ王国全土が食糧不足の現状、食糧の補給だけはそう簡単にはいかなかった。
「こうなったらもう国外に頼るしか無いわ!」
サーラは決意した。
「国外…というと西大陸ですか?」
側近の一人が尋ねる。
「西大陸だけではないわ。東方のオアシス諸都市、北方蛮族、南方蛮族…あらゆるルートを駆使して食糧を輸入するのよ!」
「何と…!?」
「誇り高きイルシャ騎士が蛮族共から食糧を買うのですか!?」
「誇りですって!?もうそんな事を言っていられる状況じゃないのがまだ解らないの!?事は私達だけの問題ではない…このままではイルシャ全土が飢えるのよ!」
「「「…っ」」」
側近達も何も言い返せなかった。

そして、それが為された。
商人達とも協力し、イルシャ国外からの“援サーラ・ルート”が構築された。
それは結果としてイルシャ=マディーナの食糧倉庫のみならず、ルート周辺の村や街をも潤していった…。
ただ、西大陸ではゼノン帝国皇帝パウロの妨害で思ったより食料は余り購入できなかった。
しかし、西大陸南部で勢力を伸ばしている反パウロ勢力の指導者として活躍してる旋風のエルティアはサーラたちの苦境を見過ごせず密かに食料を送り届けた。
この支援が意外な形で協力関係になるのをサーラもエルティアも気づいてなかった。

旋風のエルティア…その名は以前にも何度か作中にて登場しているので覚えている方もあろう。
もともと剣闘士奴隷だった彼は、今やゼノン帝国の圧政に苦しむ西大陸の民衆達の間で“反ゼノン”の象徴となっていた。
そして彼はゼノン帝国の勢力範囲外である西大陸南部(小邦乱立状態)で一大勢力を築きつつあったのである。

話を戻そう。
援サーラ・ルートの構築によって少しずつ…だが確実に国内は潤い始めた。
またサーラは協力する商人達に金を出し惜しみしなかったので、商人達も全力でルート構築に努めた。
彼女は金の使い所を良く弁えていた。
確かに軍資金は重要だが、それも命あってのモノダネだ。

再び埋まっていく食糧倉庫を見て、ユーナックはサーラに言った。
「一時は奥の壁が見えるほど備蓄が少なくなって、どうなる事かと肝を冷やしたよ」
「どうやら軍馬を食べずに済みそうね」
そう言ってサーラは笑った。

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